第21夜 七つ星 神の遣いの 豚だった!
文字数 1,487文字
春の北天高く輝く「北斗七星」。
今夜は、中国に伝わる「北斗七星」のお話です。
===
「上人様に取り次いでくれ」
一人の老婆が、「渾天寺」へやってきた。
老婆は、一行上人の古い知り合いだったのだ。
上人「おぉ…これは、これは、お久しぶりですね」
一行上人が優しく声をかけると老婆は突然、泣きだした。
老婆「む、無実じゃあ。
セガレは…無実なんじゃぁ…うわぁぁん。
『人殺し』なんかしとらん。
なんとか、セガレを助けてやってくれぇぇ」
なんと、老婆の息子は、殺人事件の犯人と間違えられて捕らえられてしまったという。
しかも死刑が確定しているというたのだ。
上人「私の立場では、法律を曲げることはできない…」
世話になった人からの頼みとはいえ、死刑判決を変更させることは、一行上人でも難しい。
一行上人は、天を見上げた。そこには、満天の星空が広がっていた。
上人「しかし、無実の人を見殺しにはできない…」
一行上人の見上げる天には、北斗七星が輝いていた。
しばらく考えて一行上人は、寺男を呼び出した。
上人「これから頼むことは、他言無用です。よいですね。
まず、この大広間に大きな瓶を7つ用意してください。
そして、明日、昼から日暮れまでの間に町向こうの荒れ庭で待っていてください。
そこへやって来る物がありますから、それをこの大きな布袋に全て捕らえてください。
全部で7匹になります。
捕らえた物は、先に用意した瓶に入れ、木の蓋をして泥で封じてしまってください。
頼みましたよ。」
翌日午後、荒れ庭に隠れる寺男の姿があった。
しばらくすると彼方から砂煙を上げてなにかがやってきた。
寺男は、物に片っ端から大きな袋をかぶせ次々と捕らえた。
全部で7つの袋が、寺男の前でモコモコと動く。
寺男は、袋ごと持ち帰り、大広間に用意した瓶に1匹ずつ閉じ込め封をした。
渾天寺に玄宗皇帝のお使いがやってきたのは、その翌日のことだった。
一行上人に「至急のお召し」とのことである。
朝の御殿へ一行上人が駆けつけると玄宗皇帝は、謁見の間で待ちかねていた。
玄宗「一行上人、さっそくの相談事で申し訳ない。
実は、昨夜、天文博士から『北斗七星が突然見えなくなった』との報告が入った。
『北斗七星』は、天の要に次ぐ重要な星だ。
何か不吉な事の前兆ではと案じているところ」
皇帝陛下の表情は、大変厳しいものであった。
玄宗「そなたの見解を聞きたい。」
一行上人は、厳かな口調で答えた。
上人「一行、謹んで申し上げます。
『北斗七星』が消え失せたとは、古今東西、聞きも及ばぬ一大事。
無実の者が、人を殺したという罪をきせられ、死罪となることを天帝がお怒りであるためと存じます。」
玄宗「…うむ。天帝の怒りを静めねばなるまい。」
御殿より戻った一行上人は、渾天寺の大広間に寺男を呼んだ。
大広間には、大きな瓶が7つ並んでいる。
今から、蓋を開け、中の物を逃がすというのである。
寺男「せっかく捕まえたのに逃がしちまうんですかい?」
上人「いつまでも『北斗七星』が戻らぬと皇帝陛下が心配されますからね」
一行上人は、寺男に瓶の蓋を開けさせた。
鳴き声とともに天に七匹の豚が駆け昇っていった。
上人「ある男が裁判に掛けられたとき、法廷に豚が七匹現れてうずくまったという。
お蔭で、その男は、無罪になったそうだ。
男は日頃から『北斗七星』を信仰していた。
『北斗七星』の化身である豚を決して食べなかったということだ」
寺男「あの豚は、北斗七星だったんですか…」
一行上人と寺男たちが見上げる夜空で『北斗七星』がキラリと瞬いた。
