第16話 深夜の牢獄で作戦会議する④

文字数 1,138文字

「それで、麗奈ちゃんと私は、波止場に近いこの会社の倉庫に侵入して、金庫をこじ開けて、暗号指令書を盗み取って来たんですよね」
 そう言うと大津は、襟の裏から小さなオブジェを取り出して俺に見せた。龍と城と太陽か何かが組み合わさった、短い鉛筆を少し平たくしたような小さな物体だった。

「てかハア? なんだよお前、手錠を掛けられてたんじゃ、なかったの? 俺、掛けられてんだけど!」
「すみません。私は関節を外して、手錠を解きました。鍵がないと、先輩のは解けません。もう少し待って下さい」
 月明かりが、大津のほんの少し嬉しそうな微笑を映す。チクショー。
「この物体の中に暗号指令書が入っていることは、間違いないんですけど、開かないんです」
「おい大津、俺な、そういうカラクリ工作物の解体だけはな、昔から天才、大天才って言われてんだ。あとで手錠解いてくれたら、俺にちょっと見せてみろ」
「分かりました。期待しています」
 俺はまた大津の顔に、ごく弱くヘディングをした。別にせせら笑ってる風でもなかったが、それでもごく微量、(期待はしていません)成分が、感じられたのだ。本当に何もかもが頭に来る。俺は中二じゃないけれど。
「暗号の内容自体は、たとえばメール通信などで、やり直したはずです。彼らにとっては、僕らがこの通信を解読しない(・・・・・・・・・・)事が大切で、そのために、こうして危害も加えないで、拘束しているんだと思います」
「そこが良く分からない」
「ともかく麗奈ちゃんもそうだろうと思うのですが、私もこれの在り処ばかりを聞かれました。上手く隠し通せたのですが。今これを出したのは、この牢獄には隠しカメラも隠しマイクも無いと、確信できたからです。電子の揺らぎを、ずっと見ていて」
「そんなこと出来るのか?」
「ええ。ともかく、もう1回寝ましょう。私もひと眠りします。見張りは多分、もう少し、あと6時間後くらいに、この地下牢まで1回降りてきます。チャンスは1度、その一瞬が、勝負です。先輩、仮眠して下さい」
「頭が冴えて、眠れないよ」
「分かりました。それでは催眠します。先輩、私は文字通りの『眠らせるだけ』のシンプルな催眠は、得意なんです。私と話を10秒くらいすれば、人はたいてい、眠ってしまいます。言葉と音とリズムの中に、太古から潜まれた眠りのサインがあるんです。いいですか?」
「お、おう」
「夜の森をイメージして。月明かりの中にピラミッドが輝いているよ。あんなにも大きな、重いものが、何千年も傾かないのは、不思議だよね。そうとも星は知っている。夜風が運んでくる、宇宙の神秘を。地球には1万年前も、10万年前も、そのずっとずっと昔にも、高度な文め……が栄え……いたん……    」
 俺は、意識を(むし)り取られるように、眠ったようだった。
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