23 友情とともに
文字数 7,093文字
すっかり日の落ちたフランスの某地。
そこで僕はかつての友と銃を向け合っている。
薄々わかってはいたのだ。
次彼と再会する時、僕たちはきっと敵同士なのだと。
「1人なんだな。…お友達はもういないのか?」
彼は片側の頬を釣り上げながら笑う。
「そうだね。…君が羨ましいよ。これだけ仲間がいたら寂しくはなさそうだ。」
闇のまた向こう、ぼんやりと散っている人間達の気配を背に僕は言う。
「俺たちが会うのは…いつぶりだ?随分経つよな。」
「もうすぐ1年…かな。僕は牢にいたからもっと短く感じたけど。」
「なあ…俺たちはずっと一緒にいた。離れたことなんてなかったはずだ。それだけお互いのことをよくわかっていたし、最高の仲間だった。俺は1年も離れ離れなんて耐えられなかったぜ、お前もだろ?」
皮肉いっぱいの言葉だ。
「僕を殺す前のセリフとしては不合格だよフィクサー。こんな状況で友情を語るなんて。」
僕はさりげなく視線を周囲へ移す。
「殺す…か。」
「違う?元々はフランクフルトで手にかけるつもりだったんでしょ?Argosが使えない中、よく僕を見つけたね。」
僕の問いを彼は再び鼻で笑う。
「別に、お前のArgosの通信が途絶した位置から逆算して居場所を推定しただけだ。フランクフルトだけに張っていたわけじゃない。何箇所かへ仕込んだ罠に、お前がかかったというだけさ。」
…やはり僕のArgosは監視されていたか。
まだネメシスにいたどこかのタイミングで、発信源を仕込まれてしまったのだろう。
彼は想像以上に僕のことを知っている。
隠し事など、まるで無意味だったほどに。
「罠?その割には随分お粗末だったね。」
僕は会話をしながら別のことへ頭を巡らせていた。
フィクサーの周囲5mには眼を凝らす限り誰もいない。
推測するに、彼を頂点として仲間達は扇形に展開しているのだろう。
僕を挟み込む形だ。
「あの騒ぎは目眩しさ。お前が1人孤立するところを狙って、俺が直々にお迎えに上がる段取りだった。実際お前に弾は当たっていないだろう?唯一生じたイレギュラーといえば、お前が1人じゃなかったことだ。」
「…それは僕にとっても同じさ。」
「あのお友達とはどうしたんだ?喧嘩でもしたか?」
「…聞くなよ。興味ない癖に。」
「まあ、そうだな。」
僕と彼が立つこの場所を照らしている灯りは、一つだけだ。
それは僕から見て11時の方向。
もし仮にあれを撃ち抜くことができれば、僕たちは瞬間闇の中へ消える。
「…どうしてこの街で僕を見つけられた。」
「ふん、俺がお前の嘘に気づけないとでも?」
「いいや。でもあの通りで僕を囲めたということは、相当場所を絞れていたはずだ。大聖堂にいたことにも、気づいていたんじゃないのか?」
「おう。お前は好奇心旺盛な人間だ。クリスが連行された時も、結局お前は自分自身の欲を我慢できずにダクトから出てきただろう。そういう人間なんだよお前は。だから絶対何処かから俺たちを見ていると思った。広場を一望できる場所なんて一箇所しかないからな。」
造られた僕 なら…来た道を戻って公園を出るくらいの視野はあるだろう。
問題は一つだけ。
「そんなにベラベラ喋って大丈夫?姿を晒しただけでも情報過多なのに。」
「ふん、随分と楽観的だな。あるのか?ここから形勢逆転する一手が。」
——視野があるのは、フィクサーも同じなのだ。
「ないよ。でも死にたくない。」
僕は銃をよりぎゅっと握りしめ、声を震わせる。
背後から僅かに砂利を擦るような音がした。
彼らに近づかれすぎたら本当に詰みだ。
フィクサーとの一対一を制することが、この状況下の最善手。
ただ新たに重大な問題が一つ浮かび上がってきた。
電灯を狙う関係で、必ず僕が一手後手に回ってしまうのだ。
「あぁわかってるさ。…その銃を下ろせ。俺だって友達を撃ちたくない。」
「下ろしたら、僕はどうなる。」
半分本心だった。
「しばらく俺に付き合ってもらう。悪いが大事な”お約束”には間に合わないだろうな。代わりに安全かつ快適な空間を提供すると約束しよう。」
「計画の邪魔が君の復讐か。」
「…どうとでも言え。俺の命は世界のためにあるわけじゃない。自分の行動くらい、自分の意思で決める。」
「大統領専用回線をジャックしたのもその理論ってわけか。」
「おう。」
「なあ、ちょっとはおかしいと思わないの?ギブスが本当に自分の望みを通したいと考えていたなら、クリスをわざわざ殺したりなんてするはずないだろ?」
「だが殺した。」
「何か裏があるのかもしれない。…聞いてたんでしょ。ギブスとの電話を。彼の言葉を。」
「あんなのいくらでも言えるだろ、あいつなら。」
「今、彼は身分も命も追われて身を隠してるんだよ?世界を手にしたのは彼じゃない。結果として、僕たちが宙で思い描いた陰謀は成立しなかったんだよ。」
「…GRAに裏切られた可能性だってある。」
「フィクサー!」
「うるせえ!ここで死ぬのか大人しく武器を下ろすのか、さっさと選べっ!」
だめだ。
今はどうにかして、彼の銃に少しでも下を向いてもらうしかない。
