お題【201号室】
文字数 1,978文字
「えー、ほんと汚いよー?」
「またまたー。そんなことないっしょー?」
「イヤイヤほんと汚いってばー」
と言いつつ上目使い。これは彼女が自信を持っている角度なのかな。
あとさ、こういうこと言う子に限ってきっとガッツリ片付けた見事に可愛らしい部屋とかなんだろな。
「じゃあ、入るとき目をつぶるから手を引いてくれる?」
「どうしよっかなー」
そんなリア充っぽい会話をしている彼女と俺だけど、実は今日で会うのが三回目。
大学終わったあとバイトまで時間つぶしている公園で出会ったのが一週間前のこと。
別にナンパしたってわけじゃない。ベンチに腰掛けてスマホをいじっていたらふと視線を感じて、見上げたら彼女がそこに居たんだ。そして目が合った。
なんかとても人懐っこい笑顔だな、ってちょっと見とれたっていうか、見つめ合ってしまったというか。やべぇ俺不審者ぽいかもって不安になったんだけど、彼女は優しい笑顔を浮かべて、しかも向こうから声をかけてきた。
そんで話をしているうちに妙に気が合っちゃって。危うくバイトに遅刻しそうになったんだよね。
連絡先くらい聞いておけば良かったなぁなんて思いながら二回目に会えたのが昨日。
やっぱり盛り上がって、んで別れ際に連絡先聞いたらスマホは家に忘れてきたって言うもんな。
ここ、難しいとこなんだよね。
やんわり断り入れてきてんのか、それともガチ忘れんぼさんなのか。
まあ、がっつかないが吉ってことで「じゃあ、来週また会えたら」って言ったわけ。そしたら彼女そこには食いつくわけさ。
「どうして来週なの? けっこー先だよ」
「俺、バイトが月木なんだ」
「そかそか。バイトの前の暇つぶしって言ってたもんね」
「そ。だから来週の月曜また来まーす」
「それまで会えないのかぁ」
うわ。これって脈ありじゃないですか?
一応礼儀として「俺、明日は暇だけど」とか返してみたら、そのまま会おうって話になって、今日。
公園で待ち合わせて「どこ行く?」って俺はスマホ出して検索の構え。
そしたら彼女、「あ、スマホまた忘れちゃった。ちょっと取ってくる」って……計画的に誘ってます?
で、今。
俺のちょっと前を歩いている彼女は時々振り返っては、上目使いでこちらの顔を覗き込む。
一生懸命この角度で攻めてくる彼女の努力に、愛おしさが湧いてくる。
なんかこれHもアリかもなんてちょっとだけフワフワした気持ちになっちゃうの、しょうがないじゃないですか。
「ここなの」
そう言って彼女は急に立ち止まったのが、寂れた路地から少し奥まったところにある古そうな二階建てボロアパート。
汚いよって言っていた彼女の言葉を急に思い出す。
え、これ、もしかしてガチで汚いパターン?
彼氏いないって言ってたから実はものすご汚部屋だったり?
自分の中に若干、冷静な気持ちが広がり始めてみたり。
「ここの201号室なんだ」
そう言いながら階段を登りはじめる彼女。
うわ、スカート短いから見えそうな……つい目を反らした先に集合ポストが目について、今時は防犯とかでポストに名前が書いてないんだよね。そういや下の名前しか聞いてなかったなって考えながら何段か階段を登り始めて……自分の中の違和感に気付いちゃったわけです。
あれ?
ここ、一階が101号室から始まって、102、103、105と四部屋なのに、二階のポストは202、203、204、205ってなっている……え?
