第4話

文字数 745文字

 健人はアパートに戻ると缶ビールを一気に飲み干した。
 今日の一日を振り返り
(よし、自分にもやっと運がむいてきたぞ)と思った。今までネットで求人応募し、ことごとく全滅、求人誌も何冊も丸めてゴミ箱へ放り投げた。
(もうダメだ……また今週も授業に身が入らない)と弱音をはいていたのは二時間ほど前の自分。
 今日の一日の展開は我ながら見事だった。

 健人はシャワーを浴び、明日の授業の準備を済ませた。そして、ユリにラインで報告をした。ユリは北海道に残してきた幼馴染の彼女だ。高校二年から付き合っている。なんでも話せる仲で、ここ一ヶ月ほどは、バイトが決まらないという、不甲斐ない自分の愚痴ばかりを一方的に聞いてもらっていた。
 夢の学生生活の話よりも、愚痴の方が多かったのだから、そろそろ愛想を尽かされるのではないかと内心はらはらしていたのだ。だから健人は、誰よりも先にユリに報告し、喜んでもらいたかった。
 夜十時。
(まだ起きている時間だな。声も聞きたいし電話してみよう)
 健人は、テレビのスイッチを入れながらスマホを手に取った。
 一コール、ニコール、三コール……とコール音だけが虚しくアパートの室内に鳴り響いた。確認すると、さっき送ったラインも既読になっていなかった。
(もう寝ちゃったのかな)

 テレビのニュースでは、国際児童フォーラムが来月、東京で開催されると伝えていた。
 コロナ禍で、人が集まるイベントがここ二、三年は中止になっていたが、ようやく空の道も開かれ活気が戻ってきた感じだ。
 日本国内のイベントも連日、大勢の客が集まり盛況ぶりを伝えていた。
 大学もオンラインではなく、教室での授業に戻っている。
 どこのサークル活動も盛んなようだ。そんな日常のニュースを見ていたらスマホが鳴った。ユリからだった。
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