12 “僕”の屍を越えて(前)

文字数 7,482文字

「あぁっ…くそッ!」

「…なんだってんだよ!馬鹿が…動けっての!」

横から、もぞもぞ声が聞こえてくる。
一体何だろう。

——うん?

体が動かない。

少しずつ、ぼやけていた視界が鮮明になってきた。
カメラのピントが合っていく感じだ。

ここは…?

泥のようなもので塗り固められた壁。
視界の左奥には上へと伸びた階段があって、目を凝らすと木製の古臭い扉が見えた。
あの扉には見覚えがあるが…よく思い出せない。
所々壁沿いに棚がある。
右奥は暗くてよく見えないが、開けたスペースになっているようだ。
そうだ、ここはやけに暗い。
年季の入った電球が、一つ頭上で揺れているだけだ。
窓は一つもない。
地下なのか…?

——しかしどこの?

状況がわからずまごついていると、体に血が巡ってきたのか少しずつ身体感覚も戻ってくる。
どうやら僕は座った姿勢で手足を縛られているようだ。
両腕は背もたれの後ろに回され、恐らく手錠をかけられている。
手を動かすたびに、鎖のような音がした。

——そうか。

あの扉。

僕らが老婆を連れて行った、あの家の扉だ。

あの時…セバスチャンが男と一緒に奥の部屋へと消えた後、僕は置いてあった写真立てを手に取った。

それから、僕は…。

「オリバー…?目が…覚めたのか。」

声のする右を見ると、セバスチャンが同じように縛られていた。
きっと彼も、それなりの一撃を貰っているだろう。
まだ言葉の節々に弱々しさを感じる。
「あんたも無事か…。調子は。」
「調子…?ふん、最高…だよ。背もたれが倒れたら…もっといいのにな!」
「元気そうで何よりだよ。」
「…ん?あ、あぁ…。」
流石にまだ本調子ではないらしい。
喋っていたらなんだか僕も、頭の右上あたりがズキズキしてきた。
いっそ色々考えて体が竦み上がる前に、もう一眠りしてしまおうか…。
そんなことを考えていた時、小さい物音が聞こえた。

…上からだ。

話声のようなものもする。
直後、ギィィと大きな音を立てながら階段の上の扉が開いた。
それまでくぐもっていた声が、途端に鮮明になる。
上から3人…降りてきた。
先頭で歩いて来た男と、その後ろにいた男はよく知らなかった。
いや、先頭の男には見覚えが…?
正直よく思い出せない。
ただ、直接コミュニケーションを取ったような相手ではないだろう。
最後尾にいる男ならわかる。
道端で倒れていた老婆の、”家族”を名乗った男だ。
僕たちに、老婆を連れていくよう求めた張本人。
彼は、真ん中にいる男に、何やらフランス語で捲し立てている。
だが当の男は見向きもしない。
適当にあしらっているだけだ。

階段を降り終えた彼らが、僕の前に出て来た。
天井の小さな電球に照らされ、彼らの顔がはっきり見える。
やっぱり一番後ろにいた男は老婆の”家族”…。
今更冷静に考えてみると、この人はかなり胡散臭かった。
普通家族があんな状態なら、まず家に連れていくより先に救急ドローンを手配するはずだ。
能天気にも知らない人にノコノコついていくなんて、一体僕らの思考レベルは小学生なのか…?

ふぅ…。

今更後悔したとて、何も変わらない。
考えるだけ無駄なことだ。

滑舌の悪さからなのか、早口からなのか、彼は喋る度に口周りがコロコロ鳴った。
彼の名前は知らないが、ここでは便宜的にMr.”フロッグ”(蛙男)とでも呼んでおこう。
フロッグが迫る相手、降りて来た3人の中で一番背が高い男(恐らく、ここのリーダー格だろう)は、ずっと左手の指で鍵(?)をシャリシャリ回しながらこの部屋を見回している。

——僕はまた一瞬、自分の目を疑った。

男の眼球が、異常なほど大きかったのだ。
まるで某CGアニメーションのヒロインだ。
彼の両目は、まさに拳の大きさほどある。
そんなつぶらな瞳と裏腹に、男の髪は短く両側を刈り上げていた。
外観のインパクトは、それなりに強い。

