第14話
文字数 1,628文字
「まかせろ」なんて言い切ったものの、海斗のお母さんにどんな風に伝えたらわかってもらえるのか、見当も付かなかった。
自分を奮い立たせることができたが、さっきまでの熱い思いは持続していない。海斗がドアの中へ入り、一人になったその次には、もう怖くてたまらなくなっている。
「海斗がいないとダメなのかよ、俺は……」
今の俺に力をくれるのも、勇気を出させるのも、青臭いことを頑張れるのも、海斗の存在が大きい。海斗がいてくれるからこそだ。
情けないけど、悔しいけど、俺はまだまだ、どうしようもないガキだ。
今夜の計画を絶対に決行したいという強い気持ちと、反対されたらどうしようという弱い気持ちが、交互に顔を出して、俺は自分の足下を見つめる。
「こんな時間に、うちに用かい」
全身を緊張させていた俺は、背後からの声にひどく驚いた。
振り向くと、スーツ姿の男の人が立っていた。駅の方から歩いて来たようで、俺をじっと見た後、白い建物を見上げる。俺はその顔に見覚えがあった。
海斗の、お父さんだ。
「あれ、君は」
「こんばんは。あの、俺、田神 歩夢 です。海斗くんと同じ小学校で、ずっと一緒に塾へ通ってて……」
俺はつっかえそうになりながらも、何とか言葉を発した。
「ああ、君が歩夢くんか」
おじさんは目を細めて俺を見た。一歩一歩しんどそうに歩くから、相当疲れているのかもしれない。
けれど、こんな迷惑な時間帯にも関わらず、俺に向ける視線は優しく感じられる。
ああ海斗は、こんな優しい雰囲気のお父さんが、大好きなんだろうなとわかった気がした。
「海斗を待ってるの?」
「はい、あの……」
どうしよう、おじさんに話してみようか。
だがおじさんとおばさんはいま、険悪な状態なんだろうし、この計画のせいで余計拗 れることになったら、星空観察どころじゃなくなってしまう。
でも俺は、海斗の笑顔が見たい。海斗のためだけじゃなくて、自分のためにも海斗との思い出が欲しいんだ。
「あの!」
口から心臓が飛び出しそうだった。
ドアに手をかけようとしたおじさんは、俺の声に振り向く。
「今夜、これから、海斗くんを俺の家に泊めたいんですけど、その……許可してもらえませんか」
おじさんは目を見開く。その表情は海斗によく似ていた。
「君のところへ? 大丈夫なのかい、お家 の方には……」
「親の許可はとってあります。うちは清瀬団地なので、場所は近いです」
「ああ、あの大きい団地かい」
「はい。あの……海斗くんが引っ越すって聞いて。それで、俺たちは学校も別々だから、話したいことがたくさんあるんです。だから、今夜だけお願いしたくて、海斗くんにおばさんを呼びに行ってもらってるんです」
おじさんは少し困ったような顔をした。
「歩夢君くんのお家 なら、大丈夫かな……」
おじさんは、少し考えているようだった。疲労からか、丸くなっていた背中をゆっくりのばして「ふう」とつぶやいた。
「いいよ」
俺は思わずその場でジャンプしそうになった。
「本当ですか、ありがとうございます!」
「うん、……海斗の母親には私から話しておくから」
――あ……。
大丈夫なんだろうか。
でも俺みたいな子供が、おじさんとおばさんの関係を心配しても役に立たつわけがなかった。
仲の良い自分の両親しか知らない俺に、何ができるんだ。
「少し待っててね」
「はい!」
よかった、嬉しい。
俺が心底ほっとしていると、玄関に入ろうとしていたおじさんは、振り向いて俺に言った。
「歩夢くん、距離は離れてしまうけど、これからも海斗の友達でいてやってくれないか。あの子は、君が大好きだから」
「……はい」
俺は胸がいっぱいで、それ以外に言葉が出てこなかった。
自分を奮い立たせることができたが、さっきまでの熱い思いは持続していない。海斗がドアの中へ入り、一人になったその次には、もう怖くてたまらなくなっている。
「海斗がいないとダメなのかよ、俺は……」
今の俺に力をくれるのも、勇気を出させるのも、青臭いことを頑張れるのも、海斗の存在が大きい。海斗がいてくれるからこそだ。
情けないけど、悔しいけど、俺はまだまだ、どうしようもないガキだ。
今夜の計画を絶対に決行したいという強い気持ちと、反対されたらどうしようという弱い気持ちが、交互に顔を出して、俺は自分の足下を見つめる。
「こんな時間に、うちに用かい」
全身を緊張させていた俺は、背後からの声にひどく驚いた。
振り向くと、スーツ姿の男の人が立っていた。駅の方から歩いて来たようで、俺をじっと見た後、白い建物を見上げる。俺はその顔に見覚えがあった。
海斗の、お父さんだ。
「あれ、君は」
「こんばんは。あの、俺、
俺はつっかえそうになりながらも、何とか言葉を発した。
「ああ、君が歩夢くんか」
おじさんは目を細めて俺を見た。一歩一歩しんどそうに歩くから、相当疲れているのかもしれない。
けれど、こんな迷惑な時間帯にも関わらず、俺に向ける視線は優しく感じられる。
ああ海斗は、こんな優しい雰囲気のお父さんが、大好きなんだろうなとわかった気がした。
「海斗を待ってるの?」
「はい、あの……」
どうしよう、おじさんに話してみようか。
だがおじさんとおばさんはいま、険悪な状態なんだろうし、この計画のせいで余計
でも俺は、海斗の笑顔が見たい。海斗のためだけじゃなくて、自分のためにも海斗との思い出が欲しいんだ。
「あの!」
口から心臓が飛び出しそうだった。
ドアに手をかけようとしたおじさんは、俺の声に振り向く。
「今夜、これから、海斗くんを俺の家に泊めたいんですけど、その……許可してもらえませんか」
おじさんは目を見開く。その表情は海斗によく似ていた。
「君のところへ? 大丈夫なのかい、お
「親の許可はとってあります。うちは清瀬団地なので、場所は近いです」
「ああ、あの大きい団地かい」
「はい。あの……海斗くんが引っ越すって聞いて。それで、俺たちは学校も別々だから、話したいことがたくさんあるんです。だから、今夜だけお願いしたくて、海斗くんにおばさんを呼びに行ってもらってるんです」
おじさんは少し困ったような顔をした。
「歩夢君くんのお
おじさんは、少し考えているようだった。疲労からか、丸くなっていた背中をゆっくりのばして「ふう」とつぶやいた。
「いいよ」
俺は思わずその場でジャンプしそうになった。
「本当ですか、ありがとうございます!」
「うん、……海斗の母親には私から話しておくから」
――あ……。
大丈夫なんだろうか。
でも俺みたいな子供が、おじさんとおばさんの関係を心配しても役に立たつわけがなかった。
仲の良い自分の両親しか知らない俺に、何ができるんだ。
「少し待っててね」
「はい!」
よかった、嬉しい。
俺が心底ほっとしていると、玄関に入ろうとしていたおじさんは、振り向いて俺に言った。
「歩夢くん、距離は離れてしまうけど、これからも海斗の友達でいてやってくれないか。あの子は、君が大好きだから」
「……はい」
俺は胸がいっぱいで、それ以外に言葉が出てこなかった。