第30話 最終サッカー大決戦!
文字数 2,098文字
翌日、俺たちは高校選手権の地区予選の決勝である、大宿敵の悪魔校の湘南工業高校戦の、ピッチに立っていた。
ハッキリ言って、うちの方が大きく負け越してる。通算対戦成績は、30敗くらい多いんじゃないか? と部では言われている、地域の強豪であった。
少なくともここ5年くらいは、勝っていない。
俺たちは理事長代理こと御所園 美姫 が「心筋梗塞 」で急逝 したため、喪章 をつけて試合に臨んだ。
どこから情報が漏れていたのか、大津という超強力な新戦力がいることは、しっかり伝わっていて、彼はキックオフ直後から、徹底的な2人がかりのマークを受けた。
相手は5バックで、ガチガチに守備を固めていた。
そのためうちは、バックスから中盤までは比較的自由に球を持てるが、そこから先はパスコースを限定され、フィニッシュまで持ち込めない展開で、前半は互いにスコアレスで終わった。
うちが押しているようにも見えたが、相手の速攻の反撃も鋭く、こっちも必死に防戦したが、2度もバーを叩いた相手の「惜しいシュート」を食らった。サッカーを知ってる人ほど、相手が優勢の前半と見る、という感じ。大変苦しい。
ハーフタイムで大津が提案して、中盤を厚くして、互いの距離感を近くし、動き出しの連動性を高める戦術を取った。
後半、それでもうちは、なかなかフィニッシュまで持ち込めない。
後半になったら大津の前に1人、横に2人、さらに徹底的に張り付いて、なかなか大津もボールを触れない。
しかしついに、均衡 が破れる。サイドから内に返ったボールを右に流れた大津が受け、1人抜き、自ら切れ込んで放った豪快 なミドルシュートが、ゴールネットを揺 らした。
しかしそれから3分の後、こっちのフルバックが痛恨 のクリアミスを犯し、相手はいとも簡単に、同点に追いついてしまう。
あ゛? それは誰って? はい、そうです。私です。
だからあ! 言ってたでしょ!
俺は、疲れてたの。妹の事件で。
分かる? その「伏線」として、俺は何度も何度も「疲れた」って、言ってきたの。そのためだけに。了解した?
ま、それはともかく。
試合の残り時間は、あと5分無かった。
我々は、左コーナーキックを獲得した。
これが最後かもしれない。俺たちはキーパー以外、みんな敵のバイタルエリアに入り、決死の覚悟で陣取った。
そのとき大津が、みんなを自分の傍 に寄ってこさせた。
なぜかその時みんなが、大津のお呼び付けに従った。ほぼほぼ10人が、ちょっと集まった。極短ミーティングのようなムードが、醸 し出された。そしてまるで、主将のように言った(ムキッ)。
「先輩方、ここが勝負です、気合を入れていきましょう!」
(ワイはそのセリフ、昨日も聞いたけどなー。口癖かよ! 勝負セリフかよ。フン! なんかカッコええなあ)
「ニアと見せかけて、ファーの自分に合わせて下さい」と大津は続けた。
「はい、みんな、早く散って! 時間稼ぎしない! プレー続行!」
審判のお叱りを受け、広がろうとする俺たち。
そのとき大津が、
「キャプテン、キャプテンが、蹴 って下さい」と言った。
そのとき周りのみんなを見ると、みんな俺の目をシッカリ見ながら、
(ウン)
(ウン)と頷き、
(大津キャプテンが言ってんだから、お前が蹴れ。早くしろ)みたいに眼力 で命じていた。
俺は完全に爆発的にアッタマ来た。が、試合に勝ちたい気持でいっぱいだったので、蹴ることにした。
いつもは気の利かない仲間たちが、手を上げたりしながら、ニアに走りこむ。
そこで俺は、ファーの大津を目掛けて、渾身 のボールを、蹴り上げた。
(シマッタ! あまりにも高く、蹴り過ぎた!)
俺がそう思った時、大津が敵の肩に手も当てながら、昨日と同じように、見たことも無いほど、3メートルも飛びあがった。そしてありえないほど長く最高到達点にとどまって滞空し、ドンピシャのタイミング、前頭部でボールを、ズドーン! と叩きつけた。
ボールは美しい稲妻のような閃光を放ち、敵のゴールキーパーの虚空 を掻 き出そうとする虚 しい腕振りの一寸 先 を通過し、ボゴッ、ズジャーッ! とネットに、食い込んだのだった。
俺はその瞬間、両腕を広げ、曇り空の全体を覆うようになった大津の大きな黒い姿を見て、
(こいつ、やっぱり鬼神 だったんや……)と、確信した。なにかストンと心に落ちて、納得したのだった。割りとマジで。
俺たちも、応援してくれる家族やクラスメートたちも、大興奮の勝ち越し点。それからロスタイムも入れて10分近く、俺たちは奮闘 し、激戦を勝ち抜いたのだった。
(やったー! 学校パンフレットや、学校ホームページに、載 るどー!)
