第4話 蟹埼先生と名取先生の喧嘩

文字数 1,048文字

 俺たちの練習には、ドローンの空撮(くうさつ)がついていた。フォーメーションの研究をみんなでする。物理が担当の我が校の名物教師の1人、蟹埼(かにさき)先生。良くは知らないが、日本でも指折りのドローンの使い手という事で、何十回も大会で優勝している。
 太陽と仲良くしながら、ちょろちょろ飛び回り、俺たちのチームを研究する、黒い小型ドローン。クロドロ号。失点はよくセンターバック(つまり俺)のポジショニングの怠慢(たいまん)が原因だという結論を出すのは、少々(にく)らしいが、チームに良く貢献(こうけん)してくれている、頼もしい相棒だ。
 蟹埼先生、今日までありがと。サッカー部は感謝(かんしゃ)してる。というか我が校の「理系の先生とか、理系の生徒とか、理系のサークル」を隠然(いんぜん)とまとめる、総大将(そうだいしょう)的なポジションにいる。年齢は50くらい。身長は190くらいある。いつも白衣を着てる。すごい鉤鼻(かぎばな)()り深く、メガネは冷徹(れいてつ)な感じだ。ラジコン部の顧問をしている。
 とそこに、我が校のもう一人の名物教師、名取(なとり)先生まで現れた。愛犬の真っ黒いシェパードの、ニコニコ丸を連れてだ。
 このワン公がまた凄い優秀な競技犬で、これも俺は良くは知らないけど、アジリティーとかフライングディスクとか、ドッグスポーツの6種類のうちのいくつかで、大会チャンピオンのトロフィーを何十個も手にしているらしい(前足だろお前のは)。
 ここまで言えば、あとは分かるでしょ?
 名取先生は「文系の先生とか、文系の生徒とか、文系のサークル」を隠然とまとめる、総大将的なポジションにいる。人間(にんげん)関係(かんけい)的に逆らえないらしい。本人は生物部の顧問(こもん)である。授業では英語を担当している。
 そこまでは、良いのだが…。
 ハッキリ言ってこの2人、仲がとっても悪い。学園中の認識(にんしき)事項(じこう)で、テレビ湘南とかテレビ横浜でも、紹介されちった事もある。名取先生も50代か。ただしお(もち)のように丸いツヤツヤ顔、身長は160そこそこくらい、そのへんは蟹埼先生と対照(たいしょう)的。おもろい先生たちだ。
 会うとすぐに、喧嘩(けんか)を始める2人。それも「文系と理系はどちらが良いか」とか「文系と理系の部の予算割り当てをもっとうちに有利にしろ」とかならまだ可愛(かわい)い方で、今なんかは
「蟹埼先生、鼻毛(はなげ)が伸びてますな。人を不快(ふかい)にさせますな。教師たるものもう少し、対人(たいじん)関係(かんけい)気遣(きづか)いを持つべきです」
「すみません名取先生。先生の後頭部(こうとうぶ)から放たれる光の強さ(まぶ)しさも、実は他人に多大な迷惑(めいわく)を掛けてるという、気づきが欲しいです」
 とか泣けてくるほど下らない口撃(こうげき)で、いがみ合っている。
 本当に仲の悪い2人だった。
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