第30夜 へびつかい アスクレピオスは お医者様

文字数 2,096文字

夏の夜空から「へび座」と「へびつかい座」をご紹介しましょう。
「へびつかい座」は、「さそり座」を踏みつけるような位置に描かれています。

全天に星座は、88。
天球を89の区域に分け、88の星座名をつけました。
星座の名前は88なのに区域は89あるのです。
その訳は・・・実は、2つの区域を持つ星座があるのです。
その星座は、「へび座」。
星図を見ると「蛇の頭部」と「蛇の尾部」の2つの領域に分けられていますね。
真ん中の「蛇の胴体」に当たるところは、「へびつかい座」の領域です。

星座の面積は・・・「へびつかい座」の面積は、948平方度で、全天の約2.3%。
88星座の中では、11番目の大きさです。
一方、「へび座」は、頭部(西側)が 429 平方度(約1%)、尾部(東側)は 208 平方度(0.5%)です。
両方あわせると637平方度(約1.5%)となり23位です。
(ちなみに、88星座で最大の星座は「うみへび座」で、面積最大で1303平方度、約3.2%です。)
「へび座」と「へびつかい座」を合計すると1585平方度(約3.8%)で、全天最大星座となります。

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うみへび座  1303平方度、約3.2%
へびつかい座  948平方度、約2.3%
へび座(両方で) 637平方度、約1.5%
へび+蛇つかい座 1585平方度、約3.8%
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大昔、「へび座」と「へびつかい座」は、一つの星座でした。
しかし、紀元2世紀の「トレミーの48星座」には、「へび座」「へびつかい座」という2つの星座として記されています。

ところで、「へびつかい座」には、太陽の通り道「黄道」が通っています。
しかし、星占いの「黄道12星座」には、「へびつかい座」は含まれていません。
「黄道12星座」は、黄道を春分点から12等分して星座名を割り振っており、実際の星座の境界とは関係ないのです。
以前、「13星座占い」という話題がありその時には黄道12星座に「へびつかい座」も加えて13の星座で占いをしていました。
ただ、13は素数であるため占いには向かないようです。
(素数とは、1とその数でしか割れない数です。
 一方、12という数字は、2でも3でも4でも6でも割れるためグループ分けができます。
 星占いの場合、3星座ずつ4つのグループに分け「相性」を占ったりしますからね。)

さて、「へびつかい座」に話を戻しましょう。
88の星座の名前には「いて座」「ぎょしゃ座」など職業名の星座がいくつかあります。
「へびつかい座」もその一つです。
蛇を遣う職業ですが、「大道芸人」ではありません。
星座の「へびつかい」は、お医者さんです。
注射器などの医療器具がなかった時代のお医者さんは、いろいろ工夫したんでしょうね。
蛇は、不老不死の象徴です。
蛇が脱皮する様子をみた古代の人々は、「脱皮することで蛇は若返り、永遠に死なない」と考えたようです。

===
へびつかい座のモデルは、ギリシャ神話に登場するアスクレピオスです。

いて座となったケンタウルス族のケイローンの弟子で、それはそれは優秀な医者でした。
何しろ、どんな怪我でも病気でもたちどころに直すという名医です。

ところが、ある日、アスクレピオスは大変な失敗をしてしまいました。
そんな凄い名医がどんな失敗をしたのでしょう。
なんと! 死んだ人を生き返らせてしまったんです。
・・・それって、失敗なんでしょうか?
大成功のような気がしますよね。
生き返った人は喜びました。
でも、もっと喜んだのは、生き返った人のご家族ですね。

「アスクレピオス先生、ありがとう!」
「嬉しいな」
みんな喜んだのですが・・・
「これはマズイ!」
と最初に気づいたのは黄泉の国の王様ハデスでした。
大神ゼウスに訴え出ます。
「あのアスクレピオスという医者は、けしからん。
 死んだ者をどんどん生き返らせてしまっているぞ。
 そんなことをされたら我が国へ来る者がいなくなってしまうではないか!」

みなさんもそろそろお気づきになったんじゃないでしょうか?
赤ちゃんが生まれて・・・怪我をしたらアスクレピオスが直します。
子どもが病気になったらアスクレピオスが直します。
歳をとって死んでしまったら・・・アスクレピオスが直します。
・・・誰も死なない世界。
人口爆発です。

そこで、ゼウスはアスクレピオスを天に招いて星座にすることにしました。
「アスクレピオスよ。お前は優秀な医者だ。天に上げ星座にしてやろう」
星座となったアスクレピオス。
もう死者を生き返らせることはできなくなりました。
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1604年10月9日、へびつかい座に超新星が現れました。
1604年は、まだ、望遠鏡が発明される前です。
(望遠鏡の発明は、1608年10月)
当時は、「天上界は神様の世界で永遠不変」と考えられていました。
この超新星は、当時、熱心に観測し記録を残した天文学者に因んで「ケプラーの星」と呼ばれています。
(有名な「ケプラーの法則」のヨハネス・ケプラーです。)

ケプラーの星は、18か月にわたって肉眼で観測ができ、最も明るい時には、-2.5等級と夜空のどの星よりも明るかったということです。
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