第19話 魔法珠

文字数 955文字

 アーサーは、目の高さにおいた無色の魔法球を、くるくると回してみた。

 魔法球の色は、こめられた魔力の種類で決まる。

 白の魔法球になるのは、
 治癒の魔法、狂戦士の魔法、灯りの魔法、閃光弾の魔法、闇祓いの魔法、死人封じの魔法。

 赤の魔法球になるのは、
 発火の魔法、熱波の魔法、保温の魔法。

 青の魔法球になるのは、
 霧の魔法、粘水の魔法、水流しの魔法、脱水の魔法、人工呼吸の魔法。

 無色の魔法球になるのは、
 風向きの魔法、豪風の魔法、空中浮遊の魔法、地割れの魔法。

 茶の魔法球になるのは、
 岩弾の魔法、隆起の魔法、砂散らしの魔法、岩縛りの魔法。

 アーサーは、5つの色すべてを使えるが、一度に保てる魔法球は1つだけだ。
 いま、魔法球に込められているのは、風向きを操作する魔法である。

 ぽん、と、透明な球を思念で操り、もう一度目線の高さまで浮かばせる。
 遠ざけてみる。
 アーサーの場合、魔法球を自在に動かせる範囲は、自分の体からおおよそ10歩くらい。
 熟練した魔法使いなら、ほとんど目にもとまらぬ速さで操れるが、かれにはそこまでの技術はない。せいぜい、早歩きくらいの速度が限界だ。

 ぎりぎり、魔法球を維持できなくなる限界まで飛ばして、空中で静止させる。

 ひと呼吸だけこらえて、
 はなつ。

 こう、

 と、風が吹く。
 いけがきの枝と、薬草店の暖簾が、ばさばさと大きな音をたてて揺れた。

 この魔法の風は、人が立っていられないほど強いものではない。しかし、暫くの間はやまない。

「アーサー!」
 悲鳴のような高い声が、風下から聞こえてきた。見ると、礼服をきたエルとフォスターが立っている。
 エルは、赤い顔でこちらを睨みながら、風でめくれそうになるスカートをおさえていた。
「あ、──ごめん、」
 あわてて駆け寄ろうとしたとき、スカートの裾が、エルの手からするりと抜けた。
 ばふ、と大きな音をたてて、ドレスが裏返った。
 柔らかそうな白い下服が、アーサーの目にとびこんできた。その上にちらりとのぞく、鍛えこんだ腹の肉と、形のいい臍も。
 アーサーは動揺して後ずさった。
 エルは声にならない悲鳴をあげた。フォスターはこらえきれずに、大声をあげて笑った。
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