第20話 戦略

文字数 1,637文字

「……まずは、これを見てくれ」
 そういって、フォスターは布図面を広げた。
 ミナの薬草店の、いちばん大きなテーブルを、4人で囲んでいる。アーサーとルナは、まだ昼食をとっていなかったので、ミナのつくった香草饅頭をつまんでいる。
「カルナーがつくった地図を、大きくひきうつした。とかげ鳥の営巣地周辺の地形だ」

 ジル・ア・ロー島の東端にあるアルセア・シティーから、西端のドナまで、一直線につなぐ道は、グルゴール街道と呼ばれている。
 もともとは、ジル・ア・ロー島原住民が使っていた道を、アルセア帝国人が整備しなおしたものだ。
 アルセア・シティーからテベーまでは、大人の足で、およそ二日ほど。
 都市の西側をかこむ山岳地帯を一日弱で抜けて、海岸沿いの草原地帯へ入る。その後、また内陸に入り、森林を切り開いてつくった牧草地を通ってテベーへ至る。
 とかげ鳥の巣は、その途中にある。
 森を抜け、草原へと出たあたり。街道の南側、海岸へとつづく平地に、とかげ鳥の大群が棲んでいる。
 当初、ルパード隊が確認した数は、およそ100匹。戦いで少しは減ったはずだが、正確な数はわからない。
 営巣地より街道のほうが少し高くなっており、そのあいだには斜面がある。ルパード隊は、これを利用して、高所から攻撃する戦術をとった。
 東側は、しばらく草地が続いたあと、岩場になっており、その奥はアルセア・シティーを囲む森林へと続いている。
 西にはまばらな林。街道は、陸地側に向けてカーブしており、巣のあるあたりは、もっとも海に近くなっているところである。

「どう攻める?」
 言われて、ルナとアーサーはしばし考えこんだ。
「……とかげ鳥は、泳げるのですか?」
 口を開いたのは、ルナだった。フォスターはにやりと笑った。
「いや。やつらは泳げない。だから……、」
 すっ、と海岸側へ指を動かす。
「こちらから、船で攻めるという手もある」
「……船は近づけるの?」と、アーサー。
「ここは深くなっているから、船で海岸のかなり近くまで近づける。海岸から営巣地までの距離は、正確にはわからないが、おそらく矢は届くと思う」
「それじゃ、」
「だが、4人では無理だ」
 あっさり、そういって、フォスターは軽く肩をすくめた。
「実は、海から攻める案は、カルナーと一度検討した。数十人の射手が一度に船で近づいて、火矢を放てば、巣を壊滅させることはできるだろうという結論だった」
「……ならば、何故それをしなかったのです?」
 ルナが訊いた。アーサーは少し鼻白んだが、フォスターは特に表情を変えなかった。
「理由はふたつ。ひとつは、カルナーはルパードとの権力争いに負けたから。もうひとつ、この計画にも欠点があった」
「欠点?」
「巣を破壊することはできても、とかげ鳥を全滅させられる保証がない。営巣地を焼き払えば、生き残ったとかげ鳥は逃げ散って、他の場所でまた群れを作るだろう。場合によっては、今よりやっかいなことになる。それを防ぐには、別働隊があらかじめ巣を包囲しておくことだが、そこまでの人数はとても集められなかった」
 2人はだまりこんだ。少しして、フォスターはまた口をひらいた。
「……そこで、カルナーはもうひとつの方法を考えた。準備をしている時間がなく、カルナーの生きているうちに実行できなかったが……多少修正すれば、4人でも可能だ」
 フォスターは、今度は営巣地の東側に手を動かした。
「こちらから攻める。つまり、──」



 それから、30日ばかりは、訓練と準備で過ぎた。
 二度ほど、慣らしをかねて狩りにでたが、たいした収穫はなかった。また、狩りの際に、アルセア・シティー周辺の森を調べたが、とかげ鳥の痕跡はなかった。 
 やはり、森を抜けたさき、巣の周辺で獲物をとっているらしい。
 隊商が通るたび襲われていることからすると、街道を人間が通ることを覚えて、待ち伏せをしている可能性もある。
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