第24話 待ち伏せ

文字数 1,413文字

 アーサーは、松明を手にして、岩陰にしゃがみこんでいた。
 ゆうべは徹夜したが、疲れは感じない。
 ただ、すこし、足が震えているだけだ。
「……なるべく音をたてるなよ、」
 と、横で姿勢を低くしているフォスターがいった。
 待ち伏せを悟られてはならない。二人は、岩に囲まれた窪地にいるが、とかげ鳥が近づけば見られるかもしれない。
 さいわい、いまの風向きはこちらが下だ。匂いではわからないだろう。
「……遅くないかな。」
「足音でわかるさ。」
 答えて、フォスターはすぐにシッと息をはいた。
「くるぞ、」
 あわてて体をおこそうとするアーサーを制止する、

 と、

 フォスターの顔が恐怖にひきつった。
「え、」
「反対側だ!」
 小さく叫ぶや、フォスターはアーサーの体を引き倒した。松明が地面にころがる。

 ごう、と嵐のような音。

 たくさんの足音。

 ウマのではなく、とかげ鳥の──


 笛の音は聞こえない。そして、足音は森のほうからだ!

「なぜ──」
「しるか!」
 短い会話のあいだに、足音は岩場まで到達していた。
 二人は岩のすきまにじっと身をひそめた。頭の上を、いくつもの影が跳躍していった。反射的に顔を上げようとするアーサーを、フォスターは必死でおさえつけた。
 がつんがつんと、岩に爪がくいこむ音がするたびに、くだけた石のかけらが降ってくる。
 通りぬけた影の数をかぞえる。5、7、11。ならば全体の数は?

 ──ようやく、頭をあげたときには、群れはもうずっと離れたところを走っていた。

 営巣地にむかって。

「追うぞ!」
 地面に落ちた松明を拾おうとするアーサーを、フォスターは叱りつけた。もう、そんなものは役にたつまい。

 ──追ったところで、犬死にではないのか。

 胸にちらつく思いを、噛み殺した。
 エルなら、きっと、そんなことは考えもすまい。
 そう、思う。



 馬が足をとめた。

 エルは、目をこらして、気配のするほうを見る。
 昨晩の偵察ではもう少し先まで行ったが、夜のことで、巣のようすが詳しく見えたわけではない。
「……みえるんですか?」
 ルナが、いぶかしげにつぶやく。すこしはね、と頷く。
 乗馬した状態で、これ以上近づけば、先にむこうに見つかるおそれがある。

 深呼吸する。

 耳をすませる。
 目をこらす。
 風が頬にあたる感覚を、頭のなかでもう一度とらえなおす。

 気配の数を、かぞえる。
 うっすらと見える、影の数を。
 かすかに耳に入ってくる、鳴き声の数を。

「……なんだか……、」
「え?」
「ううん。……なんでもない。」
 エルは首をふった。
 群れが、まだあそこにあるのは間違いない。
 だから、些細なことだ。きっと、ただの錯覚だろう。

 もともと、正確な数はわかっていないのだから。

「いこう。近づいたら、笛。いいね?」
 ルナがうなずいたのを感じてから、脚をのばして馬に合図を送る。
 もう、あともどりはできない。



 ルナの頭上には、2つの魔法球がきらめいている。
 先ほどまでは4つあったが、自分とエルに保護の魔法を使ったので、減っている。
 今あるのは、閃光弾の魔法だ。
 ひとつは、とかげ鳥に追いつかれそうになった時のため。
 もうひとつは、火で群れを全滅させられなかった場合に、生き延びる可能性をつくるため。
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