そのためには、降参するほかないのだ。
僕は口をつぐみ、渋々答える。
「…わかった。下ろすよ。」
「賢明だ。」
ゆっくりと僕は右腕を下ろしていく。
彼は、まだ僕へ銃を向けている。
「俺たちが宙で最後にあった日のこと、覚えてるか?」
「…君が檻の中の僕を笑いに来たあの日?忘れるわけないさ。」
「ふん、お前らしい言い草だ。」
「…。」
「本当に、こんな日が来るとはな。きっと俺たちは成長したんだ。…そう思わないか?」
「…黙れ。」
フィクサーは笑う。
「その様子じゃ、これからも友達でいようだなんて俺に言わせてくれそうもないな。」
「…。」
「おい。」
動きを止めて彼を見る。
丁度腰のホルスターへ腕を伸ばしかけたところだ。
「武器は地面に捨てろ。そんな甘い考えお見通しなんだよ。」
「…っ!」
だめだ。
捨ててしまったら、もう抗えない。
左腕が使えれば…こうはならなかったのに…!
どうする?
この先のチャンスに賭けるか?
いや、彼に身を委ねるなんていつ死ぬかわからない。
でもまだ彼の銃口は僕の脳天を捉えている。
僕に勝ち目はない!
「あれは…?」
その瞬間、僕とフィクサーの間を黒い影のようなものが素早く横切った。
そして硬い何かが激しくぶつかったような音。
…刹那僕も、彼も、呆気に取られていた。
フィクサーの手から、握られていたはずの拳銃が消えている。
何が起こったのかわからない。
でも今がチャンスだ!と頭の中で声が響いた時、まるで背中を押すように聞き覚えのある音が耳に入った。
「ニゲロ!ニゲロ!」
バサバサと羽をはためかせ、今度はフィクサーの頭目掛けて襲いかかるその姿は、確かにリュジーで籠から出した…あのカラスだ!
僕はすぐさま11時の方向目掛けて狙い撃った。
そして彼と僕を照らす唯一の光がその命を終える。
走れっ!
僕は正面突破し、フィクサーの脇をすり抜けた。
この薄闇の中で僕以外に唯一視界を持つ彼は、今カラスに手を焼いていてそれどころではない。
「だめだ撃つなっ!生捕りにしろ!追いかけるんだっ!…あぁくそっ!」
悲鳴に近い声で彼は叫んだ。
元来た道を戻り、公衆電話のあった通りへ出る。
この街を出なければならない。
…今すぐに。
「エレンっ!!!」
僕は彼の声から逃げるように走った。
どこに向かえばいいかもわからない。
一度状況の立て直しができそうな、落ち着いた場所を求めて。
でもいくら走れどそんな場所は見つからなかった。
…これまでだって感じてきたのだ。
地上に降り立ったその時から、もうこの星は僕にとって安住の地ではなくなってしまったのだと。
故郷だったこの場所 も、今や”戦場”になってしまったのだと。
でも一度逃げ出してしまったら、僕は永遠に負け犬として生きなければならなくなる。
だからずっと戦い続けてきた。
周りの目を気にして、自分の過去を背負って。
勝ち目などないとわかっていても、この世界がいかに狭いものかよく知っていても。
自分の心ばかりの正義を燃料にして。
——もう限界なのかもしれない。
万策尽きかけている。
僕の使い得る通信手段は全て傍受されているのだ。
さっきの騒ぎで地元警察も大きく展開しているだろう。
後ろにはフィクサーたちが迫っている。
そして今使えるのは右手だけ。
Argosもオフラインだ。
僕は集合住宅のゴミ捨て場の物陰に滑り込み、天を見上げる。
白くて綺麗な星の粒たちが、真っ黒な空を背に十人十色で輝いていた。
…先人たちはこんな光の羅列を、動物や小道具に例えていたんだっけな。
あの中に、ネメシスもいるのだろうか。
「オイ!ウゴケ!ウゴケ!」
突然の甲高い声に心臓が跳ね上がる。
“それ”はいきなり空からやってきては大袈裟に羽をバタつかせ、鉄でできた大きなゴミ箱の蓋の上に乗った。
「だめだよ静かにして。目立っちゃうでしょ。」
「イクゾ!イクゾ!」
「…どこに。行くあてなんてないだろ。」
「ツイテコイ!ツイテコイ!」
彼(?)はそう叫ぶと再び大きな羽を広げて舞い上がる。
月明かりに照らされたその毛並みは…刹那宝石みたいだった。
実際、無茶苦茶なこと言っているカラスとはいえ、一度彼に僕は命を救われている。
どうやって僕の居場所を知ったのかは知らないが、他に賭けられるものもない。
…行くしかなさそうだ。
僕は薄汚れた地面から立ち上がり前を向く。
彼はまだ僕が動き出すのを待ってくれていた。
「…行こうか。」
裏路地を飛び出し彼の飛びゆく方向へ、僕は走る。
自分の考えに基づいていない。
あらゆる可能性があった。
いつゲームオーバーになるかもわからない。
目隠しをして走っているような気分だ。
…いうまでもなくこんなことは初めてで、でもどこか楽しんでいるような自分もいた。
落書きだらけな横幅の細い通りをいくつも曲がり、人目を避けて進む。
少しずつ、喧騒に近づいてきたようだった。
すると先を行っていた彼が、踵を返してこちらへと戻ってくる。
察した僕は物陰に体を隠し、しばらく先の大通りを見つめた。
…パトロールカーだ。
鳥籠の中のカラスにも、あれがやばいことは理解できるんだな。
だがどうする?