俺たちは勝利の美酒、いやコーラやスナック菓子で、祝勝ミーティングをした。こんなにうまい酒は、もといジュースは無かった。全身の毛穴から嬉しさとか満足感が溢 れだし、俺は何度も、大津パイセンに礼や褒 め言葉を、与えたのだった。
行くぜ国立(ムリ)。輝く青春。湘南宝光学園万歳! 味わったことのない、胸の中をスースーと通り抜けていく風のような勝利の喜びに、我々はいつまでも、いつまでも、浸 っていた。
ハッキリ言って、うちの方が大きく負け越してる。通算対戦成績は、30敗くらい多いんじゃないか? と部では言われている、地域の強豪であった。
少なくともここ5年くらいは、勝っていない。
俺たちは理事長代理こと
どこから情報が漏れていたのか、大津という超強力な新戦力がいることは、しっかり伝わっていて、彼はキックオフ直後から、徹底的な2人がかりのマークを受けた。
相手は5バックで、ガチガチに守備を固めていた。
そのためうちは、バックスから中盤までは比較的自由に球を持てるが、そこから先はパスコースを限定され、フィニッシュまで持ち込めない展開で、前半は互いにスコアレスで終わった。
うちが押しているようにも見えたが、相手の速攻の反撃も鋭く、こっちも必死に防戦したが、2度もバーを叩いた相手の「惜しいシュート」を食らった。サッカーを知ってる人ほど、相手が優勢の前半と見る、という感じ。大変苦しい。
ハーフタイムで大津が提案して、中盤を厚くして、互いの距離感を近くし、動き出しの連動性を高める戦術を取った。
後半、それでもうちは、なかなかフィニッシュまで持ち込めない。
後半になったら大津の前に1人、横に2人、さらに徹底的に張り付いて、なかなか大津もボールを触れない。
しかしついに、
しかしそれから3分の後、こっちのフルバックが
あ゛? それは誰って? はい、そうです。私です。
だからあ! 言ってたでしょ!
俺は、疲れてたの。妹の事件で。
分かる? その「伏線」として、俺は何度も何度も「疲れた」って、言ってきたの。そのためだけに。了解した?
ま、それはともかく。
試合の残り時間は、あと5分無かった。
我々は、左コーナーキックを獲得した。
これが最後かもしれない。俺たちはキーパー以外、みんな敵のバイタルエリアに入り、決死の覚悟で陣取った。
そのとき大津が、みんなを自分の
なぜかその時みんなが、大津のお呼び付けに従った。ほぼほぼ10人が、ちょっと集まった。極短ミーティングのようなムードが、
「先輩方、ここが勝負です、気合を入れていきましょう!」
(ワイはそのセリフ、昨日も聞いたけどなー。口癖かよ! 勝負セリフかよ。フン! なんかカッコええなあ)
「ニアと見せかけて、ファーの自分に合わせて下さい」と大津は続けた。
「はい、みんな、早く散って! 時間稼ぎしない! プレー続行!」
審判のお叱りを受け、広がろうとする俺たち。
そのとき大津が、
「キャプテン、キャプテンが、
そのとき周りのみんなを見ると、みんな俺の目をシッカリ見ながら、
(ウン)
(ウン)と頷き、
(大津キャプテンが言ってんだから、お前が蹴れ。早くしろ)みたいに
俺は完全に爆発的にアッタマ来た。が、試合に勝ちたい気持でいっぱいだったので、蹴ることにした。
いつもは気の利かない仲間たちが、手を上げたりしながら、ニアに走りこむ。
そこで俺は、ファーの大津を目掛けて、
(シマッタ! あまりにも高く、蹴り過ぎた!)
俺がそう思った時、大津が敵の肩に手も当てながら、昨日と同じように、見たことも無いほど、3メートルも飛びあがった。そしてありえないほど長く最高到達点にとどまって滞空し、ドンピシャのタイミング、前頭部でボールを、ズドーン! と叩きつけた。
ボールは美しい稲妻のような閃光を放ち、敵のゴールキーパーの
俺はその瞬間、両腕を広げ、曇り空の全体を覆うようになった大津の大きな黒い姿を見て、
(こいつ、やっぱり
俺たちも、応援してくれる家族やクラスメートたちも、大興奮の勝ち越し点。それからロスタイムも入れて10分近く、俺たちは
(やったー! 学校パンフレットや、学校ホームページに、
俺たちは勝利の美酒、いやコーラやスナック菓子で、祝勝ミーティングをした。こんなにうまい酒は、もといジュースは無かった。全身の毛穴から嬉しさとか満足感が
行くぜ国立(ムリ)。輝く青春。湘南宝光学園万歳! 味わったことのない、胸の中をスースーと通り抜けていく風のような勝利の喜びに、我々はいつまでも、いつまでも、