由緒ある神社

文字数 467文字

「今年こそ恋人ができますように」

S神社はこの辺りではもっとも由緒ある神社だ。
三が日ともなれば、参拝客が大勢詰めかける。

家にいるのもいい加減飽きたし、仲のいい友達は彼女と初詣へ行った。
ぼくはひとり寂しく、散歩がてら恋愛祈願に訪れたのだった。

帰り道、前を歩くお嬢さんがマフラーを落とした。
上品な白いウールのコートに身を包んだ、小柄な後ろ姿。
もしかして、早速チャンス到来か?

「落としましたよ」
期待に胸をふくらませ、声をかける。

「ありがとうございます」
振り返った彼女はおとなしそうな、愛らしい顔だちをしていた。
しかし彼女は、ドキドキするぼくを置いてそそくさと立ち去った。

そりゃそうだよな。
こんなことで恋人出来たら苦労しないよな。

「落としましたよ」
「え?」

振り返ると、高身長の爽やかイケメンがにこやかにぼくを見ている。
彼の手にはぼくの財布がある。マフラーを拾う時、落としたのかもしれない。

ドキドキするのは、さっきの彼女のせいだろうか?
それとも、目の前の彼に対してだろうか?

「ありがとうございます」
「良かったらお茶でも?」

さすがは由緒ある神社だ。





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