第21話 同じ雨に当たること

文字数 476文字

 不輝城では、会うに会えない者や、遠くのものの消息を知りたいとき、雨の日にわざと雨具をまとわずに外へ出ることがあるという。
 それも、ただ出るのではなく、雨を讃え、地面の流水を踏むことを詫び、謙虚に爪先だって、その機嫌を取るようにせねばならない。あるいは、冗談だろうか、外へ出る前にきれいに体を洗い、裸のまま靴も履かずに歩き回るのが良いとも言う。
 とにかく雲の下に出て、一歩ごと、進むたびに止まっては、祈り、神経を研ぎ澄ませる。水のざわめきに染まった耳が、雨の声を聞くように。
 なんでも、雨滴は雲の指先だから、案じる相手が同じ雨に降られていれば、その肩に触れたときのことを、頬を撫でた感触を、雲が伝えてくれるという。
 また、答えのない物思いにふける人のことを、不輝城では「雨乞い屋」とからかうことがあるそうだ。

 シェーネには、当地にあった生命の実をつけるスモモの木の守護者が英雄ロデにそそのかされてはるか北のオクタシオンの森に出掛けていたとき、森の木から滴った雨が彼のスモモの最後の花の落ちたことを語り、その心臓を止めてしまったという昔話が伝わっている。
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