この辺りの区画は大通りに囲まれている。
庭園の方へ戻れば迂回することもできそうだが、いうまでもなく危険だ。
すると彼は少しずつ高度を下げ始めた。
視界の向こう、廃屋の先で僕は彼を見失う。
そこは廃屋の駐車場だった。
「ココニイロ!ココニイロ!」
「ちょっと待って、どういうつもり?」
「カクレテロ!ココニイロ!」
「いや待ってくれ…待てってば!」
僕の叫びも聞かず、彼はまたどこかへ飛び立っていく。
冗談だと言って欲しかった。
思わずため息が出る。
…結局、何も変わっていないじゃないか。
せいぜいゴミ捨て場が駐車場になっただけだ。
交通量の多い通りが近いからか、さっきのゴミ捨て場よりも幾分騒がしい。
そのせいで気持ちもそわそわした。
廃車の影に隠れながら、右手で拳銃を握りしめる。
…10分待って戻らなければ、待たずに動こう。
かと言ってどこへ行けば良いかはわからない。
一か八か、大通りを突っ切るか。
それで運良く包囲を抜けられれば、異なる選択肢を新たに取ることができるかもしれない。
まずは現在位置や状況を把握するために、データプールへ接続する術を探すのだ。
自販機でも、冷蔵庫でもいい。
何か、オンラインになっているものを見つけることができれば…。
「そこにいたかっ、エレン!!」
僕は驚いて立ち上がる。
振り向いた視界には、物凄い勢いでこちらへと駆け込んでくるフィクサーの姿。
…まずい!
僕は生存本能から拳銃を彼へ向ける。
「…!」
蹴り上げた彼の右足が、僕の”命綱”を右手から弾き飛ばした。
咄嗟視線が宙を舞う拳銃へ泳いでしまう。
その隙に、彼はさらに一歩距離を詰める。
僕は抵抗できないまま、喉元を鷲掴みにされ廃車へと押し込まれた。
「…俺と共に来い。もう諦めろ!」
叫ぶ彼をよそに僕は下半身へ目一杯の力を込める。
「うっ…!」
突き出した僕の右膝が、彼の腹部を直撃した。
続くように右足を伸ばし、彼の上体を蹴り飛ばす。
そして食いしばるような彼の呻き声とともに、僕は拘束から解かれた。
瞬時に左右を確認した。
武器になりそうなものはないか?
拳銃が転がっているのは遥か先だ。
リュックを開けている余裕はない。
ふと、廃車から鉄筋が突き出ているのを僕は見つけた。
…右手でそれを掴み、力強く引き抜く。
僕のそんな姿を見て、彼も地面に転がっていた鉄パイプを拾い上げた。
「…やる気か?」
「君がその気なら。」
「ふん…!」
雄叫びをあげ、彼が向かってきた。
右腕を前に出し臨戦体制を取る。
フィクサーは両腕でパイプを握り直し、手を胸の前まで引いた。
…違う。
危ないっ!
