第1話~プロローグ~

文字数 314文字

 低く叫んだ声に引きずられ、飛び起きた。 
 自分の喉から吐き出された声が何を言ったのか、覚えていなかった。 
 
 楽しい内容じゃないのはあきらかで、胸は苦しくてヤモヤするし、泣きはらした後のような妙な余韻(よいん)が残っているし。額に手を当てればびっしり汗の粒を捉えた。
 
 季節は春を通り過ぎたばかりの、涼しい朝だというのに。
 
 目覚める直前までは、確かに内容を覚えていたのに、起き上がってしまうと、潮が引くように思い出せなくなっている。

 まぶたが開いて、自分の部屋と夢の映像が重なって見えた瞬間に、スイッチが切れたように忘れてしまうのだ。 
 
 楽しい夢なのか、悲しい夢なのか……それすらも思い出せなかった。
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