お題【ガラスの盾】

文字数 1,110文字

 ダチの家で飲んでいたら、夜中にベランダの方からゴンッゴンッと鈍い音がした。

「おいおい、夜まで洗濯物干しっぱかよ」

 そう言いながら立ち上がって見に行こうとした俺の手首を、ダチはガッとつかむ。

「気にすんなよ。直におさまるから」

「でもさ、うるさくねぇか? 取り込んじゃえよ」

「洗濯物じゃねぇんだ。多分、ハト」

「ハト? こんな夜中に?」

「いいから気にすんなって」

 ダチの表情がけっこうマジだったから、俺はおとなしく座って飲みを再開する。
 だけど「直におさまる」とか言われた割にはずっと鈍い音が聞こえ続ける。一度気になってしまうと、もう気になって気になってしょうがなくなっちゃうんだ。だから、ダチがトイレへとたった隙に俺は、ベランダへつながるサッシを隠している分厚い遮光カーテンをパッと開けてみた。

 ゴンッ。ゴンッ。

 サッシには赤いものがべったりとついていた。そこへ空中から何かが飛んでぶつかって、その赤いものをさらに飛び散らせている。その何かってのが……車に轢かれた鳥みたいに少しひしゃげた……ハト?

「おいっ! 気にすんなって言っただろ!」

 いつの間にかトイレから戻ったダチが背後に立っていた。

「何だよこれ」

「ハトだよ」

「いや、そういうことじゃなく……」

「ハトなんだ。しょっちゅうベランダに飛んで来てよ。いつもうるせぇし、糞はするわ、洗濯物落とすわ、むかつくから来る度に追い払ってたんだよ。そしたらベランダの給湯器の上にいつの間にか巣を作ってやがってよ。だから撃ってやったんだ。エアガンで。親子もろともな。んで、死体は生ゴミの日にまとめて捨てたはずなんだけどさ……戻ってくるんだよ。夜中になると」

 戻ってくるって……そんなのんきなもんじゃないだろ、これ。

「気にすんなよ。ほっておけばおさまるし、しかもこの血みたいなのも朝になりゃ消えるんだよ。気にしないで飲もうぜ」

 その時、酔ってたせいもあるかな。俺はダチが俺をからかおうと悪戯をしているんだと勝手に思い込んだんだ。
 ベランダの屋根部分に紐とかつけて、ハトの死体みたいに作ったおもちゃを糸でぶら下げてぶつけてきているとかさ。もしかしたら上の階の人もグルで俺がビビるとこ見て笑おうとしてるんじゃないかなとかさ。
 朝には綺麗になっているっていうことは、その撤収前に確認しなきゃトリックは見破れないだろ? だかさら、俺はいきなりサッシを開けたんだ。

「う」

 ダチの苦しそうな声が聞こえたのはその直後。慌てて振り返ったダチの右目のあたりに、ハトの死体のようなものが突き刺さっていた。



<終>
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