アクロバティックな彼 ※

文字数 1,288文字

『マンネリ解消! 魅惑の体位特集!』
何気なく男性誌をめくっていたら、そんなタイトルの記事が目に飛び込んできた。
レオタード姿の女性が、嘘みたいなアクロバティックなポーズを決めて笑っている。両脚を頭の後ろで組んでいるのだ。
人間技じゃないなと思いながら見ていたら、いつの間にかパートナーの涼が隣から覗き込んでいた。
「康太、俺、これやる!」
「え? 何言ってるの? そんなことしなくていいよ!」
「やるよ! 体の柔らかさには自信があるんだ」
「無理だよ、こんなポーズ。この人はきっとヨガマスターか何かなんだ。真似したら危ないよ」
「俺だってできるよ! 小さい頃体操やってたんだ」
涼は可愛い顔をして本当に負けず嫌いだ。そんなところもすごく可愛い。
「分かった。でも絶対無理するなよ。それから、準備体操を念入りにやるんだぞ」
「うん、俺がんばるからね」

涼は開脚して柔軟体操を始めた。俺は上体を後ろから押してやったが、自信があるだけあってなかなか柔らかい。
「よし、このくらいでいいかな。早速やってみよう」
涼がそう言うので、二人で服を脱いで全裸になった。
「目のやり場に困るから前は隠しとけよ。俺が脚を持ち上げてやるから」
涼が仰向けに寝て両手で大切な部分を隠し、俺がゆっくり両脚を持ち上げた。頭の高さまでは楽に持ち上がったが、その後が難しかった。
「痛くないか?」
「大丈夫……ゆっくりお願い」
「無理するなよ。痛かったらちゃんと言えよ」
「うん……もうちょっと……あっ」
ゴキッという音と共に、両脚が頭の後ろに掛かった。
「やった! できたぞ、涼」
「そうだね、康太……でも、ちょっとやばそう……」
「え?」
「全く動かせない……」
俺は焦って脚を外そうとした。
「いたたたたた!!!」
「涼! 大丈夫か?」
「どうしよう? 俺、一生このままなのかな?」涼は泣き出してしまった。
たしかにこれは素人の手に負えるものではなさそうだ。涼のこんなあられもない姿を誰にも見せたくはないが、背に腹は代えられない。
「安心しろ、涼。うちの近所に整形外科がある。中山先生は俺のテニス肘を完治させた名医なんだ。きっと助けてくれるよ」

俺は急いで服を着て、涼を抱き上げて荷車に乗せ、上から毛布を掛けて中山整形外科に駆け込んだ。
どういうわけか待合室は、毛布にくるんだ何かを乗せた荷車と、それを押す男性でひしめき合っていた。
一時間ほど待たされて診察室に入ると、初老のイケおじである中山先生が、呆れ顔で俺たちを見た。
「またか、何で今日はこういう患者ばかりなんだ」と首を捻りながらも、手早く涼の股関節を外して頭から両脚を下ろし、股関節をはめ直した。

「一時はどうなるかと思った」家に帰って服を着ると、涼はようやく笑顔を見せた。
例の雑誌を見ると、写真の下に小さく注意書きがある。
「『男性は体の構造上難しいので、決して真似をしないで下さい』だって。涼、もう無茶するなよ」
「だって、康太が喜ぶと思ったんだよ。マンネリ感じてたんでしょ?」
おどおどしながら上目遣いで言う。愛しさがこみ上げて額にキスをした。
「ばかだなあ、マンネリなんてあるわけないだろ。お前はほんと可愛いよ」


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