さっき先頭を歩いていたもう1人の奴は、僕らの後ろへと回り込んだ。
前向きに縛られている僕には、もうその姿が見えない。

「○$&×#△¥…!」

相変わらずフロッグは早口すぎて何を言っているのかさっぱりわからない。
多分フランス語に堪能な人間でも、よく聞き取れないだろう。
そしてそんなフロッグの言葉を、やはりリーダー格の男は完全に無視している。

…なんだか少し惨めな気持ちになってきた。

いや、彼に同情している余裕なんてこっちにはないだろ。
僕は自分に言い聞かせる。
ふぅ、と息を吐く音が聞こえた。
眼の大きい方だ。
金属の擦れる音が止む。
そしてそいつは僕とセバスチャンを交互に見つめてから、ゆっくりと口を開いた。
「お目覚めのようですね。どうでしょう、旅の疲れは取れましたか?」
「おう…随分と手厚い歓迎じゃないか。これが…この街流の感謝なのか?」
「感謝、ですか。その件に関しては…。」
すると男は突然言葉を止めて、フロッグの方を振り向く。

男にいきなり振り向かれたフロッグは、一瞬驚いて言葉を詰まらせた。

刹那、空間に静寂が生まれる。

そして何をするのかと思ったら…男はフロッグの顔を殴りつけた!

鈍い音。
目の前の影が、まるで段ボールみたいにふわりと宙へ浮いた。
あまりに一瞬の出来事で、何が起きたか理解する頃フロッグはもう床に倒れ込んでいた。
衝撃で1.5mほど吹き飛ばされたフロッグは、床でダンゴムシみたいに丸くなっている。
痛みからか、苦しそうに悶えていた。

「Casse-toi.」

静かに、一言男が言った。

ガラス玉のような眼が、ギロリとフロッグを睨みつける。
とんでもない目力だ。
言葉に凄みがある。
思わず僕は隣のセバスチャンを見た。

——あくびをしている。

呑気すぎる!
対照的にフロッグはヒッと小さな声をあげた。
思うように動かない体を無理やり這わせて、バタバタ階段へと逃げていく。
まだバランスがうまく取れないようだ。
少しふらついている。
そんな彼を男は片目で追いかけた。
順番に左目と右目が、まるで監視カメラみたいに別の角度へヌルヌル動く。
「お友達をあんな風にして大丈夫なのか?明日から…口聞いてくれないぜ?」
「…あれは私の弟です。すぐ余計なことに首を突っ込む。自分のことしか考えちゃいないのです。」
「じゃあ…君はあの婆さんの?」
セバスチャンの問いかけに一瞬男は言葉を詰まらせた。
「…えぇ。あれは、私の曽祖母です。」
男は続ける。
「彼女を助けようとして下さったことには、感謝しています。ですが私たちにも守らなければならないものがある。こうしなければならない理由がある。」
「…理由?」
「それが何なのかは、あなた方が一番よくご存知なのではないですか?」

セバスチャンはあんぐり口を開けて僕を見た。

お前は知ってるのか。

そう言いたげだ。

「君の名前は?」
「…ジョゼフ。」
「よしジョゼフ。それで君は…俺たちを一体どうするつもりなんだ?」
一瞬ジョゼフの右目がギロリと僕を見た。
“どうするつもり”…か。
彼はここまで手の込んだことをしているのだ。
ただ寂しくて話相手が欲しかったわけではないだろう。
「この村の住人全員の避難が終わるまで、あなた方にはここにいてもらいます。」
「避難?何から?」
ジョゼフは答えた。

