第37話 超ミラクルで未知なる対話を ―②

文字数 2,529文字

〖作者より①を大幅に推敲。この章は重要な部分ゆえに〗

「……やはり貴方は夢宙と宇宙を繋ぐ使命ある門番(キーマン)。すごい波動だ」
 異形のぬしは慶治の感情の起伏に反応した夢宙に対し感慨深げに呟いた。

「簡潔に説明しておきましょう。それがいいようだ」
 お世辞にも美しいとは形容しがたいナゼロと名乗る三百年先で人物だったという異形存在は、その姿を賀茂秦亮馬にもどし話を続ける。
「今回、この時代を志願して私は人間であることを離れました。過去、いえ、未来というべきかなこの場合フッフッ。――私の未来での記憶は消されました。それは未練に左右されるべきではないし任務を冷静に実行すべきためです。――この時代で実行する因子(ファクター)は、私ではなくこの時代の人物でなくてはいけない。歴史はその時代の存在による実行プロセスが肝要なのです。かれ星国行良の強き祈り、そう執念にも似た世界平和願望が重要なのです。そして門番である生更木慶治、あなたによって開始されなくてはならないのです」
 凛としてよどみない発言だった。

「ちょっと質問、いいですか?」
 好奇心あふれる野登人が尋ねる。「どうぞ」との返事に「あなたの時代がなぜにこの時代、この時を選定したのでしょう」と訊く。慶治にとっても興味ある内容だった。「いい質問ですね――そう、この時代の選定にあたって――その推移は記憶に残っていないのですが、最低限のヒントは組み込まれました。……言いましょう」そう言い、左手で闇をひとなぜするとテーブルが出現し、慶治と野登人の前にアイスコーヒーが現れた。賀茂秦は「どうぞお飲み下さい。喉のかわく話ですから。私たちにはお気遣いなく、必要のない空間にいますので」と優しく言った。口をつけると『本物』のようだった。
(きっと自分たちは実躰での移動だ)慶治はそう思った。

「さて人類の転換期は多く存在しますが、特筆すべきは十八世紀半ばからの産業革命があります。そのあとに科学革命――愚かな原爆も含めて急速に発達しましたね。そして二十一世紀現在にと続くテクノロジー革命はATへの依存へと進化しました。それも加速的に」
「……」
「見かけと違い、……このままでは破滅へと続くのですよ」
「……」
「本来目的を知らない人類は、人間を取り巻く『環境の革命』を積極的におこなってきました。それと同時に他国の領地取り、つまり植民地合戦から二度の世界大戦を招きました。そして最悪兵器の原爆を発明しました。――つまり人間をとりまく外面部分、環境の革命だったわけです。じつに西洋的な合理主義が優先され、自然界への配慮を欠いた二十世紀までの流れではなかったでしょうか」
 答えられない慶治は、生まれてからこのかた出会うことのなかった、未知の世界を覗き込む心境だった。音楽や芸術や畏敬のものに接するような神聖さが漂いこの闇を流れている気がする。

「……でも、快適な――」
 その野登人の発言を手で制する慶治。

「そして二十一世紀、自然界のしっぺ返しが始まりました。一番顕著なのは地球温暖化でしょうね。数年前から顕著になりました。それどころか全世界に波及し年々荒々しく凶暴化しています。これらに対する危惧は早くからありましたが、人類は木星探査や月への執着はあっても自然界の修復や回復への投資は皆無に近い。どの国も国民同士の友好的交流に反し、為政者は軍事費の増額に躍起になっているありさまです。そしてついにこの人類の愚かさを知る悪魔の出現です。彼らは死に来る人々の魂でそれを知るのです」
「そうだったのか!」身を乗りだす野登人。
「そうか、ハールとラートはそれを知り訪れた」慶治は合点がいった。