「ねぇ、201号室って言ったよね?」
そう言いながら視線を彼女へ戻すと、彼女の顔がすぐ近くにあった。異常なほどの近く。鼻と鼻がもうくっつかんばかりの。
「わっ」
思わず数歩後ずさっ……たら、当然のように階段を落ちるわけで。
まあなんとか頭は打たずに済んだんだけど。
で、驚かされてコケるってすげーカッコ悪いじゃないですか。
だからすぐさま立ち上がって彼女に何か言ってやろうと辺りを見回したら……誰も居ないんですよ。
いやほんと、立ったのはすぐですよ、すぐ。
コンマ何秒。
でもさ、気持ちは随分と盛り上がっていたから、もしかしたら部屋に先に入っちゃったのかもとかもう下心だけで動いていた……からこそ、さっきのはイタズラかな程度に考えて階段をまた登り始めたんですよ……でも、そこで足が止まっちゃって。
いえ、捻挫です。
さっき階段から転げ落ちた時の。
本当、かなーり痛かったんですってば。
そしたらですね……なんか舌打ちが聞こえたんですね。
「もう少しだったのに」
彼女の声もすぐ耳元に聞こえて。
反射的に振り向いちゃうじゃないですか、でも、彼女はそこにもやっぱり居なくって。
<終>
「またまたー。そんなことないっしょー?」
「イヤイヤほんと汚いってばー」
と言いつつ上目使い。これは彼女が自信を持っている角度なのかな。
あとさ、こういうこと言う子に限ってきっとガッツリ片付けた見事に可愛らしい部屋とかなんだろな。
「じゃあ、入るとき目をつぶるから手を引いてくれる?」
「どうしよっかなー」
そんなリア充っぽい会話をしている彼女と俺だけど、実は今日で会うのが三回目。
大学終わったあとバイトまで時間つぶしている公園で出会ったのが一週間前のこと。
別にナンパしたってわけじゃない。ベンチに腰掛けてスマホをいじっていたらふと視線を感じて、見上げたら彼女がそこに居たんだ。そして目が合った。
なんかとても人懐っこい笑顔だな、ってちょっと見とれたっていうか、見つめ合ってしまったというか。やべぇ俺不審者ぽいかもって不安になったんだけど、彼女は優しい笑顔を浮かべて、しかも向こうから声をかけてきた。
そんで話をしているうちに妙に気が合っちゃって。危うくバイトに遅刻しそうになったんだよね。
連絡先くらい聞いておけば良かったなぁなんて思いながら二回目に会えたのが昨日。
やっぱり盛り上がって、んで別れ際に連絡先聞いたらスマホは家に忘れてきたって言うもんな。
ここ、難しいとこなんだよね。
やんわり断り入れてきてんのか、それともガチ忘れんぼさんなのか。
まあ、がっつかないが吉ってことで「じゃあ、来週また会えたら」って言ったわけ。そしたら彼女そこには食いつくわけさ。
「どうして来週なの? けっこー先だよ」
「俺、バイトが月木なんだ」
「そかそか。バイトの前の暇つぶしって言ってたもんね」
「そ。だから来週の月曜また来まーす」
「それまで会えないのかぁ」
うわ。これって脈ありじゃないですか?
一応礼儀として「俺、明日は暇だけど」とか返してみたら、そのまま会おうって話になって、今日。
公園で待ち合わせて「どこ行く?」って俺はスマホ出して検索の構え。
そしたら彼女、「あ、スマホまた忘れちゃった。ちょっと取ってくる」って……計画的に誘ってます?
で、今。
俺のちょっと前を歩いている彼女は時々振り返っては、上目使いでこちらの顔を覗き込む。
一生懸命この角度で攻めてくる彼女の努力に、愛おしさが湧いてくる。
なんかこれHもアリかもなんてちょっとだけフワフワした気持ちになっちゃうの、しょうがないじゃないですか。
「ここなの」
そう言って彼女は急に立ち止まったのが、寂れた路地から少し奥まったところにある古そうな二階建てボロアパート。
汚いよって言っていた彼女の言葉を急に思い出す。
え、これ、もしかしてガチで汚いパターン?
彼氏いないって言ってたから実はものすご汚部屋だったり?
自分の中に若干、冷静な気持ちが広がり始めてみたり。
「ここの201号室なんだ」
そう言いながら階段を登りはじめる彼女。
うわ、スカート短いから見えそうな……つい目を反らした先に集合ポストが目について、今時は防犯とかでポストに名前が書いてないんだよね。そういや下の名前しか聞いてなかったなって考えながら何段か階段を登り始めて……自分の中の違和感に気付いちゃったわけです。
あれ?
ここ、一階が101号室から始まって、102、103、105と四部屋なのに、二階のポストは202、203、204、205ってなっている……え?
「ねぇ、201号室って言ったよね?」
そう言いながら視線を彼女へ戻すと、彼女の顔がすぐ近くにあった。異常なほどの近く。鼻と鼻がもうくっつかんばかりの。
「わっ」
思わず数歩後ずさっ……たら、当然のように階段を落ちるわけで。
まあなんとか頭は打たずに済んだんだけど。
で、驚かされてコケるってすげーカッコ悪いじゃないですか。
だからすぐさま立ち上がって彼女に何か言ってやろうと辺りを見回したら……誰も居ないんですよ。
いやほんと、立ったのはすぐですよ、すぐ。
コンマ何秒。
でもさ、気持ちは随分と盛り上がっていたから、もしかしたら部屋に先に入っちゃったのかもとかもう下心だけで動いていた……からこそ、さっきのはイタズラかな程度に考えて階段をまた登り始めたんですよ……でも、そこで足が止まっちゃって。
いえ、捻挫です。
さっき階段から転げ落ちた時の。
本当、かなーり痛かったんですってば。
そしたらですね……なんか舌打ちが聞こえたんですね。
「もう少しだったのに」
彼女の声もすぐ耳元に聞こえて。
反射的に振り向いちゃうじゃないですか、でも、彼女はそこにもやっぱり居なくって。
<終>