第24話 待ち伏せ
文字数 1,413文字
アーサーは、松明を手にして、岩陰にしゃがみこんでいた。
ゆうべは徹夜したが、疲れは感じない。
ただ、すこし、足が震えているだけだ。
「……なるべく音をたてるなよ、」
と、横で姿勢を低くしているフォスターがいった。
待ち伏せを悟られてはならない。二人は、岩に囲まれた窪地にいるが、とかげ鳥が近づけば見られるかもしれない。
さいわい、いまの風向きはこちらが下だ。匂いではわからないだろう。
「……遅くないかな。」
「足音でわかるさ。」
答えて、フォスターはすぐにシッと息をはいた。
「くるぞ、」
あわてて体をおこそうとするアーサーを制止する、
と、
フォスターの顔が恐怖にひきつった。
「え、」
「反対側だ!」
小さく叫ぶや、フォスターはアーサーの体を引き倒した。松明が地面にころがる。
ごう、と嵐のような音。
たくさんの足音。
ウマのではなく、とかげ鳥の──
笛の音は聞こえない。そして、足音は森のほうからだ!
「なぜ──」
「しるか!」
短い会話のあいだに、足音は岩場まで到達していた。
二人は岩のすきまにじっと身をひそめた。頭の上を、いくつもの影が跳躍していった。反射的に顔を上げようとするアーサーを、フォスターは必死でおさえつけた。
がつんがつんと、岩に爪がくいこむ音がするたびに、くだけた石のかけらが降ってくる。
通りぬけた影の数をかぞえる。5、7、11。ならば全体の数は?
──ようやく、頭をあげたときには、群れはもうずっと離れたところを走っていた。
営巣地にむかって。
「追うぞ!」
地面に落ちた松明を拾おうとするアーサーを、フォスターは叱りつけた。もう、そんなものは役にたつまい。
──追ったところで、犬死にではないのか。
胸にちらつく思いを、噛み殺した。
エルなら、きっと、そんなことは考えもすまい。
そう、思う。
*
馬が足をとめた。
エルは、目をこらして、気配のするほうを見る。
昨晩の偵察ではもう少し先まで行ったが、夜のことで、巣のようすが詳しく見えたわけではない。
「……みえるんですか?」
ルナが、いぶかしげにつぶやく。すこしはね、と頷く。
乗馬した状態で、これ以上近づけば、先にむこうに見つかるおそれがある。
深呼吸する。
耳をすませる。
目をこらす。
風が頬にあたる感覚を、頭のなかでもう一度とらえなおす。
気配の数を、かぞえる。
うっすらと見える、影の数を。
かすかに耳に入ってくる、鳴き声の数を。
「……なんだか……、」
「え?」
「ううん。……なんでもない。」
エルは首をふった。
群れが、まだあそこにあるのは間違いない。
だから、些細なことだ。きっと、ただの錯覚だろう。
もともと、正確な数はわかっていないのだから。
「いこう。近づいたら、笛。いいね?」
ルナがうなずいたのを感じてから、脚をのばして馬に合図を送る。
もう、あともどりはできない。
*
ルナの頭上には、2つの魔法球がきらめいている。
先ほどまでは4つあったが、自分とエルに保護の魔法を使ったので、減っている。
今あるのは、閃光弾の魔法だ。
ひとつは、とかげ鳥に追いつかれそうになった時のため。
もうひとつは、火で群れを全滅させられなかった場合に、生き延びる可能性をつくるため。
ゆうべは徹夜したが、疲れは感じない。
ただ、すこし、足が震えているだけだ。
「……なるべく音をたてるなよ、」
と、横で姿勢を低くしているフォスターがいった。
待ち伏せを悟られてはならない。二人は、岩に囲まれた窪地にいるが、とかげ鳥が近づけば見られるかもしれない。
さいわい、いまの風向きはこちらが下だ。匂いではわからないだろう。
「……遅くないかな。」
「足音でわかるさ。」
答えて、フォスターはすぐにシッと息をはいた。
「くるぞ、」
あわてて体をおこそうとするアーサーを制止する、
と、
フォスターの顔が恐怖にひきつった。
「え、」
「反対側だ!」
小さく叫ぶや、フォスターはアーサーの体を引き倒した。松明が地面にころがる。
ごう、と嵐のような音。
たくさんの足音。
ウマのではなく、とかげ鳥の──
笛の音は聞こえない。そして、足音は森のほうからだ!
「なぜ──」
「しるか!」
短い会話のあいだに、足音は岩場まで到達していた。
二人は岩のすきまにじっと身をひそめた。頭の上を、いくつもの影が跳躍していった。反射的に顔を上げようとするアーサーを、フォスターは必死でおさえつけた。
がつんがつんと、岩に爪がくいこむ音がするたびに、くだけた石のかけらが降ってくる。
通りぬけた影の数をかぞえる。5、7、11。ならば全体の数は?
──ようやく、頭をあげたときには、群れはもうずっと離れたところを走っていた。
営巣地にむかって。
「追うぞ!」
地面に落ちた松明を拾おうとするアーサーを、フォスターは叱りつけた。もう、そんなものは役にたつまい。
──追ったところで、犬死にではないのか。
胸にちらつく思いを、噛み殺した。
エルなら、きっと、そんなことは考えもすまい。
そう、思う。
*
馬が足をとめた。
エルは、目をこらして、気配のするほうを見る。
昨晩の偵察ではもう少し先まで行ったが、夜のことで、巣のようすが詳しく見えたわけではない。
「……みえるんですか?」
ルナが、いぶかしげにつぶやく。すこしはね、と頷く。
乗馬した状態で、これ以上近づけば、先にむこうに見つかるおそれがある。
深呼吸する。
耳をすませる。
目をこらす。
風が頬にあたる感覚を、頭のなかでもう一度とらえなおす。
気配の数を、かぞえる。
うっすらと見える、影の数を。
かすかに耳に入ってくる、鳴き声の数を。
「……なんだか……、」
「え?」
「ううん。……なんでもない。」
エルは首をふった。
群れが、まだあそこにあるのは間違いない。
だから、些細なことだ。きっと、ただの錯覚だろう。
もともと、正確な数はわかっていないのだから。
「いこう。近づいたら、笛。いいね?」
ルナがうなずいたのを感じてから、脚をのばして馬に合図を送る。
もう、あともどりはできない。
*
ルナの頭上には、2つの魔法球がきらめいている。
先ほどまでは4つあったが、自分とエルに保護の魔法を使ったので、減っている。
今あるのは、閃光弾の魔法だ。
ひとつは、とかげ鳥に追いつかれそうになった時のため。
もうひとつは、火で群れを全滅させられなかった場合に、生き延びる可能性をつくるため。