第4話 予知夢
文字数 1,002文字
ルナは夢を見た。
豪奢な飾り付けのされた大広間のまんなかで、ひざまづく銀髪の男。
長い口上のあと、公爵の徽章をつけた初老の男が、純白の布でおおわれた台からそっと王冠をとりあげて、高くささげた。
右の脇から、裾の長い衣装を幾重にもかさねた女が、鞘にはいった宝剣をもって出てくる。
左の脇から、4つの宝石をのせた盆をもった女が。
「アルセア王に、永遠の誉れあらんことを、」
初老の男がそういって、王冠を男の頭にのせた。
「アルセア王に、豊穣の恵みあらんことを。」
盆をもった女がそういって、茶色の宝石を王冠にはめこむ。
「アルセア王に、善き風の恵みあらんことを。」無色の宝石を、
「アルセア王に、遠き海の恵みあらんことを。」青い宝石を、
「アルセア王に、毅き火の恵みあらんことを。」赤い宝石を。
そして、
「我らアルセアの民に、王の守護あらんことを。」
剣をもった女が、男の胸に宝剣をおしあてる。
男は、たちあがり、受け取った剣をすらりと抜き放った。
剣身には、銘が刻んである。
それは、この大陸の名であり、闇を祓う戦士の名であり、初代アルセア王の名でもあった。
公爵が、最後の口上をのべる。
それは、男の名と、王となった男がこれから名乗る名の2つであった。
*
そして、目の前にいるその男は、いくぶん若いようにも見えたが、やはり王には違いなかった。
すっ、
と、なめらかに膝をついて、ルナは顔を伏せたまま男に伝えた。
「アーサー=アルセア。あなたは、王となるべき人です。」
*
「…なぜ、」
とつぜんのことに、アーサーはぼんやり問い返すしかなかった。
「夢に見たからです。アーサー=アルセア」
巫女はよどみなく応える。
きょうは巫女衣装ではなく、ありふれた地味なワンピースだ。しかし、大通りの真ん中でひざまづいていれば、いやでも目立つ。
「そんなふうに呼ばないでください、巫女」
「なぜですか?」
アーサーは言葉に詰まった。
「ぼくの姓は──」
ふだん使っている、母方の姓を言おうとすると、
「ああ、わかりました。」
わざとのように、会話の間をはずして、
「では、こうお呼びします。……アーサー=ブルガナン。今は、まだ。」
それは、アーサーの父方の姓だった。
そして、魔物の王、闇王国の首魁ブラストを弑した者に与えられる、英雄の姓であった。
豪奢な飾り付けのされた大広間のまんなかで、ひざまづく銀髪の男。
長い口上のあと、公爵の徽章をつけた初老の男が、純白の布でおおわれた台からそっと王冠をとりあげて、高くささげた。
右の脇から、裾の長い衣装を幾重にもかさねた女が、鞘にはいった宝剣をもって出てくる。
左の脇から、4つの宝石をのせた盆をもった女が。
「アルセア王に、永遠の誉れあらんことを、」
初老の男がそういって、王冠を男の頭にのせた。
「アルセア王に、豊穣の恵みあらんことを。」
盆をもった女がそういって、茶色の宝石を王冠にはめこむ。
「アルセア王に、善き風の恵みあらんことを。」無色の宝石を、
「アルセア王に、遠き海の恵みあらんことを。」青い宝石を、
「アルセア王に、毅き火の恵みあらんことを。」赤い宝石を。
そして、
「我らアルセアの民に、王の守護あらんことを。」
剣をもった女が、男の胸に宝剣をおしあてる。
男は、たちあがり、受け取った剣をすらりと抜き放った。
剣身には、銘が刻んである。
それは、この大陸の名であり、闇を祓う戦士の名であり、初代アルセア王の名でもあった。
公爵が、最後の口上をのべる。
それは、男の名と、王となった男がこれから名乗る名の2つであった。
*
そして、目の前にいるその男は、いくぶん若いようにも見えたが、やはり王には違いなかった。
すっ、
と、なめらかに膝をついて、ルナは顔を伏せたまま男に伝えた。
「アーサー=アルセア。あなたは、王となるべき人です。」
*
「…なぜ、」
とつぜんのことに、アーサーはぼんやり問い返すしかなかった。
「夢に見たからです。アーサー=アルセア」
巫女はよどみなく応える。
きょうは巫女衣装ではなく、ありふれた地味なワンピースだ。しかし、大通りの真ん中でひざまづいていれば、いやでも目立つ。
「そんなふうに呼ばないでください、巫女」
「なぜですか?」
アーサーは言葉に詰まった。
「ぼくの姓は──」
ふだん使っている、母方の姓を言おうとすると、
「ああ、わかりました。」
わざとのように、会話の間をはずして、
「では、こうお呼びします。……アーサー=ブルガナン。今は、まだ。」
それは、アーサーの父方の姓だった。
そして、魔物の王、闇王国の首魁ブラストを弑した者に与えられる、英雄の姓であった。