第19話 眼下に見えるは我らが学園

文字数 883文字

 茂みの中を、上から下まで探した。大津は巧妙にスマホが見えにくいような角度で木の枝の先に隠してあり、鈍い俺は探すのに、何分も掛かってしまった。
 それを「ご主人様~、見つけました、ワンワン!」的な、フリスビーを咥えて戻る犬みたいな気持にちょっとなりつつ持ち帰ると、大津はエントランスのところにいた。
「先輩、ありがとうございます。部屋は1階から3階で、22室ありました。11人いましたが、全員お眠りいただきました。しばらくは大丈夫ですが、さっそく先輩が取り出して下さった暗号文の解読を、部署に依頼しましょう。今日は、この湘南地域セルの麗奈ちゃんとは別の情報分析の人に、お願いしようと思います」
「昨日の人じゃないの?」
「ええ。僕、気が小さいので、2日連続で頼むとか、気が引けるんです。それにこの地域セルの分析の人も、物凄い腕利きなので」
「ふーん」
 俺様が取り出してやった暗号文とやらは、そこで大津にスマホのカメラで撮られた。それは何かアンティークな西洋飾り文字風の、短い文章だった。
 また俺に説明する風に、声を出しながら文字を打ち、大津はスマホを発信する。
「お疲れ様です。添付画像の暗号文を、解読してください。それと添付の画像の人物2人について、分かることがあったら、教えて下さい。大津より」
 それが終わると大津は俺に、
「仕事がキレキレに早い人なので、数分待ちましょう。私は学園にすぐに向かいたいのですが、『()いては事を仕損じる』です。ここは腹をくくって、待ちましょう。海を見ながら」と言った。
 そしてそのまま、山の裾野を見下ろした。
 俺は(あっ!)と心の中で、叫び声を上げた。鈍い俺でも、さすがに気が付いた。
 いや、今まで気が付かなかった俺が、とことん鈍いのか。
 見晴るかす、眩しく煌めく、大海原があった。
 そこには、優しい線を描いてなだらかに広がっていく山裾、そして気持よさそうにキラキラと輝く太平洋があった。
 そしてその中間、ちょうど眼下という位置に、祝典を控えた白っぽい何百人の人たちがいる、我が湘南宝光学園の校庭や校舎が、賑やかで楽しそうに、見えていたのだった。
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