第3話 最終決戦前のサッカー練習

文字数 936文字

 部室に入って、着替えてグラウンドへ。だんだん元気が(みなぎ)ってくる。
 そりゃまあ、明後日(あさって)負けたら引退(いんたい)なんだから、やっぱ今は、球蹴(たまけ)りちゃんに夢中にもなるさ!
 チームは緊張感(きんちょうかん)に満ちているものの、フィットネス温存(おんぞん)で軽めの練習(れんしゅう)。しかし細かくマンツーマンディフェンス、シュート練習、実戦形式(じっせんけいしき)の練習。何をやらせても大津が目立つ。
 大津に球が集まるのは、(こいつに(わた)せば何とかなる)という認識(にんしき)が、チームに「(あま)え」のように、広がっているからだ。全くこいつらときたら。馬鹿(ばか)の一つ(おぼ)えみたいに、大津に回す。
 そりゃあキラーパスにしろ、ぶっこ抜きシュートにしろ、大津に回せば、かなり局面打開(きょくめんだかい)されるけど。最上級生(さいじょうきゅうせい)意地(いじ)ってものがないのかね、このチームの3年生には。10人そうなんだけど! 
 あっ、ボールが俺んとこ来た。んじゃと。うんしょ。取りあえず大津にパスするか。って、うぉーい俺!
 次の瞬間(しゅんかん)、トラップから素早く振り向いた大津の足先から閃光(せんこう)のように振り抜かれた球は、ディフェンスの足先をすり抜け、バシーンと見事(みごと)にゴールに吸い込まれた。ボディーバランス、スピード、シュート力、コントロール、全て抜群(ばつぐん)だ。
 あー俺の全身、ピリピリ(しび)れてるぅ…。
 試合だったら、俺にアシストが付くって計算だ。こりゃあみんなが恥知(はじし)らずにポンポコ大津に球を集めるのも、分かるわ…。こういう時はとりあえず、パスした奴の頭の中は、()も言われぬ陶酔感(とうすいかん)で満ちている。
 体幹(たいかん)が強い。トラップもビタ止め。
 大津はドリブルも足にボールが吸い付くようだし、ゴール前の嗅覚(きゅうかく)(すご)い。ボールがセンタリングされる数秒前から、「その地点」に向けて一人弾丸(だんがん)みたいに、突撃(とつげき)してゆく感じ。オー君、やっぱ好き。あいちてゆ。言いたくもなる。
 これは恋? いや、それだけは無い! しかし地区予選で5連敗中の湘南工業高校に、今年こそ勝てるかもだ。肩でも()んだろか。クックックッ、(たな)から牡丹餅(ぼたもち)ではあるが、我がチームの秘密兵器(ひみつへいき)。本当に()げえ奴だなと、思い知らされる。
 そんなことで今日は、2時間くらい練習する。もちろん疲労(ひろう)が残らないように、まあ調整(ちょうせい)の軽めの練習。明後日(あさって)は…。
 楽しもう。出し切ろう。絶対勝つぞ! オー! 
 自分の中で、声がやかましい今日の俺であった。
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