第6話 

文字数 923文字

「ねえねえ君! 一年生の田神(たがみ)くんだよね」
 
 昼休み、教室を出たところでいきなり声をかけられた。

「はい。あの、なんでしょうか」
 
 知らない顔だし、何より高等部の制服だった。

「いきなりごめんね~。知らないヤツに声かけられたらビビるよねえ。あ、俺は高等部二年の草本(くさもと)。田神くんさあ、前にうちの部の見学してくれたよね」

「うちの部?」

「あ、天文学同好会」
 
 合点がいった。けどそれなら「うちの部」じゃなくて「うちの同好会」じゃないのか。

「いや、うちの部さあ。一学期は新入部員一人も入らなくてね。高一なら中学から上がって来たヤツがいるけど、中等部全滅でさ。で、これは偶然なんだけど、早い時間に下校する田神くんを何度か見かけたものだから、ひょっとしてまだどこにも所属してないのかなーとか思って。それで中等部の校舎まで押しかけて来ちゃったというわけ」

「はあ……」
 
 草本と名のった先輩は、大げさにうんうんと頷きながら、スクエアタイプの眼鏡を指でくいと押し上げ腕を組んだ。
 
 視線の位置が俺より低いし体の線が細いから、中等部の制服を着ても違和感がなさそうだ。

「単刀直入に言うよ。まだ決めていないなら、ぜひ、わが天文学同好会へ来てくれないか! 歓迎するよ、田神くん!」
 
 俺の肩にガシッと手を置き、草本先輩はわざとらしい笑みを寄せてくる。笑顔なのに眼鏡の奥は笑っておらず、実に奇妙なバランスをたたえる顔だ。
 
 天文学同好会に興味をそそられない上に、腹の中が得体の知れない人物とお近づきになる趣味もなかった。

「あの、お断りします」

「ええー! 即答? え、なんでなんで? もうどこかに決めちゃった?」
 
 草本先輩は、口元だけはムンクの叫びみたいに上下に引き伸ばし、高い声を上げた。声の抑揚が激しいから、ひどく(にぎ)やかな感じがするんだなと、気づいた。

「まあ、そんなところです。俺、係の仕事があるので失礼します」

「あ、ちょっと、田神くん!」
 
 俺は(きびす)を返し、教室へ入った。

「俺はあきらめないからね~」
 
 背中に投げられた声は、聞こえないふりをした。
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