研究所に響く銃声 3 遺文

文字数 1,002文字

休憩中に銃声が鳴り響き、一同が議論の場に戻ると浅倉の姿がなかった。宮本は三上、住吉、森本に自分が浅倉を呼びにいくから待つように言い、銃を片手に浅倉の研究室に入ると、そこには頭を撃ちぬかれた浅倉の死体が横たわっていた。


宮本がふと研究室内にあるパソコンの画面を見ると、浅倉が書いたものと思われる文章が映し出されていた。

俺以外に、この文章を読むものがいれば、あいつか、あいつに殺されなかった奴だろう。まあ、そんなことになれば俺は死んでるわけだから、俺にとってはどうでもいいことだ。あいつに気づかれないまま、この文章が残るなら、これを読んでるあんたは、あいつを殺して生き残れるかもね。


薬を盗んだのは俺であることを告白しよう。いや、俺はムサシの検査結果どおり白だ。あいつの検査は正しい。俺は飲んでないのだから。じゃあ、どうしたかって?そりゃ、おまえたちの1人に飲ませたのよ。


人間というものは禁じられたことをしたがるもんさ。ソ連で発禁になった本が地下出版で流通したことを思い起こせ。モーセの十戒には、殺人を禁じた戒律があるが、人間がこの世に存在して以降、殺人が行なわれなかった時代などあるのだろうか?


戦争は発明の母という言葉を聞いたことがある。核兵器が開発されたのも戦争きっかけだ。戦争の早期決着?使用理由はどうであれ、あれは、人間を無差別に、広範囲に殺戮する非人道的な兵器だ。俺に言わせると、戦争をきっかけとする狂気の発現が科学者と政治家を動かしたことは間違いないね。今後、クローン人間が兵士としてつくられることはないとも言いきれない。


いや、こんなことはどうでもいい。話を戻そう。三上が言ったように、俺には科学的探究心があり、実験するのが好きだ。子どものころからそうだった。釣った魚を解剖し、眼球の中にある水晶体を取り出してどきどきして眺めたのを覚えている。今は、その好奇心が人間という対象になっただけだ。


第二次世界大戦中、わが国の医師は生きた人間を対象とする人体実験をしたと聞く。代用血液の開発をするため、どれだけの出血で人は死ぬのか、血管に海水を入れるとどうなるのか、こういったことが探究されたそうだ。関わった医師たちは自殺した者もいたが、恩赦で釈放されたものもいる。そういう時代なら、俺の人体実験も赦されただろう。


まあ、俺は自分の実験結果を見ながら死ぬなら、幸せでしかないね。



マッドサイエンティスト 浅倉洋平

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