「この先、人類に必要なものは何でしょう」
 この真剣な慶治の問いかけに、
「それはこの闘いの先のことでしょうか?」
 豊かな笑みで賀茂秦は語り星国を見てうながす。どうやら星国の領分のようだ。
「過去に聖徳太子をはじめ幾人かが、現代のありさまを見通したわけではないでしょうが、日本国の改革を先導してきました『大化の改新』と『明治維新』ですね。それらは必要な過程でしたがあまりにも独善的で、日本国の本来に行わなければならない『世界的使命』を知らない偏った考えに基づき――これは為政者の低俗さにもよるのですが――学者も忖度し捻じ曲げたのです」
(エターナル・ソウルに対してソウル・ジャパンは実に日本的な話だ)
 慶治はそう思い姿勢を彼に向けた。そしてコーヒーを一口含み問うた。
「その星国さんの思想の原点は、どこで得たものでしょう?」

「……やはり君、生更木さんは私の夢を開いてくれる存在ですね不思議だ、そして嬉しい」
 その言葉で慶治は込上げる『何か』で心が打ち震えた。説明できない涙が込み上げてくるのを制御できない。それが頬を伝う。

「……私は自分の誕生に意味をみいだせなかった。その意味を教えてくれた師匠は早逝した。師匠を失い無学で愚かな私は、父の背負った『宿命』を繰り返す人生だった。でもね生更木さん。人に選択肢はいくつか与えられているもののようです。あらゆる宗教施設を営業で回るなかに見いだせなかった、新たな末法の『師匠』はいたのです。――その師匠は威厳ぶった僧侶などでなく、なんと世界庶民の中心軸に存在したのです」
 想像できない話の展開であった。
「それは、どなたですか?」
「あなたも、あなたの年代の誰もが知るかたです」
 慶治はそれを聞き、もしかしてと思った。
「人類の教育者です。それに偉大な桂冠詩人であり、世界の知性と語る哲学者でもありました」
 星国は遠くを見る目になった。

「亡くなられたかた、それって……」
「慶治さんは名前を知っているようですが、そのかたを師匠と意識されていないようですね。であればこの闘いを終えてお調べください。くわしく知れば私がソウル・ジャパンを名のった理由に辿りつけるでしょう。今はやめておきましょう。語り始めると世界の国立図書館の書物をすべて読み終えるほどの時間を必要としますので。それほどに偉大な師匠です。ね、賀茂秦さん」
 するとエターナル・ソウルは、
「三百年先では人類の宿命転換をおこなった人物、誰もが知るデーターです」
 消されなかった記憶だが、詳しく知らないようだった。
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登場人物紹介

生更木慶治《きさらぎけいじ》・四十歳



1990年生まれ2002年12歳に光体験。



ホテル警備夜勤勤務・高知県梼原町の出身。京都上賀茂に住む。坂本龍馬の信奉者右手で右耳の上の髪を掻く癖あり。名字由来は春に向けて草木が更に生えてくるとの意味。名前は小学生で亡くなった弟の忘れ形見(改名)。



極端な猫舌。基本黒Tシャツに上着。ブルージーンズ。夢の世界の宇宙と現世をつなぐ『夢の門番』で主人公。

下弦野登人(かげんのとひと)・四十歳 



エレベーター保守会社夜勤勤務。高知県羽山町出身須崎の工業高校の同級生190㎝の長身猫背。穏やかな性格だが剛毅。真剣に考える際に鉤鼻を親指と人差し指で挟みこする癖。ダンガリーシャツと薄ピンクのジーパン。

九條蓮華(くじょうれんか)・二十八歳 



『北京都病院』と北都大病院勤務の看護師。献身的看護で慶治の恋人となる。京都出身だが実家を離れ紅ハイツに住む。

五十嵐時雨(いがらししぐれ)・三十歳 



下弦野登人の通いの恋人。四条の電気器具販売店勤務。新潟の五泉市出身。色白美人。ぽっちゃり丸顔で色気あり。

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