第11話 出立
文字数 906文字
明け方。
ルナは、山歩き用のブーツを履き、靴紐をきつくしめた。
杖をかるく振ってみる。
布鎧、と称するものは、要は全身を覆うつなぎのような服である。全体に厚手で、関節部は緩めにつくってあるが、それ以外の部分はきゅっと締めてある。首筋と胸、腹部、脛は、きつく絞った綿でさらに厚手にしてある。
夏はつらそうだな、と思う。
玄関を出てドアを閉め、鍵をしてから体のむきをかえ、一度立ち止まって息をつく。
腰にさした短剣をたしかめる。
背負い袋の紐を直す。
足踏みを一度して、ブーツの感触を確かめてから、ルナは歩き出した。
*
ミナの薬草店の裏には、退魔師たちが鍛錬に使う空き地がある。
以前は、早朝でも退魔師やその見習いたちで賑わっていたが、今はエルしかいない。
昨日研ぎ師から受け取ったばかりの長剣を、かるく振ってみる。
20日ちかくも預けっぱなしにしていたせいか、前よりも重く感じる。
構える。
攻めの型と、守りの型。
2度ずつおさらいして、鞘におさめる。
汗がにじんでいる。
手足はちゃんと動く。だが、体幹が微妙にずれているような気がする。
弓をとる。
こちらも、ずいぶんと久しぶりだ。
張ったばかりの弦をぴぃんとはじき、矢をつがえる。
構える。
狙う──
カルナーに教わったとおり、親指と人差指でつくる輪を、最小の的としてイメージする。
本当に射つわけではない。ただ、狙うだけだ。
的が、ぶれた。
たっぷりふた呼吸の間、そのままこらえて、そっと弓をさげる。
狙えない。いや、集中できないだけだ。
矢を筒にしまう。
呼吸がずれている。
手がひどく汗ばんでいた。
「エル!」
アーサーが呼びにきたようだ。
「そろそろ出発するよ、……、」
目があった瞬間、アーサーはぎょっとしたような顔をした。
初陣で、緊張しているだけではないような──
「うん、……わかった」
笑って、返事をする。
笑って。いた、はずだ。
*
同じく退魔師を生業としてはいたが、兄とは疎遠であった。
だから、今にして思い出すのは、幼いころのことばかりだ。
ルナは、山歩き用のブーツを履き、靴紐をきつくしめた。
杖をかるく振ってみる。
布鎧、と称するものは、要は全身を覆うつなぎのような服である。全体に厚手で、関節部は緩めにつくってあるが、それ以外の部分はきゅっと締めてある。首筋と胸、腹部、脛は、きつく絞った綿でさらに厚手にしてある。
夏はつらそうだな、と思う。
玄関を出てドアを閉め、鍵をしてから体のむきをかえ、一度立ち止まって息をつく。
腰にさした短剣をたしかめる。
背負い袋の紐を直す。
足踏みを一度して、ブーツの感触を確かめてから、ルナは歩き出した。
*
ミナの薬草店の裏には、退魔師たちが鍛錬に使う空き地がある。
以前は、早朝でも退魔師やその見習いたちで賑わっていたが、今はエルしかいない。
昨日研ぎ師から受け取ったばかりの長剣を、かるく振ってみる。
20日ちかくも預けっぱなしにしていたせいか、前よりも重く感じる。
構える。
攻めの型と、守りの型。
2度ずつおさらいして、鞘におさめる。
汗がにじんでいる。
手足はちゃんと動く。だが、体幹が微妙にずれているような気がする。
弓をとる。
こちらも、ずいぶんと久しぶりだ。
張ったばかりの弦をぴぃんとはじき、矢をつがえる。
構える。
狙う──
カルナーに教わったとおり、親指と人差指でつくる輪を、最小の的としてイメージする。
本当に射つわけではない。ただ、狙うだけだ。
的が、ぶれた。
たっぷりふた呼吸の間、そのままこらえて、そっと弓をさげる。
狙えない。いや、集中できないだけだ。
矢を筒にしまう。
呼吸がずれている。
手がひどく汗ばんでいた。
「エル!」
アーサーが呼びにきたようだ。
「そろそろ出発するよ、……、」
目があった瞬間、アーサーはぎょっとしたような顔をした。
初陣で、緊張しているだけではないような──
「うん、……わかった」
笑って、返事をする。
笑って。いた、はずだ。
*
同じく退魔師を生業としてはいたが、兄とは疎遠であった。
だから、今にして思い出すのは、幼いころのことばかりだ。