思いっきり前へ突かれたパイプを、すんでのところで僕はかわす。
中途半端に欠けて尖った先端が、後ろの廃車の窓を突き破った。
僕は伸び切った腕めがけて鉄筋を振り下ろす。
だがこれは彼の想定内だったようだ。
すぐさま腕を引っ込められ、この一撃は防がれてしまった。
鉄と鉄のぶつかる衝撃で、僕の右手が強く戻される。
それを見た彼はすかさず言った。
「エレン、左手はどうした…?」
…。
刹那振り上げられたパイプを僕は咄嗟に鉄筋で受け止める。
だが右手だけでその力を支え切れるはずもなく、またしても僕の武器は遠くへと吹き飛んでいった。
「…許せエレン。」
大きく振りかぶった彼の、空気を裂く音が耳に届く。
僕は咄嗟に右手で自分の動かない左手首を掴んだ。
「…!!」
強烈な衝撃が義手を介して右腕へ伝わる。
だが振り下ろされた鉄パイプを、確かに義手がしっかりと受け止めていた。
「…やるじゃないか。」
僕は両手でそれを跳ね除け、もう一度彼の腹部めがけて右足を伸ばす。
しかし今度は彼に距離を取られ、空振りに終わった。
彼は右から左に鉄パイプを薙ぐ。
瞬間リュジーでの出来事が脳裏に浮かんだ。
…あの時と同じ。
それは僕の20cm以上手前を遠く通り過ぎていく。
今度は、上から下へ振り下ろして見せた。
半歩僕は後ろへ下がり、直撃を免れる。
「ヤメロ!ヤメロ!」
どうやら帰ってきたようだ。
だが今僕はそれどころじゃない。
彼は今、右から左へ再び薙ごうとしている。
僅かしか無いチャンス。
…ものにするしかない。
「うおおおっ!」
彼は絶叫しながら一歩踏み込んで、そして思いっきりパイプを振った。
僕は刹那歯を食いしばる。
覚悟しろエレン。
…流石にこれは、痛いぞ。
「!!!!!!!」
あああああああっ!!
痛いっ!!!
固くて重たい衝撃が、僕の小さな右掌へと集まった。
なんならそのまま手首から弾けて飛んでいってしまいそうだ。
でも残された手の微かな感覚でわかった。
腐敗した金属片が刺さったり、骨が折れたりはしていない。
これはただ、"痛いだけ"だ。
であるならば、まだ望みはある。
僕は彼の鉄パイプをそのまま右手でがっしりと掴んだ。
もし左手ならばリュジーのようになっていたはずだが、今回は素手だ。
もう技術者もひったくれもない。
僕は思い切り右腕全体に力を込め、握りしめた鉄パイプごとフィクサーを引き寄せた!
あまりに一瞬の出来事で展開を予期していなかったのか、思いのほか彼は素直に体勢を崩す。
そしてそんな彼を迎え入れるかの如く…僕は下半身と腹筋に全筋力を集中させ、素早く頭を振りかぶってフィクサーの元へと飛び込んだ!
「…んああっ!!」
僕の石頭が彼の鼻付近に直撃した。
不意打ちを喰らった彼は、うめき声を上げながら顔を押さえて後退りする。
「ウエミロ!ウエミロ!」
咄嗟に見上げると、あのカラスが僕の弾かれた拳銃を足に掴んで飛んでいた。
その力が緩み…拳銃は垂直落下を始める。
僕は震えて感覚のない右手でなんとかそれを受け止め、グリップを握り直す。
まもなくフィクサーが体勢を整えてこちらを見た。
…どうやら状況を察したようだ。
「オリバー!!」
…!?
突如どこかから耳へ飛び込んできた聞き覚えのある大声に、僕は動揺する。
その源はいつの間に現れたセダンの窓から顔出し手を振る、男の姿だった。
——セバスチャン。
戦闘に夢中で全く気づいていなかったが、つまりカラスが導いてきたのは…彼だったというわけだ。
「さあ乗れっ!早くっ!」
背に腹は代えられない。
僕がセダンへ近寄ろうと一歩踏み出したその時、フィクサーも前傾姿勢になる。
「…動くな!」
「ふん、お前に俺が撃てるのか?」
「…。」
「もし俺が、お前の信条の前に…命をもって立ちはだかったら。」
「撃てるさ。」
「嘘だ。」
「…僕を君と一緒にするな。」
「だったら!」
!!!!
