第27話 守り抜くぞ、皇太子さま!
文字数 1,970文字
山裾側から出た俺たちは、校舎の側面を回って駈けた。そして校庭(サッカーグラウンド)側に出た。
そこには目を見開くほど華やかな光景が、広がっていた。
手前に小さなステージがあり、今まさにルボシア国のミユル皇太子さまが、マイクの前に立たれて、何かを話そうとされている。脇には通訳のお姉さんがいる。そしてステージのこちら側(後背側)に何かの役員めいた人が、10人ぐらい座っている。
列席している人は3百人くらいか。みんなこちらを向いている。太陽の直射を受けて白く輝く服を、みんな着ている。そしてその後ろには、煌 めく太平洋の波が揺れている。
カモメが海上の蒼天 から、事件を見届けようとしていた。
大津は怯 むことなく、ルボシア国のミユル皇太子さまの背後に、突っ込んでいく。
ミユル皇太子さまが気づく前に、大津は彼の真後ろに立った。
と、その時、参列者の後方から、ニコニコ丸が中央通路を突っ切って、猛然と突進してきた。
大津は迷うことなく、ステージ下に飛び降りた。
ソフトターゲットの一人くらい、簡単に無効化出来るだけの小さな爆弾を、頭の前に付けていた。興奮剤を打たれて、凶暴 な目をしたニコニコ丸だった。大津は迷わず70キロ近くで猛然と向かってくるこの犬の喉元 に、シュパッと手刀を食らわした。ニコニコ丸は、大津にやられた人間と同じように、ドウと豪快 にではなく、クタッと崩れるように倒れた。ただ人間より手強い彼は、「キャン」と小さく声を上げた。
そのとき、俺からは全然視界に入らなかった頭上から、クロドロ号が、ルボシア国のミユル皇太子さまの頭上めがけて、猛速度で襲 ってきた。こちらも(後から知った話だが)ソフトターゲットなどたちどころに爆砕 する分量の小爆弾を、下部に抱え込んでいた。
そのとき大津は、ステージの上に駆け戻り、ありえないほど高く、2メートルは跳躍 した(いや俺は見ていた、大津はステージに足は掛けなかった。3メートル以上はフワッと飛んだ)。
そして小爆弾の雷管 部分でもなく、指ぐらい切れてしまうドローンの4機のプロペラでもない本体部分を、むんずと掴んで、ステージ上に着地した。上下をひっくり返してプロペラの動きを止める。そのまま大袈裟 にではなく、スススッと、俺の横を通り過ぎ、ステージ後方へと去ってゆく。
などとしている間に、世界で一番目立たないルックスと所作 振る舞いを身につけた松本さんが、スルスルと俺の横を通り過ぎ、気絶しているニコニコ丸の身体をよっこらしょと抱え上げ、(ステージに飛びあがる脚力は残念、無かった)ステージ脇から駆けあがり、また黒子のように目立たない動作で、大津の後を追った。
(目立たない、と言ってもニコニコ丸は大型犬で重いので、松本さんもガニ股になってワンちゃんを抱え上げ、えいしょ、こらしょと、ドタドタ運んでいたのだが、それがまた作業員の手慣れたルーティン作業風、この作業は毎日何十回もしてます風で、少しも非常事態の感じがない、落ち着いた所作なのであった)。
参列者はシン……としている。
「アトラクションです!競演 演武 の見世物でした。みなさま失礼しました!」
と、どこかから、若い男の声が聞こえた。
滅茶苦茶 な強引さで場の空気が、「それで納得しろ感」に、ねじ伏せられてゆく。
やっと、世界で二番目に鈍い感じのルボシア国のミユル皇太子さまが「何事かが起こった」事に気づき、オロオロした表情を見せたが、そこで世界で一番鈍い俺さえも、正気に戻った感じになり、ステージの後方、大津と松本さんの後を追った。
二人は犬舎の前に立っていた
「ニコニコ丸とクロドロ号と爆発物は、とりあえず、この中に入れて施錠 しました」
「そ、それは良かった。それで、蟹埼先生と名取先生は」
「アルジェ兄弟です」
「そ、そうだった。追わないでいいのか?」