「…核攻撃。」

「はぁ!?」
暗い室内に、セバスチャンの声が反響する。
耳がぐわんぐわんした。
「…演技が大袈裟ですね。」
「演技なんかじゃない!どうしてこんな…」

「セバスチャン警部!」

ジョゼフの一喝に、彼は眉間に皺を寄せた。
「…何故俺のことを知ってるんだ。」
「イギリスでお勤めの警察官が何故フランスのこんな辺鄙な村までいらしたんですか?」
「それは」
「”旅行”ですか。ベルギーに核が落とされたこのタイミングで?クーデターで世界がひっくり返ってまだ2ヶ月のこんな時期に?」
「そんなの俺には」
「”わからない”?彼の言われた通りにしているだけだと?」
ジョゼフは僕を右手で指差した。
「こいつは俺の」
「”親友の息子”。戦場で面倒みるって約束しちゃったんでしたっけ。」
「…なんだ君、エスパーか。」
立て続けに言葉の先を当てられ、セバスチャンは苦虫を噛み潰したような顔をした。
いいですか、とジョゼフは続ける。

「ここを訪れたもっと納得のいく説明をしてくれれば、私も手荒な真似をしなくて済むんです。こんなこと、やりたくてやってるわけじゃない。」

セバスチャンの表情がさらに渋くなった。

「…あなた方はこの村に着いてからしばらく街の中を歩いていましたね。」

そうか。
何もかも監視されていたのだ。
「それはまるで何かを探しているように、キョロキョロ見回していました。」
「観光客なら、それくらいしてもおかしくないだろ。」
セバスチャンがジョゼフに言い返す。
だがジョゼフも黙っていなかった。
「あなたはあの時相当お腹が空いていたそうですね。何故人通りの少ない村の裏側へ向かったのですか?レストランを探すなら、県道沿いを歩くか街の中心へ向かうはずでしょう。」
「………。」
ついにセバスチャンが言葉を詰まらせた。
しかし何故ここまで情報を引き出されてしまっているのだろう。
彼は既にバッジを紛失している。
所持品を改めたとしても、せいぜい名前くらいが関の山のはずだ。

ふぅ…。

だとしても、ここに立ち寄ることを決めたのは僕自身だ。
セバスチャンは巻き込まれてしまっただけ。
この状況を解決する責任は、他でもない僕にあった。

「私はいつここが攻撃されるのか聞くため降りてきたわけですが…この調子では無理そうですね。」

ジョゼフは何か目配せをした。
後ろにいた男が、僕の左を抜けて階段へと上がっていく。
「しばらくここでゆっくりなさっていてください。」
そう告げてジョゼフも踵を返した。
「おいちょっと待てって、いつまでこのままなんだよ!年寄りの体のことも考えろって!」
セバスチャンの叫びは届かない。
そのまま彼らは階段の先の扉を閉めて行ってしまった。
「あぁ…マジかよ…。」
項垂れるような彼の声が耳に痛い。
「…体は持ちそう?」
僕は問いかけた。
「おぉ、俺の心配してくれるんだな…!」
「…どんな時でも口は減らないな。」
「おう、だってお前さっきからずーっと黙ってんだもん。ジョゼフと2人きりにしてあげようだなんて、高校生みたいな気遣いしてくれなくていいんだぜ。」
僕は彼の言葉を無視した。
「で、体はどうなんだよ。」
「あぁ… 正直ちょっとキツそうだ。さっきから頭がぼーっとする。下半身も痺れて感覚が薄れてきてるし…。フラフラするというか、覚醒状態を保つのがやっとって感じだ…。」
「…部屋の奥に老婆を連れて行ってから、あんたは何をされたんだ。」
彼はうーんと首を傾げてから、ボソボソと答える。
「実はよく覚えてないんだ。ただ、何かを刺されたような感覚がある。それ以外は何も。気づいたらここにいた。…本当なんだ。」
「ダイナーで酒は飲んだか?」
「酒?いや… その、少しついでもらっただけだ。…酔うほどの量じゃないぞ。」
彼の表情に一瞬の戸惑いが映った。
「なるほどな…。」
うまく術中に嵌められたわけだ。
「恐らく、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を投与されたんだろう。」
「ベン…ベンザ…ん??」
「この手の睡眠薬は、アルコールと合わせると効果が強力になる。規格が古くて製造も安価だから、昔から犯罪行為によく利用されるんだ。」
ふん、と彼が鼻を鳴らす。
「お前は物知りで結構だな…生憎俺は勉強ができないんでね。」
開き直る彼に僕は噛み付いた。
「だとしても、警官としての自覚くらいはあって欲しいね。」
「…自覚?」
僕は皮肉たっぷりに言ってやった。

