山小屋の夜

文字数 935文字

風が唸り、窓を揺らす。
朝の好天が嘘のような猛吹雪だ。

「夕方には下山してるはずだったのに……。もうここで夜を明かすしかないな」
和也が窓の外を見てため息をついた。

廉は動揺を押し殺していた。
幸い山小屋には薪ストーブと十分な量の薪があるので凍える心配はないし、食料も持ってきている。
問題は和也と二人きりで一夜を過ごすことだ。

二人は大学の山岳部で知り合った。
廉は上背もあり、ほどよく筋肉質な体格であったが、和也は線が細く、中性的な魅力があった。
当時から廉は女性にモテたが、和也しか目に入らなかった。
しかし告白して付き合いたいと思っているわけではない。
俺は友達としてしか見られていない。だが、特別な一番の親友として信頼されている。
それで十分だと自身に言い聞かせてきた。

卒業後も二人で行動することはよくあったが、二人きりで一晩過ごすのは今回が初めてだった。
「朝には晴れるだろう。寝てしまえばあっという間だ」
廉は平静を装って言ったが、緊張で声が固くなっているのが自分でも分かった。

薪ストーブのおかげで部屋はだいぶ暖まってきた。
「暑くなってきたな……」
和也がアウターを脱いだ。中はぴったりしたニットで、細い腰のラインがはっきりと分かる。
廉は急いで目をそらした。
まともに和也を見ることができなかった。
「どうした、具合でも悪いのか?」
廉の様子がおかしいことに和也は気づき、側に寄って額に触れようとした。

心配そうに見つめる瞳。
少し蒸気した頬。
白くて細い手首。

廉は慌ててその手を避けた。
和也は驚き、傷ついたような表情を見せた。
「なんでもないんだ。もしかしたらちょっと風邪をひいたのかもしれない。うつすと悪いからあまり近寄らない方がいいぞ」
必死で取り繕う廉を、和也はいぶかしむように見ていた。

夕食をとる間も、廉は落ち着かなかった。食事がすむと具合が悪いと嘘をついて、早々に布団に入った。
すると、あろうことか、和也がいっしょに布団に入ってきたのだ。
「な、何してるんだ、風邪がうつるぞ」
「具合悪いなんて嘘だろ? 寒いからいっしょに寝よう」
「寒いなら、もっと火を強くしろ!」
「……察しろよ、鈍感」
和也が廉の広い胸に顔を埋めた。
廉はおずおずと、その背に手を回した。

外は吹雪だというのに、とても熱い夜だった。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み