第27話 暖炉に飾られた櫛のこと

文字数 491文字

 不輝城の最もみじめな主、怒れるアルフロンのために建てられた骨の館には、彼の宝物で満たされた宝の間があるそうだ。壁紙の模様から窓の桟に至るまで語りぐさに困らぬ部屋で、とりわけ、入り口の正面にある大暖炉のマントルピースは、紫と白のサラー石の一枚岩から造られており、時のうねりを形にとらえた魔術的に美しい代物という。石工がこれを完成させた日の晩には、その工房をふしぎなものが替わるがわる訪ねてきて、マントルピースを譲ってほしいと取引を持ち掛け、脅し、懇願したそうだ。
 そのマントルピースの上に飾られたものと言えば、ただ一つ陶器の皿の上にみすぼらしい櫛が載っているという。特に美しいわけでも、見事なわけでもないフベの木の櫛は、古びて木目の方向に割れ、表面にはカビが生え、いつもわずかに湿っている――夜になると、暖炉のそばで髪をとかす女の影が見え、翌朝には櫛が水浸しになっているからだ。
 正体はアルフロンに溺死させられた妾妃の霊と信じられており、その水で剣を研ぐとふつうよりも仕上がりが良いというので、毎朝その水を集めに行くことが鍛冶屋の小僧に課せられる一番最初の試練になっているのだとか。
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