第18話 ミシ・ルガンの馬捕りのこと

文字数 826文字

 これは、ある博打好きの女が、サンカラ(シアニクラン港を発祥とするカードゲームの一種)に狂ったあげく、親から受け継いだ身代ばかりか向こう十年の食い扶持までもつぎこんで、夜逃げの準備をしていたときに、よく一緒に負けて酒を飲んでいた乞食の爺から、せんべつだと言って教えられたことそうだ。
 彼女は、その老人が賭け事に使う金をいつどうやって稼いでいるのか、つねづね不思議に思っていたので、もしや儲け話しのひとつも教えてくれるのかと期待したのだが、どうも良くない酒で酔いつぶれたときの幻のような内容で、最初はとても信じることができず、老人を罵りたおして追い払った。
 けれど実際、わずかばかりの荷物を負ってひそかに街の門を出て、月に見張られ、人けのない道をあてもなく歩いているうちに、もし老人の話が本当で、貴族が城中の馬とひきかえにするほどの財宝を一夜にして得ることができるなら、試してみても良いという気になったのだった。
 老人の話しというのは、こうだった。
 彼女が逃げ出したアーリル・ドゥガンの近くにはミシ・ルガンという湖があり、それをふところに抱くようにして三つの丘がそびえている。雲吐く森につつまれたその三つの丘からくだる霧と湖からのぼる霧が朝な夕な水上を満たすために、ミシ・ルガン(満たされた器)の名がついた。
 そのミシ・ルガンの霧が朝焼けに染まるとき、エニシダの若枝で編んだ輪をツルニチニチソウのつるで編んだ縄の先につけて投げると、霧でできた馬が捕れる。そこに馬がいることは、首にかかった輪がゆれるのと、縄が引かれるのでわかるのだそうだ。その馬をつれて、湖の周りをだれにも会わずに一周すると、不輝城に招かれ、その馬を買い取ってもらえるという。
 それで、実際にためしてみたのか尋ねたが、彼女は「やるもんじゃないね」と答えて意味深に笑い、それ以上教えてくれなかった。
 彼女の左手は、なにかに食いちぎられたかのように、手のひらから半分、なくなっているのだった。
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