第30話 糸繰ネズミの巣材のこと

文字数 352文字

 糸繰ネズミが現れるのは、人々が気持ちよくうたた寝をしている時だ。午後の日差しが肩を抱き、窓から入ったかぐわしいスフリの花の香りが息を清めてくれる、そんなまろやかな美しい眠りに、あれらは集まる。そして夢見る者の頭から、絹糸のようなこまやかな繊維を引き出して、それを巣に持ち帰り、ナッツやクルミ、時には豆や花の種を、その白く柔い糸でまゆのようにくるみこむ。
 糸繰ネズミの巣そのものも、その繊維で作られる。その中で冬を越した木の実は、気を失うほどに甘く、アルコールのように芳醇で、古い木のようにほろ苦い香りがするという。
 不輝城の鳥の館のサン・ルームにある鳥の生る木は、好奇心旺盛な少年だった三代目の城主が糸繰ネズミをつかまえたとき、巣から持ち出したイチジクが手からこぼれて、瞬時に芽吹いたものなのだそうだ。
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