第4話 予知夢

文字数 1,002文字

 ルナは夢を見た。

 豪奢な飾り付けのされた大広間のまんなかで、ひざまづく銀髪の男。
 長い口上のあと、公爵の徽章をつけた初老の男が、純白の布でおおわれた台からそっと王冠をとりあげて、高くささげた。
 右の脇から、裾の長い衣装を幾重にもかさねた女が、鞘にはいった宝剣をもって出てくる。
 左の脇から、4つの宝石をのせた盆をもった女が。
「アルセア王に、永遠の誉れあらんことを、」
 初老の男がそういって、王冠を男の頭にのせた。
「アルセア王に、豊穣の恵みあらんことを。」
 盆をもった女がそういって、茶色の宝石を王冠にはめこむ。
「アルセア王に、善き風の恵みあらんことを。」無色の宝石を、
「アルセア王に、遠き海の恵みあらんことを。」青い宝石を、
「アルセア王に、毅き火の恵みあらんことを。」赤い宝石を。
 そして、
「我らアルセアの民に、王の守護あらんことを。」
 剣をもった女が、男の胸に宝剣をおしあてる。
 男は、たちあがり、受け取った剣をすらりと抜き放った。
 剣身には、銘が刻んである。
 それは、この大陸の名であり、闇を祓う戦士の名であり、初代アルセア王の名でもあった。
 公爵が、最後の口上をのべる。
 それは、男の名と、王となった男がこれから名乗る名の2つであった。



 そして、目の前にいるその男は、いくぶん若いようにも見えたが、やはり王には違いなかった。
 
 すっ、

 と、なめらかに膝をついて、ルナは顔を伏せたまま男に伝えた。
「アーサー=アルセア。あなたは、王となるべき人です。」



「…なぜ、」
 とつぜんのことに、アーサーはぼんやり問い返すしかなかった。
「夢に見たからです。アーサー=アルセア」
 巫女はよどみなく応える。
 きょうは巫女衣装ではなく、ありふれた地味なワンピースだ。しかし、大通りの真ん中でひざまづいていれば、いやでも目立つ。
「そんなふうに呼ばないでください、巫女」
「なぜですか?」
 アーサーは言葉に詰まった。
「ぼくの姓は──」
 ふだん使っている、母方の姓を言おうとすると、
「ああ、わかりました。」
 わざとのように、会話の間をはずして、
「では、こうお呼びします。……アーサー=ブルガナン。今は、まだ。」
 それは、アーサーの父方の姓だった。
 そして、魔物の王、闇王国の首魁ブラストを弑した者に与えられる、英雄の姓であった。
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