第13夜 こいぬ座は 忠犬猟犬 メランポス

文字数 1,072文字

冬の大三角の一角を担う「こいぬ座」。
α星のプロキオンは、シリウスに先駆けて地平線から姿を現します。

今夜は、「こいぬ座」の物語をご紹介しましょう。

「僕の名前は、メランポス。アクタイオン様の猟犬だ。
 アクタイオン様は狩りの名人なんだぜ。
 いつも僕と一緒に大活躍だ。
 あ、獲物だ。それ!
 ・・・ふっふっふ。大きな鹿を一発で仕留めたぞ。
 僕がこうやって、獲物を仕留めるとアクタイオン様は、いつだって、
 『よくやったぞ、メランポス』って言って頭をなでて下さるんだ。
 アクタイオン様~、今日も獲物をしとめましたよぉ。
 ワォォォォオオン」

メランポスは、立派な鹿を倒し、主人アクタイオンを待ちます。
しかし、どうしたことでしょう。
今日に限って、アクタイオンはなかなか姿を現しません。

「ご主人様~、アクタイオン様~・・・ワオォォオオン」

なかなか現れないアクタイオンを待つメランポスの目には、涙がいっぱいです。
主人、アクタイオンは、一体どこへ行ってしまったのでしょう?

半時ほど前のこと。
アクタイオンは、獲物を求めて森の奥深くを歩いていました。

パシャーン・・・パシャーン・・・

アクタイオンの耳に何やら水の音が聞こえます。
「こんな森の奥に泉でもあったろうか?」
アクタイオンは、音をたよりに森の更に奥へと入ってゆきました。
すると森が急に開け小さなん泉が姿を表しました。
その森の奥の泉では、美しい女性が水浴びをしているではありませんか。
「なんてきれいな女性なんだ・・・」
アクタイオンが女性に見とれていると、彼女もアクタイオンに気づきました。

なんと、水浴びをしていたのは、月の女神アルテミスだったのです。
アルテミスは、狩りの女神でもあり、そして、純血の女神でもありました。
男性のアクタイオンに裸体を覗き見られたアルテミスは、恥ずかしさと怒りでいっぱいです。
「そなた、『女神アルテミスの裸を見た』とみなに言いふらすが良い」
アクタイオンに呪いを込めて泉の水をかけました。

呪いの水をかぶったアクタイオンは、みるみる鹿の姿に変えられてしまいました。
「そなた、『女神アルテミスの裸を見た』とみなに言いふらすが良い」
鹿の姿に変えられたアクタイオンは、言いふらすことなど、出来ようがありません。

・・・鹿?
そうです。
先ほど、メランポスが倒した鹿の正体は、主人アクタイオンの変わり果てた姿だったのでした。

「ご主人様~、アクタイオン様~・・・ワオォォオオン」

帰らぬ主人を目に涙を溜めて待つメランポス。
こいぬ座のβ星ゴメイサ (Gomeisa) は、「泣きぬれた瞳」という意味の名を持つ3等星です。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み