第25話 秘密トンネルを急降下する!

文字数 1,649文字

 我々は半地下一階に下りていた。昨日俺たちが宿泊した懐かしの地下牢からは見えなかった奥間(チラッと一瞬見た、地下牢の前では、さっき大津がのした黒服大男が、まだ仰向けでのびていた)。特に変わったところは無い、黒いドアがあった。
 ギイィィ…という音とともに、ドアを開ける大津。
 おお! そこには確かに、狭いながらも確かに急こう配で、山すそに向かって下っていくと(おぼ)しき、秘密の地下トンネルがあった! なにか美しく滑らかなラインだ!
「もう出来てから、相当経つトンネルでしょうけど、適度なメンテナンスはされてますね。旧日本軍が本腰を入れて作ったトンネルは、コンクリートもしっかりしてますし」
 いやそうかあ? 湿気凄いぞ。見るからに足元もデコボコやぞ。照明無いんかい。そしてトロッコは? トロッコは無いの?
「こんな素敵なものがありました」
 大津がドアの陰から出してきたのは。……ママチャリ1台であった。しかも電動アシスト付きだった。萎える~。
「比較的、新しいですね。充電されてます。これで行きましょう。先輩、後ろに乗って下さい」
 俺はまたがった瞬間、バビューンと振り落とされるになった。
 あっという間に我々は出発した。そしてあっという間に、とんでもない速度まで加速した。(だじげでくれー!!! 暗いよー、速いよー、揺れるよー、恐いよー!)俺は、心で悲鳴を上げていた。
 ともかく速い。
 何と言っても速い。
 断固として、メチャクチャ速い。
(だじげでくれー!!!)
(もうやめぢぐれー!!!)
(おれがわるがっだー!!!)
(ギャウー!!! ピャギー!!! アププー!!! ドヒャー!!!)
 大津は目にもとまらぬ速さで、シャシャシャシャシャー! と両足を()いでいるし、電動アシストだ。なにより急勾配であって、味わったことのない速度が出ている。ママチャリのヘッドライトが前方を照らすのみだ。ガシガシ揺れている。
 ガタピシだ。リアルに脳髄が揺れている。下るというか、吸い込まれる、いや、ひたすら真っ逆さまに落ちてゆく感じ、他に言いようがニャイ、どう考えてもアリエニャイ、頭がおっかしくなる速度。
 俺は必死で、大津の背中にしがみつくのみであった。
「これ、時速、どの、くらい、出てんの?」
「分かりません。でも速度リミッターは、壊してありますね。たぶん、時速80キロくらいじゃないですか?」
「ギャー! 転んだら、死ぬな? 割りと、マジで!」
「気を付けます」
 およそ5分くらい、地獄も這って逃げ出すような、恐ろしい思いをした。それから山の裾野を過ぎたのか、若干勾配が緩くなり、速度も少し落ちたようだった。
 しばらくは漕ぐのに(ほとんど垂直落下するような自転車の操縦に)全集中していた大津が、口を開いた。
「もうあと少しで、学園まで着きますね。どこに出ますかね? ちなみに…さっき慶心大学の日吉キャンパスに、昔日本海軍の連合艦隊司令部地下(ごう)があった話を、しましたよね? その周辺には、今も射撃部射撃場とか、空手部とか柔道部とか、弓道部とか洋弓部とか拳闘部とか、そういう武闘系の部が、割りと密集してるんです。ネットで見ると。面白いですね。先輩流に言うと『ウケルー』みたいな。アッ、痛い! 暴力反対ですよお」
「慶心大学にしてみたら、戦争に加担した、黒歴史ってとこか?」
「いえ、それは違います」キッパリ大津は言った。「積極的な宣伝は今はしていませんが、全く隠してもいないし、秘かに誇りにしている感じですね」
「ふーん」
「立場の数だけ、正義はありますからね。勝敗はいつか着くにしても、自分の正義を信じて戦った方たちは、常に尊いですよ。後世の人は、絶対に敬意を払うべきです」
「まあ、分かるけど。それにしても式典、よく考えたらずいぶん早い時間にやるんだな」
「午後にはミユル皇太子様ほか、訪日メンバーは、都心方面に移られる予定のようです」
「そうか。なるほど」
「着きました」
 急ブレーキを掛け、我々の飛んできた自転車は、初めて現れた小さな平地に止まった。
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