「逃亡を図りましたが、既に会場に入っていた別の捜査官が、追っています。主要空港、主要港にも手配が行っています。確実に捕らえられると思います。石原由紀きゅんというお姉様が、抜かりなく手配をして下さいました。痛い! 先輩、頭突き禁止です」
「うっせー、このボケ!」
「あんまりやるとムキになって、由紀きゅんと結婚して、先輩のお義父さんになっちゃうぞ!」
「そ、それだけはやめて下さい!」
「ともかく、それより我々は、麗奈ちゃんを救出しないといけません。本事案の首謀者 とともに、今とらわれていると推定される場所に、これから向かいましょう」
「ああ」
「先輩、ここが本当の勝負です、麗奈ちゃんを救出する。僕たちの命に代えても、気合を入れて、いきましょう!」
そう言って大津は、今日の記念祝賀会場(俺たちのサッカーグラウンド)の反対側、湘南宝光学園の校舎の別館のようになっている、学園理事長館を、キッパリと指さしたのだった。
そこには目を見開くほど華やかな光景が、広がっていた。
手前に小さなステージがあり、今まさにルボシア国のミユル皇太子さまが、マイクの前に立たれて、何かを話そうとされている。脇には通訳のお姉さんがいる。そしてステージのこちら側(後背側)に何かの役員めいた人が、10人ぐらい座っている。
列席している人は3百人くらいか。みんなこちらを向いている。太陽の直射を受けて白く輝く服を、みんな着ている。そしてその後ろには、
カモメが海上の
大津は
ミユル皇太子さまが気づく前に、大津は彼の真後ろに立った。
と、その時、参列者の後方から、ニコニコ丸が中央通路を突っ切って、猛然と突進してきた。
大津は迷うことなく、ステージ下に飛び降りた。
ソフトターゲットの一人くらい、簡単に無効化出来るだけの小さな爆弾を、頭の前に付けていた。興奮剤を打たれて、
そのとき、俺からは全然視界に入らなかった頭上から、クロドロ号が、ルボシア国のミユル皇太子さまの頭上めがけて、猛速度で
そのとき大津は、ステージの上に駆け戻り、ありえないほど高く、2メートルは
そして小爆弾の
などとしている間に、世界で一番目立たないルックスと
(目立たない、と言ってもニコニコ丸は大型犬で重いので、松本さんもガニ股になってワンちゃんを抱え上げ、えいしょ、こらしょと、ドタドタ運んでいたのだが、それがまた作業員の手慣れたルーティン作業風、この作業は毎日何十回もしてます風で、少しも非常事態の感じがない、落ち着いた所作なのであった)。
参列者はシン……としている。
「アトラクションです!
と、どこかから、若い男の声が聞こえた。
やっと、世界で二番目に鈍い感じのルボシア国のミユル皇太子さまが「何事かが起こった」事に気づき、オロオロした表情を見せたが、そこで世界で一番鈍い俺さえも、正気に戻った感じになり、ステージの後方、大津と松本さんの後を追った。
二人は犬舎の前に立っていた
「ニコニコ丸とクロドロ号と爆発物は、とりあえず、この中に入れて
「そ、それは良かった。それで、蟹埼先生と名取先生は」
「アルジェ兄弟です」
「そ、そうだった。追わないでいいのか?」
「逃亡を図りましたが、既に会場に入っていた別の捜査官が、追っています。主要空港、主要港にも手配が行っています。確実に捕らえられると思います。石原由紀きゅんというお姉様が、抜かりなく手配をして下さいました。痛い! 先輩、頭突き禁止です」
「うっせー、このボケ!」
「あんまりやるとムキになって、由紀きゅんと結婚して、先輩のお義父さんになっちゃうぞ!」
「そ、それだけはやめて下さい!」
「ともかく、それより我々は、麗奈ちゃんを救出しないといけません。本事案の
「ああ」
「先輩、ここが本当の勝負です、麗奈ちゃんを救出する。僕たちの命に代えても、気合を入れて、いきましょう!」
そう言って大津は、今日の記念祝賀会場(俺たちのサッカーグラウンド)の反対側、湘南宝光学園の校舎の別館のようになっている、学園理事長館を、キッパリと指さしたのだった。