エピローグ
文字数 843文字
僕は一人で駅へ向かう道を歩いていた。
花火大会終了から長い時間が経っていたため、通りではほとんど人とすれ違わなかった。
橋のたもとの街灯の下に二人の人影があった。夏彦と夏鈴さんだった。
「遅かったじゃないか」
再三に渡って身勝手な行動に走ったにも関わらず、夏彦は平然と僕を迎え入れてくれた。
ちなみに無事に合流できたのは夏彦から渡されたモバイルバッテリーのおかげだった。これがなければ僕のスマホは電池切れを起こしたまま、連絡を取り合うことができずにいただろう。こうして合流することも不可能だったはずだ。
「え? センパイ、泣いてたんスか?」
夏彦の横に立っていた夏鈴さんが驚いたように訊いてきた。
「え?」
僕は頬に手を触れると、夏鈴さんの言う通りに濡れたあとがあった。
「ああ、うん。そうみたいだね」
すると夏鈴さんは遅れて腹を立てたみたいに声をトゲトゲさせて言った。
「なんかおかしくないッスか? どうしてあたしのことを振ったセンパイが泣いてるんスか。泣く役が違くないッスか?」
ゴン、と夏彦が夏鈴さんの頭をゲンコツした。
「お前なんてさっきまで川が氾濫しそうなほど号泣していただろうが。おかげで屋上にいた人たち全員に、俺まで白い目で見られたんだからな」
「だからって頭を叩くな、バカ兄貴。脳細胞が死んでバカ兄貴みたいにバカになったらどうしてくれるんだ、バカ兄貴!」
二人のやりとりは僕を日常へと引き戻してくれるかのようだった。
「……で」
駅へ向けて歩き出す前に、夏彦が改まって訊ねてきた。
「どうだったんだ?」
たったそれだけの質問だったけれど、その簡潔さが僕にはありがたかった。
「……夏が、終わったんだ」
夏彦はしばらく僕を見つめていたけれど、やがて小さく頷いた。
「そうか。じゃあ、帰るか」
「うん」
僕は前へ足を踏み出した。新しい季節がもう近くまで来ている。
おわり
花火大会終了から長い時間が経っていたため、通りではほとんど人とすれ違わなかった。
橋のたもとの街灯の下に二人の人影があった。夏彦と夏鈴さんだった。
「遅かったじゃないか」
再三に渡って身勝手な行動に走ったにも関わらず、夏彦は平然と僕を迎え入れてくれた。
ちなみに無事に合流できたのは夏彦から渡されたモバイルバッテリーのおかげだった。これがなければ僕のスマホは電池切れを起こしたまま、連絡を取り合うことができずにいただろう。こうして合流することも不可能だったはずだ。
「え? センパイ、泣いてたんスか?」
夏彦の横に立っていた夏鈴さんが驚いたように訊いてきた。
「え?」
僕は頬に手を触れると、夏鈴さんの言う通りに濡れたあとがあった。
「ああ、うん。そうみたいだね」
すると夏鈴さんは遅れて腹を立てたみたいに声をトゲトゲさせて言った。
「なんかおかしくないッスか? どうしてあたしのことを振ったセンパイが泣いてるんスか。泣く役が違くないッスか?」
ゴン、と夏彦が夏鈴さんの頭をゲンコツした。
「お前なんてさっきまで川が氾濫しそうなほど号泣していただろうが。おかげで屋上にいた人たち全員に、俺まで白い目で見られたんだからな」
「だからって頭を叩くな、バカ兄貴。脳細胞が死んでバカ兄貴みたいにバカになったらどうしてくれるんだ、バカ兄貴!」
二人のやりとりは僕を日常へと引き戻してくれるかのようだった。
「……で」
駅へ向けて歩き出す前に、夏彦が改まって訊ねてきた。
「どうだったんだ?」
たったそれだけの質問だったけれど、その簡潔さが僕にはありがたかった。
「……夏が、終わったんだ」
夏彦はしばらく僕を見つめていたけれど、やがて小さく頷いた。
「そうか。じゃあ、帰るか」
「うん」
僕は前へ足を踏み出した。新しい季節がもう近くまで来ている。
おわり