第26話 湘南宝光学園に到着する

文字数 711文字

 大体が、出発地の山の上と同じような雰囲気。ドアを探り当てる。開けると上に登る階段だけがあり、上階ドアを開けると、そこは犬舎だった。
 脳髄(のうずい)がまだ、揺れてる。
 犬臭い。俺の鼻はグリグリ回転しそう。
 エースのニコニコ丸はいない。確か名前はゴーゴー丸とビュンビュン丸、まだ子供の兄弟が、(すこ)やかな寝顔で眠っていた。
「ああ…可哀想に。2匹とも、安楽死処分されてるように見えますね」
「えっ? それマジか!」
 小並感たっぷりの情けない感想の言葉しか、動揺した俺の口からは、出てこない…。
 大津は1秒か2秒だけ目を瞑り、手を合わせ、
「急ぎましょう、あと2分しかありません!」と言って、駆け出した。
「お、おう」
 犬舎を出ると(まぶ)しい陽光と、ドローン部の部室が、お出迎えであった。
 それともう一人、素晴らしく目立たない服、薄紺のジャンパーにブラウンのパンツ、スニーカーを履いたおじさん、ミスターノーブランドの人が、たまたまそこにいた感じで、こっちを振り返って見ている。
 昨日タクシーの運転手をしていた、松本さんやんけ!
 大津と松本さんは目礼(もくれい)会釈(えしゃく)みたいのを一瞬しあったが、大津はダッシュ速度を落とさずに、校庭の方に猛スピードで駆けてゆく。
 松本さんは徹底的にぼんやりした顔をしたまま、俺には軽い敬礼(けいれい)めいたものをした。違う、違う、ワイはそんなんじゃない、ちょっと頭悪いんじゃないか松本さん。俺はそう思いながら、横を素通りする。
「子犬2匹を薬殺(やくさつ)して、不退転(ふたいてん)の決意、今日やり抜く覚悟ですね。先輩、ここが勝負です、気合を入れていきましょう!」
 そう言われても、俺に出来そうなことは何も無かった。だけどとりあえず、「お、おう!」と俺は、(わめ)くように答えた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み