第14話 賊徒の王国、タン・キエム
文字数 1,592文字
タン・キエムは、旅商団の天幕から日を跨がずに到着できる程の近隣にあった。外観は他の国と同様に防壁で囲っているが、手入れさえされていないのか所々汚れが見えており、噂を裏付けている。
「クリスティ、街に入るぞ。離れないようにな」
後ろを付いて歩くクリスティが、こくり、と頷いた。外壁からぐるりと遠回りして門に近付くが、門兵が居ない。勝手に扉を押して開いてみると、明らかに兵士ではない装いをしている男が座り込んで、こちらを訝し気に睨んでいる。
「おい、入国の代金は払ったのかあ?50ビルだぜ! ぎゃはは!」
吹っ掛けられたのは法外な入国代。カインは、剣を抜いて男の首元に向けてやった。あまりに淡々としていたせいか、男は避ける間も無かったようで、一気に怯えた表情に塗り替わった。
「通るぞ」
了承を得た訳ではないが、男が何かを言ってくる気配も無かったため、そのまま剣を収めて素通りした。タン・キエムの特徴的な、岩肌がむき出しのまま造られた街と、屋台が立ち並ぶ風景が見えてきた。この街は巨大な岩が街の中心に聳えており、そこから切り崩して住居などに利用し集落を形成している。
商店街を進んでいくと、住人達は明らかにおびえた様子だった。それもそのはず、兵士が警備する時のように、盗賊達が徒党を組んで街中を巡回していた。恐らくは防衛や統括的な分野まで、盗賊達に支配されてしまっているのだろう。
カインは極力関わらないようにして目的に注力することにした。外套で頭からすっぽり隠し、まばらな人混みの中をするすると進んでいく。時々、盗賊達が住人を恫喝している声が聞こえてきたが、今は何も出来そうにない。薬は高価であまり取り扱いがないが、この街の規模なら、旅商宿付近に最も商人の出入りが多いはず。通りからすぐの旅商宿に入った。
この街の状況を反映してか、宿泊している旅商団の姿は無かった。それでも商店数はこれまでに比べて多く、いくつか薬を扱っている店もあった。品ぞろえの良い店を探して、店主に端紙を渡した。
「97ビルだね」
「これで」
代金を店主に渡すと、一瞬驚きの表情を見せたものの、すぐに品物を取りに向かって行った。薬を待つ間、ふとクリスティの方を見やると目が合った。クリスティは視線が合ったのが嬉しかったのか、小さくにんまりと笑って見せた。そんな彼女の背後へ近寄ってくる人影が見えた。やや異質な様子を感じ取り、カインはクリスティに傍へ来るよう促した。
「おう、邪魔するぜ。俺が頼んでた酒は届いてるのか?」
やけに大柄で、屈強な体つきの男が店にやって来た。粗暴な外見に反して、その声色は静かで、威圧感は感じさせない喋り方だった。男の後ろに続いて取り巻きらしき男たちが数人、店に入って来る。
「はっ……ベネデット様! ただいまお持ちします!」
「あー、この兄ちゃんが先だろうから、その後でいい」
男は、慌てて品物を持ってこようとする店主を諫め、こちらを優先するよう言った。店主はへぇ、と小さく返事をして、再び奥に引っ込んだ。すると、ベネデットという男が親し気に声をかけてきた。
「兄さん、金持ちだな。入場料高かっただろうに。こんな街に何の用だよ?」
「仲間内に病人が出て、その薬を買いに来た」
カインは男と敢えて目を合わせないまま、淡々と答えた。店主の態度からして、あまり関わりを持たない方が良いと判断したからだ。
「ふうん。そりゃ大変だ」
男は興味を失ったのか、つまらなそうに目線を外したようだった。ちょうどその時に、店主が薬を持って現れた。カインは品物をさっと受け取り、すぐに店から立ち去る。カインに続いて、クリスティが小走りで付いて行った。
「お前ら、あいつを追え」
