お題【お地蔵様】

文字数 1,113文字

 普通、「身代わり地蔵様」って聞くとさ、身代わりになってくださるお地蔵様だって思うでしょ。
 でも違うんだ。あそこのは。
 身代わりにならせてくださるお地蔵様なんだ。

 僕には病弱な姉がいてね。
 自分が重い病でずっと苦しんでいるにも関わらず、常に他人のことを思いやる優しい姉だった。
 僕が医者の道を選んだのも、大好きな姉をなんとかして助けたいと考えていたからだ。
 そんなときに僕は知った。そう、あの身代わり地蔵様を。

 いや、そんなすぐにすがったりはしなかったよ。
 まずは噂が本当なのか検証したんだ。
 周囲に噂を流して、試した人から話を聞いたり、もちろん自分自身でも試してね。
 結論から言えば、あの身代わり地蔵様は本物だった。
 まずはお地蔵様の前で手を合わせて、身代わりになりたい人のことを強く念じる。
 すると祈った人が、身代わりになりたい人の身に降りかかる不幸を背負うことができる。
 分かりやすいのが怪我だね。
 怪我をした人の治癒を願って祈って、その直後、同じくらいの怪我をする。そうすると、祈った対象の人の怪我がすごい勢いで治るんだ。
 調査を進めるうちに全く同じじゃなくとも良いってことがわかった。
 命を脅かす度合いが同じ程度ならばいいってことが。
 これならば姉を救える。僕はそう感じた。
 だからとうとう自分の命をかけて救おうと、祈りを決行することにした。

 あの日、僕は白い服を着て、身代わり地蔵様のもとを訪れた。
 薄曇りの白い空が僕の背中を押してくれているような気さえした。
 姉のことを想い一生懸命お祈りして、車道へと飛び込んだ。



 僕の意識が戻ったとき、僕の怪我はほとんどないに等しかった。
 姉の置き手紙があった。
 僕のおかげで病が治ったこと。
 そして僕の怪我を治すべく、僕と同じ場所で車道に飛び込んだ女性が居たこと。
 姉が、その女性に対して申し訳なく感じ、元々は死ぬはずの命だったからと僕やその女性と同じことをするという覚悟とが書いてあった。
 そのときの怪我が元で姉は亡くなっていた。
 身代わり地蔵様は、死んだ者に対しては効果を発揮しないことも検証済だったから、僕は姉を治したのに失った。
 でも、むざむざ生き残ったこの命を、姉を追って捨てようとは思わなかった。
 僕のためにその命をかけてくれた女性を、僕は幸せにしなければならないから。
 その女性の名を明かすことはできない。
 彼女につきまとうストーカーを殺したことで指名手配されているから。
 僕は彼女を匿い、一生大切にするつもりだ。
 僕の愛情が不思議なくらい姉からその彼女へと移っていることについて考えようとすると思考が止まる。
 とにかく彼女が無事で良かった。愛している。



<終>
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