駆け出そうとしたフィクサーの足元目がけ、僕は発砲した。
背の高い建物に囲まれ、銃声が反響する。
…当たってしまっただろうか。
心の隅で嘆く僕の声を、恐れと焦りでなんとか振り切った。
そして僕はフィクサーが怯んでいる隙に、セバスチャンの待つセダンへと走り込む。
「…出して!」
「おうよ言われなくても!」
乱暴な運転で急発進する不潔な車。
また彼に救われてしまった。
徐々に小さくなっていくフィクサーの姿を見て、虚しさと安堵が襲う。
…これまで僕は幾度となく命を失いかけ、その度に胸の底で湧き上がってくるものがあった。
それはこだわりに近い何か。
“生きる”という信念。
“生”への執着。
——こんなところでは、まだ死ねない。
完全に、危機が去ったわけではない。
今まで以上に絶望的な状況が待っている可能性だってある。
でも、だとしても。
最後まで”生”にしがみついてみせる。
この世界を、もっとマシな姿へ変えるまでは。
…そうだよね、クリス。
例え何があったって。
僕はどこまでも生き抜いてやるのだ。
そこで僕はかつての友と銃を向け合っている。
薄々わかってはいたのだ。
次彼と再会する時、僕たちはきっと敵同士なのだと。
「1人なんだな。…お友達はもういないのか?」
彼は片側の頬を釣り上げながら笑う。
「そうだね。…君が羨ましいよ。これだけ仲間がいたら寂しくはなさそうだ。」
闇のまた向こう、ぼんやりと散っている人間達の気配を背に僕は言う。
「俺たちが会うのは…いつぶりだ?随分経つよな。」
「もうすぐ1年…かな。僕は牢にいたからもっと短く感じたけど。」
「なあ…俺たちはずっと一緒にいた。離れたことなんてなかったはずだ。それだけお互いのことをよくわかっていたし、最高の仲間だった。俺は1年も離れ離れなんて耐えられなかったぜ、お前もだろ?」
皮肉いっぱいの言葉だ。
「僕を殺す前のセリフとしては不合格だよフィクサー。こんな状況で友情を語るなんて。」
僕はさりげなく視線を周囲へ移す。
「殺す…か。」
「違う?元々はフランクフルトで手にかけるつもりだったんでしょ?Argosが使えない中、よく僕を見つけたね。」
僕の問いを彼は再び鼻で笑う。
「別に、お前のArgosの通信が途絶した位置から逆算して居場所を推定しただけだ。フランクフルトだけに張っていたわけじゃない。何箇所かへ仕込んだ罠に、お前がかかったというだけさ。」
…やはり僕のArgosは監視されていたか。
まだネメシスにいたどこかのタイミングで、発信源を仕込まれてしまったのだろう。
彼は想像以上に僕のことを知っている。
隠し事など、まるで無意味だったほどに。
「罠?その割には随分お粗末だったね。」
僕は会話をしながら別のことへ頭を巡らせていた。
フィクサーの周囲5mには眼を凝らす限り誰もいない。
推測するに、彼を頂点として仲間達は扇形に展開しているのだろう。
僕を挟み込む形だ。
「あの騒ぎは目眩しさ。お前が1人孤立するところを狙って、俺が直々にお迎えに上がる段取りだった。実際お前に弾は当たっていないだろう?唯一生じたイレギュラーといえば、お前が1人じゃなかったことだ。」
「…それは僕にとっても同じさ。」
「あのお友達とはどうしたんだ?喧嘩でもしたか?」
「…聞くなよ。興味ない癖に。」
「まあ、そうだな。」
僕と彼が立つこの場所を照らしている灯りは、一つだけだ。
それは僕から見て11時の方向。
もし仮にあれを撃ち抜くことができれば、僕たちは瞬間闇の中へ消える。
「…どうしてこの街で僕を見つけられた。」
「ふん、俺がお前の嘘に気づけないとでも?」
「いいや。でもあの通りで僕を囲めたということは、相当場所を絞れていたはずだ。大聖堂にいたことにも、気づいていたんじゃないのか?」
「おう。お前は好奇心旺盛な人間だ。クリスが連行された時も、結局お前は自分自身の欲を我慢できずにダクトから出てきただろう。そういう人間なんだよお前は。だから絶対何処かから俺たちを見ていると思った。広場を一望できる場所なんて一箇所しかないからな。」
問題は一つだけ。
「そんなにベラベラ喋って大丈夫?姿を晒しただけでも情報過多なのに。」
「ふん、随分と楽観的だな。あるのか?ここから形勢逆転する一手が。」
——視野があるのは、フィクサーも同じなのだ。
「ないよ。でも死にたくない。」
僕は銃をよりぎゅっと握りしめ、声を震わせる。
背後から僅かに砂利を擦るような音がした。
彼らに近づかれすぎたら本当に詰みだ。
フィクサーとの一対一を制することが、この状況下の最善手。
ただ新たに重大な問題が一つ浮かび上がってきた。
電灯を狙う関係で、必ず僕が一手後手に回ってしまうのだ。
「あぁわかってるさ。…その銃を下ろせ。俺だって友達を撃ちたくない。」
「下ろしたら、僕はどうなる。」
半分本心だった。
「しばらく俺に付き合ってもらう。悪いが大事な”お約束”には間に合わないだろうな。代わりに安全かつ快適な空間を提供すると約束しよう。」
「計画の邪魔が君の復讐か。」
「…どうとでも言え。俺の命は世界のためにあるわけじゃない。自分の行動くらい、自分の意思で決める。」
「大統領専用回線をジャックしたのもその理論ってわけか。」
「おう。」
「なあ、ちょっとはおかしいと思わないの?ギブスが本当に自分の望みを通したいと考えていたなら、クリスをわざわざ殺したりなんてするはずないだろ?」
「だが殺した。」
「何か裏があるのかもしれない。…聞いてたんでしょ。ギブスとの電話を。彼の言葉を。」
