第33夜 夏の夜に 悲しき琴の音 オルフェウス

文字数 1,310文字

夜空に輝く「こと座」。
全天88星座の中で唯一の楽器の星座です。
今夜は、「こと座」のギリシャ神話をお話をいたしましょう。

琴の名人オルフェウス。
彼の奏でる琴の音は、それはそれは素晴らしく、聞いている人の心を癒すばかりか、
動物や草木さえも聞き惚れるほどの腕前でした。

オルフェウスは、
美しい妻エウリディケと二人仲良く暮らしておりました。

しかし、ある日、エウリディケは、野で毒蛇にかまれて死んでしまいます。
彼は、亡くなった妻を追って黄泉の国への旅を決意しました。

普通、生きた人間は黄泉の国へは入ることはできません。
黄泉の国の番人たちは、オルフェウスの行く手を阻もうとします。
そこで、オルフェウスは得意の琴を奏でました。
オルフェウスの琴の音の美しさに聞きほれた番人たちは、彼を通してくれました。

オルフェウスは、黄泉の国の王ハデスの前に進み出ると「愛する妻エウリディケを返して欲しい」と訴えました。
しかし、ハデスは「一度死んだ者を返すことはできない」と拒みます。
オルフェウスは、ハデスの前でも琴を奏で、自身の思いを伝えました。

ハデスの妻のペルセポネはオルフェウスの琴の音に心を動かされ、ハデスにエウリディケを返してやるよう進言しました。

そこでハデスは、言いました。
「オルフェウスよ。
 妻のエウリディケを返すにあたり一つ条件を出そう。
 地上に到着するまでは、決して妻の顔を見てはいけない。
 エウリディケは、お前の後を必ずついて行かせるから。
 決して振り返ってはならない。
 良いな」

オルフェウスは、喜びました。
苦労の旅路は報われたのです。
地上への道のりは長く険しいものでしたが、帰り道は彼の行く手を阻むものはありません。
地上まで戻れば、妻は自分の元へと返ってくるのです。
オルフェウスは喜びいっぱいで地上への道を上って行きました。

しかし、黄泉の国から地上までの道のりは長すぎました。
旅路に疲れてきたオルフェウスの脳裏に不安な気持ちが過りました。

「おかしいぞ。エウリディケの足音がしないのではないか?」

洞窟に響く足音は、自分のものだけに思えました。
自分が立ち止まると足音も止まります。
再び、歩き始めれば・・・これは、2人分の足音だろうか?

「そういえば、ハデスは『死者を返したくない』と言っていた。
 もしかして、『エウリディケを返す』というのは嘘では?
 黄泉の国への道のりは長く遠い。
 地上へ戻れば諦めるとでも思ったのだろうか」

オルフェウスが地上に近づくにつれてハデスへの疑いの気持ちはどんどん大きくなりました。

そして、地上の光が一筋見えたその時、オルフェウスは堪らず、後ろを振り返ってしまいました。

「しまった!」

そこには、悲しそうな妻エウリディケの姿がありました。
オルフェウスは、手を伸ばしましたが、それよりも速く彼女は深い闇の中へと呑み込まれてしまいました。

オルフェウスは、今一度、黄泉の国へと向かいましたが、番人たちはハデスとの約束を破ったオルフェウスを2度と通してはくれませんでした。
オルフェウスは、悲しみのうちに琴を打ち捨て、その琴は、神の手により天に上げられました。

これが、こと座。
今でも天の川の畔で、美しい音色を独り奏でています。
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