「優秀な警察官ともあろうお方が、超典型的なハニートラップなんかに引っ掛かるなんてさ。」

「ハニートラップ…?」

一言ぼそっと呟いてから…彼は全てを察したのか

「あぁぁぁ」

と、呻き声を上げた。
両手が自由だったなら、きっと大袈裟に頭を抱えているところだろう。
「ジョゼフが先走ったあんたの言葉は、少し前ダイナーにいたあの女性へ喋った内容と同じだな?」
彼の返答はない。
まだか細く呻いている。
もうこれ以上追い討ちをかける必要はないだろう。
実際のところ、社交的な性格の彼に相手から話しかけられたものを断るなんてことはできなかったはずだ。
なんか適当にフォローの一言でも投げておくか…。
そんなことを考えていた時、左上でカチャッと金具の動く音がした。
反射で音の鳴った方に視線を映す。
直後、ギィィィと木の軋む音が続く。
階段の上にある扉が開いたのだ。
案の定、誰かが上から降りてきた。
何やら普通の姿勢じゃない。
まるで東洋のNINJAだ。
その人影が階段を下り切り、小さな電球の明かりに照らされた。

「ヤー、ヤーヤー」

挨拶のように片手を上げてこっちに向かってきたのは…フロッグだ。
顔の右側にはまだ痛々しい青痣が残っている。
それでも無理やり顔を引きつらせて、笑顔を作っていた。
僕もセバスチャンも、彼の意図が全く読めず困惑の表情を浮かべる。
するとフロッグは、ポケットから鈍く光る何かを取り出した。

「おいおいおいおいなんなんだよこいつ何するつもりなんだ!」

セバスチャンが絶叫する。

フロッグが取り出したのは…サバイバルナイフだ!

いかにも切れ味の良さそうな刃が、電球に照らされて不気味な光を放つ。
だがフロッグは大声をあげたセバスチャンに、自分の口へ指を当てて静かにするよう仕草した。
何がなんだかわからず、さらに僕たちは戸惑う。
フロッグが僕の足元にしゃがんだ。

「アイ、リアリー、サンキューフォー、ユア、ヘルプ。ソーリー、ソーリー。」

「こいつ…俺たちを助けにきたのか?」

僕の足元で、何やらミシミシ音が鳴っている。

「…そうらしい。」

ジョゼフは手際良く僕の足を縛っていた綱を断ち切った。
彼は僕の足を手で摩る。
怪我をしていないかどうか、確かめているのだろう。
出血していないことを確認すると、今度は僕の後ろに回り込んだ。
サバイバルナイフで手錠を外すのは難しいだろう。
それを察したのか、すぐフロッグはセバスチャンの足元へ向かう。
…その時だ。

「ジョエル?ジョエル!」

さっきの男…ジョゼフの声だ。
その“ジョエル”という呼びかけに、一瞬フロッグの肩が跳ねた。
まずい。
「おい、ひょっとしてこれって結構やばいんじゃないか?」
セバスチャンがそう言った頃、フロッグがセバスチャンの綱を切り始める。
「セバスチャン。…頼みがある。」
僕の言葉に彼は呆れたような表情を浮かべた。
「こんなザマでできることなんて限られてるぜ。」
「別にサンドウィッチを買ってこいだなんて言わないよ。」
ハハッ、と乾いた声で彼は笑う。
足元ではフロッグの手つきがだいぶ怪しくなっていた。
綱が凝り固まってうまく切り裂けないらしい。
だがあれだけ手が震えているのは、綱が硬いという理由だけではないだろう。
「どうにかして、ジョゼフをうまく焚き付けてくれないか。」
「焚きつける?…どういう意味だ。」
僕はできるだけ声を殺して訴えた。
「ここから早く出たいのはお互い様だ。…僕を信じて欲しい。」
その時、階段の扉が思い切り開く音がした。
なんとかセバスチャンの縄も解けたらしい。
フロッグは大慌てで、僕らの足元に散った縄を集めナイフと共にポケットへしまう。
「…来たみたいだな。」
「おい、焚きつけるってどういう意味だよ?作戦がまだ…」
セバスチャンがいい終えるまでに、ジョゼフが英語で叫んだ。