「あんなのいくらでも言えるだろ、あいつなら。」
「今、彼は身分も命も追われて身を隠してるんだよ?世界を手にしたのは彼じゃない。結果として、僕たちが宙で思い描いた陰謀は成立しなかったんだよ。」
「…GRAに裏切られた可能性だってある。」
「フィクサー!」
「うるせえ!ここで死ぬのか大人しく武器を下ろすのか、さっさと選べっ!」
だめだ。
今はどうにかして、彼の銃に少しでも下を向いてもらうしかない。
そのためには、降参するほかないのだ。
僕は口をつぐみ、渋々答える。
「…わかった。下ろすよ。」
「賢明だ。」
ゆっくりと僕は右腕を下ろしていく。
彼は、まだ僕へ銃を向けている。
「俺たちが宙で最後にあった日のこと、覚えてるか?」
「…君が檻の中の僕を笑いに来たあの日?忘れるわけないさ。」
「ふん、お前らしい言い草だ。」
「…。」
「本当に、こんな日が来るとはな。きっと俺たちは成長したんだ。…そう思わないか?」
「…黙れ。」
フィクサーは笑う。
「その様子じゃ、これからも友達でいようだなんて俺に言わせてくれそうもないな。」
「…。」
「おい。」
動きを止めて彼を見る。
丁度腰のホルスターへ腕を伸ばしかけたところだ。
「武器は地面に捨てろ。そんな甘い考えお見通しなんだよ。」
「…っ!」
だめだ。
捨ててしまったら、もう抗えない。
左腕が使えれば…こうはならなかったのに…!
どうする?
この先のチャンスに賭けるか?
いや、彼に身を委ねるなんていつ死ぬかわからない。
でもまだ彼の銃口は僕の脳天を捉えている。
僕に勝ち目はない!
「あれは…?」
その瞬間、僕とフィクサーの間を黒い影のようなものが素早く横切った。
そして硬い何かが激しくぶつかったような音。
…刹那僕も、彼も、呆気に取られていた。
フィクサーの手から、握られていたはずの拳銃が消えている。
何が起こったのかわからない。
でも今がチャンスだ!と頭の中で声が響いた時、まるで背中を押すように聞き覚えのある音が耳に入った。
「ニゲロ!ニゲロ!」
バサバサと羽をはためかせ、今度はフィクサーの頭目掛けて襲いかかるその姿は、確かにリュジーで籠から出した…あのカラスだ!
僕はすぐさま11時の方向目掛けて狙い撃った。
そして彼と僕を照らす唯一の光がその命を終える。
走れっ!
僕は正面突破し、フィクサーの脇をすり抜けた。
この薄闇の中で僕以外に唯一視界を持つ彼は、今カラスに手を焼いていてそれどころではない。
「だめだ撃つなっ!生捕りにしろ!追いかけるんだっ!…あぁくそっ!」
悲鳴に近い声で彼は叫んだ。
元来た道を戻り、公衆電話のあった通りへ出る。
この街を出なければならない。
…今すぐに。
「エレンっ!!!」
僕は彼の声から逃げるように走った。
どこに向かえばいいかもわからない。
一度状況の立て直しができそうな、落ち着いた場所を求めて。
でもいくら走れどそんな場所は見つからなかった。
…これまでだって感じてきたのだ。
地上に降り立ったその時から、もうこの星は僕にとって安住の地ではなくなってしまったのだと。
故郷だったこの
でも一度逃げ出してしまったら、僕は永遠に負け犬として生きなければならなくなる。
だからずっと戦い続けてきた。
周りの目を気にして、自分の過去を背負って。
勝ち目などないとわかっていても、この世界がいかに狭いものかよく知っていても。
自分の心ばかりの正義を燃料にして。
——もう限界なのかもしれない。
万策尽きかけている。
僕の使い得る通信手段は全て傍受されているのだ。
さっきの騒ぎで地元警察も大きく展開しているだろう。
後ろにはフィクサーたちが迫っている。
そして今使えるのは右手だけ。
Argosもオフラインだ。
僕は集合住宅のゴミ捨て場の物陰に滑り込み、天を見上げる。
白くて綺麗な星の粒たちが、真っ黒な空を背に十人十色で輝いていた。
…先人たちはこんな光の羅列を、動物や小道具に例えていたんだっけな。
あの中に、ネメシスもいるのだろうか。
「オイ!ウゴケ!ウゴケ!」
突然の甲高い声に心臓が跳ね上がる。
“それ”はいきなり空からやってきては大袈裟に羽をバタつかせ、鉄でできた大きなゴミ箱の蓋の上に乗った。
「だめだよ静かにして。目立っちゃうでしょ。」
「イクゾ!イクゾ!」
「…どこに。行くあてなんてないだろ。」
「ツイテコイ!ツイテコイ!」
彼(?)はそう叫ぶと再び大きな羽を広げて舞い上がる。
月明かりに照らされたその毛並みは…刹那宝石みたいだった。
実際、無茶苦茶なこと言っているカラスとはいえ、一度彼に僕は命を救われている。
どうやって僕の居場所を知ったのかは知らないが、他に賭けられるものもない。
…行くしかなさそうだ。
僕は薄汚れた地面から立ち上がり前を向く。
彼はまだ僕が動き出すのを待ってくれていた。
「…行こうか。」
裏路地を飛び出し彼の飛びゆく方向へ、僕は走る。
自分の考えに基づいていない。
あらゆる可能性があった。
いつゲームオーバーになるかもわからない。
目隠しをして走っているような気分だ。
…いうまでもなくこんなことは初めてで、でもどこか楽しんでいるような自分もいた。
落書きだらけな横幅の細い通りをいくつも曲がり、人目を避けて進む。
少しずつ、喧騒に近づいてきたようだった。
すると先を行っていた彼が、踵を返してこちらへと戻ってくる。
察した僕は物陰に体を隠し、しばらく先の大通りを見つめた。
…パトロールカーだ。
鳥籠の中のカラスにも、あれがやばいことは理解できるんだな。
だがどうする?