ベネデットは取り巻きに指示をして後を追わせ、そのまま店主に含みのある笑みを向けた。店主は震えあがり、慌ててベネデットから頼まれていた酒を取りに戻った。
「クリスティ、街に入るぞ。離れないようにな」
後ろを付いて歩くクリスティが、こくり、と頷いた。外壁からぐるりと遠回りして門に近付くが、門兵が居ない。勝手に扉を押して開いてみると、明らかに兵士ではない装いをしている男が座り込んで、こちらを訝し気に睨んでいる。
「おい、入国の代金は払ったのかあ?50ビルだぜ! ぎゃはは!」
吹っ掛けられたのは法外な入国代。カインは、剣を抜いて男の首元に向けてやった。あまりに淡々としていたせいか、男は避ける間も無かったようで、一気に怯えた表情に塗り替わった。
「通るぞ」
了承を得た訳ではないが、男が何かを言ってくる気配も無かったため、そのまま剣を収めて素通りした。タン・キエムの特徴的な、岩肌がむき出しのまま造られた街と、屋台が立ち並ぶ風景が見えてきた。この街は巨大な岩が街の中心に聳えており、そこから切り崩して住居などに利用し集落を形成している。
商店街を進んでいくと、住人達は明らかにおびえた様子だった。それもそのはず、兵士が警備する時のように、盗賊達が徒党を組んで街中を巡回していた。恐らくは防衛や統括的な分野まで、盗賊達に支配されてしまっているのだろう。
カインは極力関わらないようにして目的に注力することにした。外套で頭からすっぽり隠し、まばらな人混みの中をするすると進んでいく。時々、盗賊達が住人を恫喝している声が聞こえてきたが、今は何も出来そうにない。薬は高価であまり取り扱いがないが、この街の規模なら、旅商宿付近に最も商人の出入りが多いはず。通りからすぐの旅商宿に入った。
この街の状況を反映してか、宿泊している旅商団の姿は無かった。それでも商店数はこれまでに比べて多く、いくつか薬を扱っている店もあった。品ぞろえの良い店を探して、店主に端紙を渡した。
「97ビルだね」
「これで」
代金を店主に渡すと、一瞬驚きの表情を見せたものの、すぐに品物を取りに向かって行った。薬を待つ間、ふとクリスティの方を見やると目が合った。クリスティは視線が合ったのが嬉しかったのか、小さくにんまりと笑って見せた。そんな彼女の背後へ近寄ってくる人影が見えた。やや異質な様子を感じ取り、カインはクリスティに傍へ来るよう促した。
「おう、邪魔するぜ。俺が頼んでた酒は届いてるのか?」
やけに大柄で、屈強な体つきの男が店にやって来た。粗暴な外見に反して、その声色は静かで、威圧感は感じさせない喋り方だった。男の後ろに続いて取り巻きらしき男たちが数人、店に入って来る。
「はっ……ベネデット様! ただいまお持ちします!」
「あー、この兄ちゃんが先だろうから、その後でいい」
男は、慌てて品物を持ってこようとする店主を諫め、こちらを優先するよう言った。店主はへぇ、と小さく返事をして、再び奥に引っ込んだ。すると、ベネデットという男が親し気に声をかけてきた。
「兄さん、金持ちだな。入場料高かっただろうに。こんな街に何の用だよ?」
「仲間内に病人が出て、その薬を買いに来た」
カインは男と敢えて目を合わせないまま、淡々と答えた。店主の態度からして、あまり関わりを持たない方が良いと判断したからだ。
「ふうん。そりゃ大変だ」
男は興味を失ったのか、つまらなそうに目線を外したようだった。ちょうどその時に、店主が薬を持って現れた。カインは品物をさっと受け取り、すぐに店から立ち去る。カインに続いて、クリスティが小走りで付いて行った。
「お前ら、あいつを追え」
ベネデットは取り巻きに指示をして後を追わせ、そのまま店主に含みのある笑みを向けた。店主は震えあがり、慌ててベネデットから頼まれていた酒を取りに戻った。