翻案 ランタンフェスティバル

文字数 1,096文字

5年前の夏、ぼくはヨットで旅をしていた。人付き合いに疲れていたぼくは、都会の喧騒を逃れ、海の上で過ごしたい気分だった。


天候の良いある日、ヨットを風にまかせ眠っていたのだが、ふと目を覚まし、あたりを見回すと視界に島がはいってきた。いったいどこにいるのだろう。そう思って海図を調べてみたが、そこに目の前の島を見つけることはできなかった。


島にちかづくと、人の姿が見えた。どうやら女の人らしかった。上陸して、ここがどういう島なのかを尋ねると、みんな明るく、幸せに暮らしている地上の楽園だという。ぼくは誘われるままに彼女に導かれ、林の中の道を通り、集落にたどり着いた。そこは、広々とした土地で、立派な家があり、手入れされた畑や花壇があった。人々は楽しそうに語らい、幸せそうに見えた。

今日は平和と和解を願うお祭りがあるの。夜にはランタンに灯をともして空に上げるのよ。今日は、ここに泊まっていったらどうかしら。

どこから来たんだい?今日はとても楽しい一日なんだ。泊まる当てがないならうちに寄るといい。さ、どうする?

え、いいんですか?そうですね。じゃお言葉に甘えて・・・。お世話になります。

男性は、ここまで導いてくれた女の人の父親だった。ぼくを家に迎えたあと、軽食を用意してくれ、近所の人たちを呼んで紹介してくれた。

俺達の先祖は、戦乱を逃れてこの島にやってきたんだ。で、今日のお祭りも、平和を願って先祖がはじめたのがはじまり。

食事を食べ終えると、夜空に浮かべるランタンをつくるため、例の女性に近くの寺院へ案内してもらった。彼女は自分と同じぐらいの年で、とても美しく見えた。

願い事をこの紙に書いて、ランタンの中に入れるの。

ランタンをつくり終えたころには、夕暮れどきで、ランタンを上げる広場に着いた頃にはすっかり暗くなっていた。広場に集まったひとたちとともに、ランタンに火を灯し、合図とともに舞い上げた。ランタンが上空に舞い上がり、さらに上空で花火がきらめいた。


その後、饗宴が催され、夕食をごちそうになったのだが、眠気に襲われたぼくは、お世話になった人たちに感謝を述べ、寝室へと案内してもらった。それまでずっと楽しそうにしていた彼女だったが、このときには少し寂しげな、悲し気な表情を浮かべていた。

どうかしたんですか?

なんでもないわ。今日は楽しんでもらえたかしら?また会えることを願ってるわ・・・。

そう言って彼女は、ぼくが寝る寝室から出て行った。

鳥の声が聞こえる・・・。どうやら朝になったようだ・・・。目を開けると、そこはヨットの上で、四方には海がひろがっていた。視界に島が入ることはなかった。
参考にしたもの

桃花源記

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