筒井康隆 創作の極意と掟

文字数 628文字

 『創作の極意と掟』は小説の書き方に関する筒井康隆のエッセイで、主としてはじめて小説を書こうとして苦しんでいる人に向けて書かれたそうだ。とはいえ、こうすれば書けるといったマニュアルが示されているというよりは、小説を書くことに関して、筒井が思うところが述べられているのだと思う。

 筒井自身は、文章はヘミングウェイ、不条理感覚はカフカから最も影響を受けたそうだが、このあたりのことは、筒井の作品をそれほど読んでいない私にはわからない。しかし、イーグルトンの『文学とは何か』からも影響を受けたそうで、これに関しては、『文学部唯野教授』の元ネタがおそらくこの本だし、文体が似ていることからもよくわかる。


 小説や哲学なんかを読んでいて、自分の心にあるものが言語化され、代弁されているように思うことが時折あって、そうした作品を読むと、カタルシスといっていいのか、言語化されずにたまっていたものが解き放たれるように感じる。これはこれで大変ありがたいのだけれど、その一方で、やはり自己と他で考えがどこまでも一致することはないのだし、もっと思うとおりに、もっと十二分に自分の心を解き放ちたい思いに駆られる自分にも気づいている。


 どうにか、自分の心の中で抑圧されたまま表現されずにいるもの、あるいは他者とも共有している心理的苦痛や嘔吐感を意識的に取り出し、うまく言語化することでカタルシスを経験できるようになりたいものだ。このエッセイはその手助けになってくれる本なのだろうか。

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