プラトン アリストファネスの演説

文字数 1,894文字

とあるバーのテーブル席。二人の男性がお酒を飲みながら語り合っている。

プラトンの『饗宴』はエロティックなんだよ。
エロティック?どんなふうに?
まあ、性愛を論じてるって意味でね。
ふーん。
ある悲劇作家の家で宴会が開かれているんだけど、集まったひとたちは性愛の神エロースを賛美してるんだ。
そうなんだ。それで、どんな話なの?

そうだな。アリストファネスの演説を紹介しよう。まず、彼は同時代の人間が愛の力を理解せず、愛の神をないがしろにしているといって話をはじめる。

彼が語るところによれば、原始の人間には3種の人間がいた。男性、女性、それに男性と女性を有する両性者(アンドロギュノス)だ。からだは球形で4本の手と4本の足があり、首の上には、反対方向に向いた2つの顔があった。陰部も2つあった。彼らはすさまじい力をもっていて、ホメロスが伝えるところによれば、天に昇って神々を打ち倒そうと企図するものもいたという。


そこで神々は合議の結果、原始の人間の傲慢をくじき、その行動を改めさせるため、彼らを二つに切断し、彼らの力を弱めることに決めた。


こうして神の裁きを受けた人間は、互いにその半分を求めるようになった。アリストファネスがいうところによれば、相互に愛が存在していて、2人で1体となり、原始の状態にもどろうとするようになったんだ。ただし、その愛し方には原始の種類の数にしたがって3つの種類があった。原始に両性者であったものは異性を求め、原始に女性であったものは女性を愛し、原始に男性であったものは男性を愛するようになった。


アリストファネスはこう語る。我々は一なる完全な存在になろうとする欲求、すなわち愛があるが、エロースは、我々を融合へと導き、幸福にしてくれる存在なのだから、この愛の神を賛美すべきだと。

・・・神秘主義には、こういう聖書解釈があると聞いたことがある。アダムは神に似た姿として、男と女に、つまりアンドロギュノスに創造されたが、その肋骨からイヴが創造されたとき、男性という不完全な存在になってしまった。それで、アンドロギュノスであったときの完全なる知恵を求めることが神秘主義の目的になるのだと。

そのへんのことはよく知らないけど、一なるもの、一者が神なる存在で、そうした存在に似た姿となり、エクスタシスという忘我の境地に達するため、男女はエロースを通して交わるってことなんだろうか。


それにしても、古代ギリシャの恋愛事情はけっこう多様だったようだね。今だと、異性恋愛がノーマルとされてるけど・・・。

異性愛はどの程度スタンダードなものだったんだろう。古代ギリシャで。

どうだろう。少年愛っていわれる恋愛はけっこう広まっていたみたいだけど。


最近、性に関しても多様性を認めようって運動があるけど、恋愛に関する自由ってどこまで認めることができるんだろうか。


恋愛感情や性的感情を抱かない人が、自分たちの存在をもっと認知してもらおうと努力している人がいて、まあ、こうしたケースは認知されやすいというか、肯定されやすいように思うんだけど、古代ギリシャのように、成人男性が少年を愛するとか、あるいは、成人女性が少女を愛するとか、こういう恋愛になると、社会がどこまでも自由を認めるってわけにはいかないような気がする。


ミルの考えに基づけば、他人の幸福追求を邪魔せず、他人の害とならないような恋愛の場合、その当事者の意志に反するように権力が行使されることは正当化されない。成人男性による少年愛も、成人女性による少女愛も、互いに愛し合っている場合、恋愛感情自体はおおむね認められるのかもしれない。この考えによれば。まあ、少年少女の親が反対するとなると、親の幸福追求を妨害することになりそうだけど・・・。


でも、性的行為となると、事情は変わってくると思う。たとえ、ミルの危害原理に反しない個別のケースが存在するとしても、自由を制限する権利が社会にはあるようにおもう。たとえば、母体保護などの観点から。

古代日本だと女性は13歳ぐらいで結婚できたそうだね。現代日本でも小学生が妊娠するケースが報告されてるけど、古代だと何歳ぐらいで出産してたんだろう・・・。


小児性愛の場合、児童に性的魅力を感じる小児愛者には、性犯罪を犯さないように、同年代の異性を好きになれるように努力している人もいるらしい。専門家などは相談や医療が役立つっていってるみたいだけど、通報されるリスクがある状況で相手を信頼して話せる小児愛者なんているんだろうか。


性の多様性や、自由な恋愛に法的制限を課すことが可能だとしても、その制定や運用には困難を伴うように思えるね。

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