この辺りの区画は大通りに囲まれている。
庭園の方へ戻れば迂回することもできそうだが、いうまでもなく危険だ。
すると彼は少しずつ高度を下げ始めた。
視界の向こう、廃屋の先で僕は彼を見失う。
そこは廃屋の駐車場だった。
「ココニイロ!ココニイロ!」
「ちょっと待って、どういうつもり?」
「カクレテロ!ココニイロ!」
「いや待ってくれ…待てってば!」
僕の叫びも聞かず、彼はまたどこかへ飛び立っていく。
冗談だと言って欲しかった。
思わずため息が出る。
…結局、何も変わっていないじゃないか。
せいぜいゴミ捨て場が駐車場になっただけだ。
交通量の多い通りが近いからか、さっきのゴミ捨て場よりも幾分騒がしい。
そのせいで気持ちもそわそわした。
廃車の影に隠れながら、右手で拳銃を握りしめる。
…10分待って戻らなければ、待たずに動こう。
かと言ってどこへ行けば良いかはわからない。
一か八か、大通りを突っ切るか。
それで運良く包囲を抜けられれば、異なる選択肢を新たに取ることができるかもしれない。
まずは現在位置や状況を把握するために、データプールへ接続する術を探すのだ。
自販機でも、冷蔵庫でもいい。
何か、オンラインになっているものを見つけることができれば…。
「そこにいたかっ、エレン!!」
僕は驚いて立ち上がる。
振り向いた視界には、物凄い勢いでこちらへと駆け込んでくるフィクサーの姿。
…まずい!
僕は生存本能から拳銃を彼へ向ける。
「…!」
蹴り上げた彼の右足が、僕の”命綱”を右手から弾き飛ばした。
咄嗟視線が宙を舞う拳銃へ泳いでしまう。
その隙に、彼はさらに一歩距離を詰める。
僕は抵抗できないまま、喉元を鷲掴みにされ廃車へと押し込まれた。
「…俺と共に来い。もう諦めろ!」
叫ぶ彼をよそに僕は下半身へ目一杯の力を込める。
「うっ…!」
突き出した僕の右膝が、彼の腹部を直撃した。
続くように右足を伸ばし、彼の上体を蹴り飛ばす。
そして食いしばるような彼の呻き声とともに、僕は拘束から解かれた。
瞬時に左右を確認した。
武器になりそうなものはないか?
拳銃が転がっているのは遥か先だ。
リュックを開けている余裕はない。
ふと、廃車から鉄筋が突き出ているのを僕は見つけた。
…右手でそれを掴み、力強く引き抜く。
僕のそんな姿を見て、彼も地面に転がっていた鉄パイプを拾い上げた。
「…やる気か?」
「君がその気なら。」
「ふん…!」
雄叫びをあげ、彼が向かってきた。
右腕を前に出し臨戦体制を取る。
フィクサーは両腕でパイプを握り直し、手を胸の前まで引いた。
…違う。
危ないっ!