「おい!ジョエル!お前、この野郎…!」

ジョゼフと、後に続いてもう1人さっきの男が走って階段を下りてきた。
それを見て、咄嗟にフロッグは奥の暗いスペースへと逃げようとする。
が、ジョゼフの方が速かった。
ジョゼフの長い両腕が、フロッグへとゴムのように伸びる。
そして彼の両胸を捉えたジョゼフは、そのまま自分の胴体へと勢いよく彼を引き戻した。

「…!」

急な背後からの衝撃に、一瞬フロッグが怯む。
その時、もう1人の男が彼らへ一歩距離を詰めた。
右手に何かを持っている?
あれは…注射器だ。
フロッグも彼らがやろうとしていることに気づいたらしい。
だが逃げようとしても上半身をジョゼフから羽交い締めにされていて動けない。
首筋目掛けて男の手が伸びる。
プスッ、と小さな音がした。
かなり勢いよく刺さったのだろう。
それを見てジョゼフが両腕を離す。
…効き目はすぐに出た。
両足の力が抜け、崩れ落ちるように僕らの前で跪く。
「こいつを上へ運んでくれ。…1人でも大丈夫か?」
「あぁ。」
“あぁ”という声、聞き覚えがある。
多分、僕が気を失う直前に聞こえてきた声…。

『おいおい人ん家の物勝手に触るなんて、マナーがなってねぇんじゃねえか?』

これと同じ声だ。
その男が、もう半分気を失ったフロッグをひょいと持ち上げて肩に背負った。
相当重さはあるだろうに、特に姿勢も崩すことなくスタスタ階段を上がっていく。

「不肖な弟の遊び相手にさせてしまい、申し訳ありません。」

セバスチャンが鼻で笑った。
「ふん、君より彼の方がよっぽど愛想良いぜ。少しは見習ったらどうだ?」
「ほう…1人じゃ何もできやしない彼にも、見習うべきところがあったんですねえ…。」
ジョゼフは目つきを鋭くして続ける。
「…あいつはあなた方に何か言いましたか。」
少し間が空いた。

「”俺の兄貴はプライドのかけらもない、テロリストも同然だ”つってたな。…だろ?」

セバスチャンが僕を見る。
僕は小刻みに頷いた。
「…あいつにそんなこと言えるはずがない。」
セバスチャンが返す。
「相当溜まってるみたいだったぜ?でも仕方ないよなあこんなろくでなしDV兄貴が家族だなんて…あーあマジ同情するぜ。」
「私は…!」
「もし俺たちが本当の観光客だったらどうするつもりなんだ?こんなの、完全に犯罪行為だぞ。」
セバスチャンの言葉に、ジョゼフは一瞬天井の電球を見上げた。
「もしそうなら…申し訳なく思います。でも、私たちは普通ではない。生き延びるために、仲間を守るために、あらゆる可能性を考えなくてはならないのです。こんな世界が不安定な時に旅行だなんて…残念ですが自業自得です。」
「…お前たち、まさか”解放戦線”か。」
セバスチャンは、“普通じゃない””仲間”という言葉に突っ掛かったのだろう。
だがそれに対してジョゼフは驚き目を見開いた。
じわっと眼球の血管が浮き出て見える。
「…あんな奴らと一緒にしないで頂きたい。」
「野蛮さで比べりゃどっこいどっこいだ。」

「私はこの村のために!」

ジョゼフが一瞬叫び…そして我に返ったように口をつぐんだ。
もう顔が真っ赤になっている。
見る限り、どうやら誘いには乗ってくれたらしい。
セバスチャンは、彼の強い正義感をうまく利用してくれたのだ。

…さあ今度は僕の番。
誰も死なせず、ここから脱出してみせる。


(後)に続く
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