第21話 由紀きゅんの独り言②

文字数 1,432文字

 そんな事を考えて気を紛らし、ボールペンをゆらゆら揺すったり鼻と口の間に挟んでタコみたいな顔をする、息子の真似をしていたら、麗しの君から、なんかメッセージが来た。
 キタキタキタキタ、キター! 大津くんから、メッセージキター!
 デートのお誘いだったら、どうしましょ。
 もちろんこの地下空間は、アンテナとケーブルを介して、あらゆる電波のやり取りが、地上と出来るようになっている。
 目をワクテカさせて文面を見ると、「お疲れ様です。添付画像のこの暗号文を、解読してください。それと添付の画像の人物2人について、分かることがあったら、教えて下さい。大津より」とかなってる。
 チェッ、デートのお誘いちゃうんかい。
 まあ、すぐ仕事に取り掛かる。
 画像読み込んで、文字解析から始める、これは古代ラテン語。文章解析。現代主要100言語への変換。ヒットしねえな。まあ当たり前。ここまで5秒。ここからは、暗号解析。まあAIがやるんだけどね。ワイは鼻と口でボールペン挟んだままやき。
 1文字ずらし2文字ずらし、3文字ずらし(シーザー暗号)みたいな幼稚園手法から始まって、古今東西あらゆるスタンダード技法へ対応した解析をする。
 秘密鍵は分かってねえけど、今回のお客さんはルボシア国関連だって知れてるので、手癖はAIちゃんも、ちゃんと予想がついている。これはアルゴリズムが分かっているのにほぼ等しい。暗号解析のトップ国はどこか? アメリカとかイギリスとか、イスラエルとかロシアとか想像する人も多いだろうが、こういう事にはむっつりスケベを決め込む日本も、実はほとんど頂点に立っている。
 解析長げえな。もう60秒掛かってるじゃん。120秒するとスパコンに自動接続して、更に高速で膨大な演算をする。

 由紀きゅんはその間、ちょっと大津くんのことを考えた。
 あの子なかなかだ。この前、ちょっと一回飲んだ。酒を。あの子強い。そして男前だし、優しい子だ。仕事も出来るらしい。
 別にニャンニャンしたいとは言わないが、キスくらいしてみてえなあ…笑。
『由紀さんは、大人の女性だから、お姫様抱っことか、嫌かな?』
『ううん。そんな事ないわ』
『じゃあちょっと、抱き上げさせてね。…うわっ、軽い! まるで羽毛のようだ!』
『嬉しいわ』
『由紀さん…』
『由紀って呼んで』
 とか会話してみてえ! グハー、興奮する! 
 やっぱ大津くんと結婚してえ! たまんねえなをい!
 なんてニャハハ。嘘、嘘。
 まあな、男の子は中二病とか言うけど、女はその2倍の強度の妄想を、生涯してる生き物だからな。隠してるけど。

 とか思っているうちに、暗号の解読は終了した。ピーッて。ピーッて。
 なぜかその瞬間、(ファツ! ヤベエ! なんかもう一つ依頼あったな)と思い出した。後半はと。
「それと添付の画像の人物2人について、分かることがあったら、教えて下さい。」
 ほほう。
 ルボシア共和国関連の内偵事案ということで諸々予習済みだし。由紀ちゃんは、一瞬でピンと来たこれ。
 2人の写真を若返らせてみる。20年ほど。
 それから太痩矯正を掛けて、昔こうであったという顔立ちにしてみる。
 これでも目にも止まらぬ速さで、カタカタカタカタカタカタカッって、キーボードぶっ叩いてる、ワイやねん。
 ピタコーン。それだけでもう目視判断できるが、一応AIに確認しても『その通りでございます、お姉様』だった。
 さっそく大津くんに回答しよう。
 あーん、お声が聞きたいな。電話しちゃお。
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