思いっきり前へ突かれたパイプを、すんでのところで僕はかわす。
中途半端に欠けて尖った先端が、後ろの廃車の窓を突き破った。
僕は伸び切った腕めがけて鉄筋を振り下ろす。
だがこれは彼の想定内だったようだ。
すぐさま腕を引っ込められ、この一撃は防がれてしまった。
鉄と鉄のぶつかる衝撃で、僕の右手が強く戻される。
それを見た彼はすかさず言った。
「エレン、左手はどうした…?」
…。
刹那振り上げられたパイプを僕は咄嗟に鉄筋で受け止める。
だが右手だけでその力を支え切れるはずもなく、またしても僕の武器は遠くへと吹き飛んでいった。
「…許せエレン。」
大きく振りかぶった彼の、空気を裂く音が耳に届く。
僕は咄嗟に右手で自分の動かない左手首を掴んだ。
「…!!」
強烈な衝撃が義手を介して右腕へ伝わる。
だが振り下ろされた鉄パイプを、確かに義手がしっかりと受け止めていた。
「…やるじゃないか。」
僕は両手でそれを跳ね除け、もう一度彼の腹部めがけて右足を伸ばす。
しかし今度は彼に距離を取られ、空振りに終わった。
彼は右から左に鉄パイプを薙ぐ。
瞬間リュジーでの出来事が脳裏に浮かんだ。
…あの時と同じ。
それは僕の20cm以上手前を遠く通り過ぎていく。
今度は、上から下へ振り下ろして見せた。
半歩僕は後ろへ下がり、直撃を免れる。
「ヤメロ!ヤメロ!」
どうやら帰ってきたようだ。
だが今僕はそれどころじゃない。
彼は今、右から左へ再び薙ごうとしている。
僅かしか無いチャンス。
…ものにするしかない。
「うおおおっ!」
彼は絶叫しながら一歩踏み込んで、そして思いっきりパイプを振った。
僕は刹那歯を食いしばる。
覚悟しろエレン。
…流石にこれは、痛いぞ。
「!!!!!!!」
あああああああっ!!
痛いっ!!!
固くて重たい衝撃が、僕の小さな右掌へと集まった。
なんならそのまま手首から弾けて飛んでいってしまいそうだ。
でも残された手の微かな感覚でわかった。
腐敗した金属片が刺さったり、骨が折れたりはしていない。
これはただ、"痛いだけ"だ。
であるならば、まだ望みはある。
僕は彼の鉄パイプをそのまま右手でがっしりと掴んだ。
もし左手ならばリュジーのようになっていたはずだが、今回は素手だ。
もう技術者もひったくれもない。
僕は思い切り右腕全体に力を込め、握りしめた鉄パイプごとフィクサーを引き寄せた!
あまりに一瞬の出来事で展開を予期していなかったのか、思いのほか彼は素直に体勢を崩す。
そしてそんな彼を迎え入れるかの如く…僕は下半身と腹筋に全筋力を集中させ、素早く頭を振りかぶってフィクサーの元へと飛び込んだ!
「…んああっ!!」
僕の石頭が彼の鼻付近に直撃した。
不意打ちを喰らった彼は、うめき声を上げながら顔を押さえて後退りする。
「ウエミロ!ウエミロ!」
咄嗟に見上げると、あのカラスが僕の弾かれた拳銃を足に掴んで飛んでいた。
その力が緩み…拳銃は垂直落下を始める。
僕は震えて感覚のない右手でなんとかそれを受け止め、グリップを握り直す。
まもなくフィクサーが体勢を整えてこちらを見た。
…どうやら状況を察したようだ。
「オリバー!!」
…!?
突如どこかから耳へ飛び込んできた聞き覚えのある大声に、僕は動揺する。
その源はいつの間に現れたセダンの窓から顔出し手を振る、男の姿だった。
——セバスチャン。
戦闘に夢中で全く気づいていなかったが、つまりカラスが導いてきたのは…彼だったというわけだ。
「さあ乗れっ!早くっ!」
背に腹は代えられない。
僕がセダンへ近寄ろうと一歩踏み出したその時、フィクサーも前傾姿勢になる。
「…動くな!」
「ふん、お前に俺が撃てるのか?」
「…。」
「もし俺が、お前の信条の前に…命をもって立ちはだかったら。」
「撃てるさ。」
「嘘だ。」
「…僕を君と一緒にするな。」
「だったら!」
!!!!
駆け出そうとしたフィクサーの足元目がけ、僕は発砲した。
背の高い建物に囲まれ、銃声が反響する。
…当たってしまっただろうか。
心の隅で嘆く僕の声を、恐れと焦りでなんとか振り切った。
そして僕はフィクサーが怯んでいる隙に、セバスチャンの待つセダンへと走り込む。
「…出して!」
「おうよ言われなくても!」
乱暴な運転で急発進する不潔な車。
また彼に救われてしまった。
徐々に小さくなっていくフィクサーの姿を見て、虚しさと安堵が襲う。
…これまで僕は幾度となく命を失いかけ、その度に胸の底で湧き上がってくるものがあった。
それはこだわりに近い何か。
“生きる”という信念。
“生”への執着。
——こんなところでは、まだ死ねない。
完全に、危機が去ったわけではない。
今まで以上に絶望的な状況が待っている可能性だってある。
でも、だとしても。
最後まで”生”にしがみついてみせる。
この世界を、もっとマシな姿へ変えるまでは。
…そうだよね、クリス。
例え何があったって。
僕はどこまでも生き抜いてやるのだ。