腐ったミカ

文字数 738文字

授業の終了を知らせるベルがなった。
「ミカ、帰ろ」ユミがミカに声をかける。

ミカとユミは、学校のことやファッションことなどを話しながら、並んで歩いた。
二人が通うのは、市内で真ん中くらいの偏差値の女子高だ。二人はその中でも真ん中くらいの成績で、いわゆるモブ。話題も価値観もよく似ていて、何かと気があった。
しかしミカには、ユミにさえ言えない秘密がある。ミカは腐女子だった。

「コンビニ寄っていい?」ユミが言った。
二人でおしゃべりしながらお菓子の棚をだらだらと見ていたとき、ミカの鋭い目が、視界の端に二人連れの男子の姿をとらえた。
一人は背が高く、いかにもおしゃれで女の子に人気がありそうなタイプだ。もう一人は今時の髪型をしているものの、小柄で黒髪の目立たなそうな子だった。
(こっちが受けだな)
何事もないかのように変わらず話を続け、視線はユミの方へ向けながらも、ミカの神経は彼らに集中していた。

「腹へったなー。肉まん買おうかな」
「いいなー。俺もそうしよっかな」

二人の男子は少し離れた場所にいるが、ミカの耳は彼らの会話を確実に拾い、ユミの話と聞き分けている。

「あ、金なかった!」
「しょうがねえなあ、半分やるよ。ほら」
「わー。ありがと!」

これは予想外だった。仲良く肉まんを半分こして微笑み合う様子に、ミカの鍛え抜かれた表情筋も、つい弛んでしまうのを押さえられない。

(私は今きっとすごく変な顔をしているはずだ。ユミに気づかれてはならない)
ミカは、必死で何でもない表情を取り繕おうとしていた。

ふとユミを見ると、彼女はすごく変な顔をしていた。
ユミもミカを見た。
二人は変な顔をしたまま視線を交わした。相手が何を考えているのか、言葉にせずとも分かった。
やはり二人は、本当に気の合う親友同士だったのである。



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