今夜は、中国に伝わる「北斗七星」のお話です。
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「上人様に取り次いでくれ」
一人の老婆が、「渾天寺」へやってきた。
老婆は、一行上人の古い知り合いだったのだ。
上人「おぉ…これは、これは、お久しぶりですね」
一行上人が優しく声をかけると老婆は突然、泣きだした。
老婆「む、無実じゃあ。
セガレは…無実なんじゃぁ…うわぁぁん。
『人殺し』なんかしとらん。
なんとか、セガレを助けてやってくれぇぇ」
なんと、老婆の息子は、殺人事件の犯人と間違えられて捕らえられてしまったという。
しかも死刑が確定しているというたのだ。
上人「私の立場では、法律を曲げることはできない…」
世話になった人からの頼みとはいえ、死刑判決を変更させることは、一行上人でも難しい。
一行上人は、天を見上げた。そこには、満天の星空が広がっていた。
上人「しかし、無実の人を見殺しにはできない…」
一行上人の見上げる天には、北斗七星が輝いていた。
しばらく考えて一行上人は、寺男を呼び出した。
上人「これから頼むことは、他言無用です。よいですね。
まず、この大広間に大きな瓶を7つ用意してください。
そして、明日、昼から日暮れまでの間に町向こうの荒れ庭で待っていてください。
そこへやって来る物がありますから、それをこの大きな布袋に全て捕らえてください。
全部で7匹になります。
捕らえた物は、先に用意した瓶に入れ、木の蓋をして泥で封じてしまってください。
頼みましたよ。」
翌日午後、荒れ庭に隠れる寺男の姿があった。
しばらくすると彼方から砂煙を上げてなにかがやってきた。
寺男は、物に片っ端から大きな袋をかぶせ次々と捕らえた。
全部で7つの袋が、寺男の前でモコモコと動く。
寺男は、袋ごと持ち帰り、大広間に用意した瓶に1匹ずつ閉じ込め封をした。
渾天寺に玄宗皇帝のお使いがやってきたのは、その翌日のことだった。
一行上人に「至急のお召し」とのことである。
朝の御殿へ一行上人が駆けつけると玄宗皇帝は、謁見の間で待ちかねていた。
玄宗「一行上人、さっそくの相談事で申し訳ない。
実は、昨夜、天文博士から『北斗七星が突然見えなくなった』との報告が入った。
『北斗七星』は、天の要に次ぐ重要な星だ。
何か不吉な事の前兆ではと案じているところ」
皇帝陛下の表情は、大変厳しいものであった。
玄宗「そなたの見解を聞きたい。」
一行上人は、厳かな口調で答えた。
上人「一行、謹んで申し上げます。
『北斗七星』が消え失せたとは、古今東西、聞きも及ばぬ一大事。
無実の者が、人を殺したという罪をきせられ、死罪となることを天帝がお怒りであるためと存じます。」
玄宗「…うむ。天帝の怒りを静めねばなるまい。」
御殿より戻った一行上人は、渾天寺の大広間に寺男を呼んだ。
大広間には、大きな瓶が7つ並んでいる。
今から、蓋を開け、中の物を逃がすというのである。
寺男「せっかく捕まえたのに逃がしちまうんですかい?」
上人「いつまでも『北斗七星』が戻らぬと皇帝陛下が心配されますからね」
一行上人は、寺男に瓶の蓋を開けさせた。
鳴き声とともに天に七匹の豚が駆け昇っていった。
上人「ある男が裁判に掛けられたとき、法廷に豚が七匹現れてうずくまったという。
お蔭で、その男は、無罪になったそうだ。
男は日頃から『北斗七星』を信仰していた。
『北斗七星』の化身である豚を決して食べなかったということだ」
寺男「あの豚は、北斗七星だったんですか…」
一行上人と寺男たちが見上げる夜空で『北斗七星』がキラリと瞬いた。