お題【ボーイフレンド】【電子タバコ】【弱体化】

文字数 1,165文字

 怪異というものは時代とともに姿を変える。
 それは彼らが人々の認識に深く関わる存在だからとかそんな大仰な理由なんかじゃなく、僕らの髪型が時代によって変わる、そんな程度のことらしい。
 またその変化というのが、都会の流行がちょっと遅れて田舎で流行るみたいに、現代という感覚からするとまた微妙にズレているのも可愛い。
 そう。彼ら彼女らは可愛いのである。

 特に可愛いのが、僕の彼女。
 カテゴリ的には蛇女に分類される。でも、昭和のマンガに描かれたような怖い存在では決してない。
 怪異の世界では、名前を教えるのは正体を明かすのに等しいらしく、本当の名前を教えるのは「自分を相手にどうされてもいいと思った」とき。ようはプロポーズのときらしい。
 出遭った頃は僕に「蛇女」って呼ばせて、自分は「ニンゲン」って呼んできたくせに、最近は「ボーイフレンド」って呼んできて、僕が彼女を「ガールフレンド」って呼ばないとシャーって威嚇するの、とっても可愛くないですか?

 そんで僕は暑いの苦手なんだけど、蛇女ってひんやりしているから、触ると気持ちよくって、特にこれからの夏なんかはたまらない――ってのは建前で、ずっとくっついていても嫌がらないの。逆に冬は彼女の方からくっついてくるし。
 僕が昔付き合ってたニンゲンの彼女は、僕同様に暑いのダメだったから、夏はクーラーのきいてないところでは手をつなぐのさえも嫌がられたんだよな。スキンシップ好きな僕にとってはまずこの距離感がたまらないわけ。

 卵が好きってのは本当で、殻ごと呑み込むこともできるけど、一度半熟ゆで卵を作ってあげたらそれ以来ハマっちゃって、最近の彼女のお気に入りは、カレー風味の燻製半熟煮玉子。
 好きな子の笑顔って、人間も怪異も関係ないよね。

 逆に嫌いなものはタバコの煙。僕は彼女に泣きつかれて電子タバコに変えた。
 これならけっこう大丈夫って言っていたのに、立ち上がったらちょっと腰抜けてたし、思わずお姫様抱っこさせてもらったんだけどさ、彼女には悪いけど、ちょっと弱体化した蛇女って変に色っぽいわけよ。
 そういうことが何度かあってからは遠回しに「今夜は電子タバコ吸ってもいいよ」とか言ってきたりして、もう最の高。

「ね、ボーイフレンドぉ」

 ああ、彼女に呼ばれた。
 普段はまだこんな感じだけど、この頃、電子タバコの後はお互いの名前で呼ぶことへの許可が出たりしているし、これ彼女の実家への挨拶も近いっぽい。

 ただ一つだけ、何度も注意されているのは、あちらで宴会になったとき、サラダだけは絶対に手をつけないようにって。
 彼女のお姉さんは彼氏を連れて行ったとき、彼氏が間違えてそれを食べちゃって、ご馳走がスーツ着て座ってる状態になっちゃったんだって。



<どっとはらい>
構想10分+執筆30分というルールで書いたもの。
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