第8話 タクシー移動中に話をする①

文字数 1,328文字

「お前、俺と一緒に、麗奈探してくれるの?」
「もちろんです。お義兄さん。僕の愛する麗奈ちゃんの、お義兄さんですから」
「ありがと。だけど、一つだけ言ってもいい?」
「はい、何でしょう?」
「そのお義兄さんっての、ヤメテ、ヤメロ。今度言ったら、テメエ、頃すぞ。先輩か、キャプテンと言え!」
「分かりました」
「絶対だぞ」
「あ…、来ました」
 道路まで出て、俺たちがそれくらい話しているうちに、タクシーが来た。(お前、恥ずかしくないの?)と聞きたいくらいに古い、トヨツのクラーラの黄色いタクシーだった。
「吉野町の交差点まで、お願いします」
「はい」
 松本とかいう、浅黒いのに妙に印象に残らない顔の、30代くらいの運転手さんだった。吉野町はこの小さな市の、少し外れにある町だ。
「まず、何から説明しましょうか? アルグランドの件ですけど、これは先輩が、黒い大きなミニバンだと目撃してくれていた事で、あたりが付きました。たまたまですが、ナンバー覚えてました。先輩ありがとうございます」
「はあ…」
「昨日も先輩のお家の前に、止まってましたしね。元から内偵捜査の現場近辺で、たびたび目撃されてた車両なんです」
「内偵捜査って、何?」
「その件ですけどね…。実は私、警察関係の『いわゆるバイト』みたいな事を、ちょっとしてまして」
「バイト?」
「ええ、いわゆるバイト。とりあえず、そう把握しておいて下さい」
「はあ…」
「それでですね…いいですかキャプテン、落ち着いてゆっくり聞いてください、気を確かに、はい、息を吸ってー、吐いてー」
「早く言え」
「実は、麗奈さんも、そうなんです。絶対に秘密、家族にも秘密、そういう事で新規に運営され始めたんです。詳しく言うと、麗奈さんは公安の本流が組成させている『地域セル』のメンバー。私は外事課が試行を開始した『少年育成桔梗グループ警視庁高校』のメンバーです。今回、協力して内偵をしてたんですが、実は…」
「…………ハァアアア? なんですとーーー! 何言ってんの、このウンコ野郎! そんな事あるわけねえだろ、頃すぞ!」
「キャプテン、話を聞いて下さい。落ち着いて下さい。麗奈さんは、週3回ダンス教室に通われてるでしょ。それです」
「何言ってんだお前、いつもちゃんとレッスンして、発表会とかにも、お、俺行ってるもん! 草ァ! 草ァ! 誰がそんな話、信じるかよ!」
「事実は小説より奇なりって、言うじゃないですか。信じる者は救われるですよ」
「救われねえよ、そんなウソ話を信じても、ボケ!」
「うふふ…」大津は限りなく薄っぺらく両目と口を笑わせた後、今俺らが話していた事をぶった切って、
「それで先日、内偵捜査で深夜の波止場の倉庫に潜入した時、ブツの存在は確認できたんですが、ちょっと問題が発生しまして。つまりですね、僕が生徒手帳を、現場に落としたらしいんです」
「はあ…。それは間抜けだな!」
「すいません、言い間違えました。落としたのは麗奈ちゃんでした。(ムキッ)。ただ状況を総合的に判断して、直ちには危害は加えられないと思っています。ただ、もちろん救出はしないといけません。それで今、有力な情報協力者のところに、向かっています」
「はあ…」
 とか話しているうちに、タクシーは止まった。
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