月の海

文字数 317文字

月の海には水がない。それは銀色に輝く砂の海である。
海辺には古いベンチが一脚。僕と彼とは、毎日そこで身をよせあい、海を眺めている。
今日も海は凪いでいる。毎日、何も変わらない。
海が悲しそうだったり、嬉しそうだったりするのは、ただ僕の心がそうだというだけだ。
この海はそのまま、僕の心だ。

色彩の無い海に、青い地球が沈もうとしている。
彼は遠い目で、それを見つめている。
そんな時、僕はたまらなく寂しくなる。
ふと、彼が僕を見る。キスをして、抱き合う。
僕たちの周りには、漆黒の宇宙がどこまでも広がっている。

ここは重力が六分の一しかないので、ふわふわとして、とても心許ない。
僕たちは、お互いしかしがみつくものがないのだ。
月には、他に誰もいないのだから。



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