第12話 探索

文字数 964文字

 早朝から歩き続けて、そろそろ正午になる。
 ここらの木々には、退魔師たちがつけた目印がびっしりと刻まれている。フォスターも、あちこちに符牒を刻みながら歩いている。
 かなりゆっくりしたペースだが、ルナ=サリナイは息を乱していた。もっとも、山歩きとは無縁の巫女であることを思えば、十分よくやっていた。
 フォスターは、たびたび立ち止まって、地面を調べていた。足跡や、獣の糞を探しているのだ。
 もっとも、こんな街の近くに魔獣はいない。普通は、もっと森の奥へ入ってから、待ち伏せするポイントを探すものだ。
 あんなに時間をかけて、フォスターは何を調べているのか?



 ルパードのことはあまり好きではなかった。口数が多く、うさんくさい男だと思っていた。
 兄はひどく称揚していたが。



 退魔師たちに踏み固められてできた空き地で車座になり、昼食をとった。
 携帯食料は、ミナの薬草店で調達している。焼き固められた味付け餅、芋と、干した果物、少しの燻製肉。
 あまり味はしなかった。もっとも、ここしばらく、食べ物をうまいと思ったことはない。



 日が暮れるまで歩いて、野営にした。
 結局、今日1日で、通常の3分の1ほどしか歩いていない。
 それでも、ここまで来れば十分、魔獣の生息地域に入っている。
 木々のあいだの、ほんの少し広くなった窪地のようなところを、野営地とした。
 アーサーが、火打ち石で種火をおこす。枝のあいだに防水布をはり、風よけにする。天幕を持ってきていないので、火のまわりで毛布にくるまって寝ることになる。
 今回は、二人ずつ、交代で見張りにたつ。睡眠時間を確保するため、食事は見張りのときに交代でとることにした。
 順番は、フォスターが決めた。



「フォスター、」
 思いきって、アーサーは口をひらいた。
「エルのことだけど、──」
「言うな。」
 フォスターはぴしゃりと遮った。
「自分で解決するしかない。そういうものだろう」



 兄が死ぬ夢を見た。
 幾頭ものとかげ鳥に、爪で切り裂かれ、ついばまれる夢だ。

 実際には、そんな場面は見ていない。

 エルは、カルナーにずっとついていたし、兄はルパード隊長のそばにいたはずだ。
 だが、同じようなことはきっと起こったのだろう。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み