第36話 超ミラクルで未知なる対話を ―①
文字数 2,302文字
(これは明らかに経験した領域ではない)
今の慶治の特別な感性は鯉が水中で水を飲みこみ、鰓でろ過してなんなく空気を体内に取り込むようにごく自然に身についていた。夢宙世界であることは言うまでもない感覚であるが、あの坂元ミツル逢った領域でもないしヒミョウバン・シン・ハールと接見した領域でもない。もしかしてこれは一層深く魂を耕そうとする、人為的な別の誰かの夢宙世界かもしれないと想った。
【慶治! いったいここは?】
脳内に声が届いたと思った瞬間に目の前に『ポッ』と野登人が現れた。彼は落ち着いてはいるが満面に不思議がホクロのように遠慮なく居座っている、そんな顔をしている。
【おう、野登人、わしにも分からん】
なぜ彼がいるのか脈略のはっきりしない再会である。べつにこの世界でなくてもいいものを。
ものは見えないが漆黒の中で赤珠のものより高いカウンターチェアに腰かけている姿勢だし二人ともTシャツに柄の薄短パンではなんとも陳腐きわまりない姿である。それにマスターの美味しいコーヒーも存在しないし少し落ち着かない雰囲気だ。
【こんばんは】
慶治には聞き覚えと懐かしさを感じる白黒頭髪の星国亮馬だった。野登人は映像では見ていただろうが初対面であった。そのためだろうか星国は自己紹介をした。
【私は星国りょうまであり星国ゆきよしです。――もうご存じかもしれませんね】一呼吸おいて【ソウル・ジャパンとも名乗っています。……ややこしい】どこか恥ずかし気な紹介であった。――慶治にも野登人だって詳しい素性が解らない。三角形態の対面であった。
「もう、脳内言葉でなく普通にいきましょう。……本当は二人の仲間もご一緒にと考えたのですが、代表格のお二人をお招きしました。――悪魔との闘いは明後日ですね」
「……」
「……」
「私も参戦したいのですが制限を抱えています。……そうですね……いわえるオブザーバー的な観察者としてか関われないのです」
「それは、どうして?」
なぜ他人行儀なことをいうのだろう。眷属であれば闘うべしだしわざわざ呼び出してまで傍観者のような発言をどうしてするのだろう。野登人もきっとそう思っているだろう。
すると星国の姿が身震いを始めたかとおもうと、餅でも引っ張り分けるようにしてもう一人の人物が横並びで出現した。その人物は星国の分身ではなく全く新しい存在であった。星国よりも長身でスーツ姿の若い人物だった。個性的な腕時計をしている。
「私は賀茂秦リョウマ。年齢は星国氏より十歳若い三十六歳でした 」
「……でした? その意味は?」と慶治は困惑である。
「りょうまって、坂本龍馬の龍馬ですか?」野登人の疑問だ。
「いえ、享 に似た亮、それに馬です。……『でした』の意味は人間だった最後の年齢のままだという意味です。今はクローン躰 で存在しています」
すると星国が言った「彼は異星人、私は地球人で四十六歳でした。私の亮馬は偽名なのです。もう少し詳しく話しますと、ゆきよしは行くに良いで行良と呼びます。どうでも良いことですが理由があって在日二世でした」
「……しかし、二人?」
「慶治さん、私たちは二つの人格クローン躰です。――この二つのクローンの宿主 は正確には人間ではないのです」
「人間ではないとは?」
そう問いかけた瞬間に、賀茂秦亮馬が変身した。星国はそのままであった。
「!」
慶治と野登人は最近の経験を通し『不思議』に対し免疫ができていると思っていたが、この世に存在しないような賀茂秦という男の変貌姿にはさすがに驚いた。
「すなわち宿主はエターナル・ソウル70(ナゼロ)といいます。つまり時空移動のためのマシーンです。賀茂秦亮馬はそのマシーンが人間だったころのクローン躰という訳なのです。このことをお二人に、我々がいなくなる前に話しておこうと思ったのです」
(いなくなる前に話す?)
慶治には星国の話がサッパリ理解できない。ぼんやりとした目つきでその人物の背景の闇を見ていた。とても深い闇だ。
「ほう、ナゼロさんは何故マシーンであらねばならないのですか。賀茂秦亮馬というクローンはどうして必要なのでしょう」ついに野登人が口を開いた。
「なぜなら生命の波動ならともかく、人躰の時間移動は不可能だからです」
即答であった。
慶治と野登人はこの時代ではSFの世界だが、先々にタイムトラベルは可能だと思っている。
これまで人類は不可能と思えるミラクルを全てといっていいほどに実現してきた。
侍が道を闊歩する時代に空を飛ぶスズメやワシを見て木々や紙でそれらを模倣した人はいたが、何百人もが空を悠々と移動する『飛行機』など微塵も空想もしないし想像もしなかった。だが人類のあくなき向上心は、それから数百年のうちに実現してしまったではないか。
「え、いったいどれくらい先から来られたのですか?」
こうなると野登人は追及の手を緩めない。
「およそ三百年先です」
「わずか三百年で実現しているではありませんか。たとえマシーンであっても」
「ええ、マシーンだからできたのです。でも生身の躰は不可能です、それに――」
「それに?」
「物理学を凌駕する仏教学での『夢宙世界』の発見なしでは不可能でした」
「……では、賀茂秦亮馬というクローン躰はなに者ですか」
「むずかしい話ですが、……私も賀茂秦も人間ではないのです。特殊な処理脳とマシーンに保護された非物体『タマシイ』なのです――タマシイは唯物的な肉躰ではない。だから時間や空間に縛られないのです」
「……」口を開けたまま言葉のでない野登人。
「えッ、夢宙世界での時間移動ですか」そこに慶治が割り込んだ。
すると夢宙世界が上下左右に振幅した。
今の慶治の特別な感性は鯉が水中で水を飲みこみ、鰓でろ過してなんなく空気を体内に取り込むようにごく自然に身についていた。夢宙世界であることは言うまでもない感覚であるが、あの坂元ミツル逢った領域でもないしヒミョウバン・シン・ハールと接見した領域でもない。もしかしてこれは一層深く魂を耕そうとする、人為的な別の誰かの夢宙世界かもしれないと想った。
【慶治! いったいここは?】
脳内に声が届いたと思った瞬間に目の前に『ポッ』と野登人が現れた。彼は落ち着いてはいるが満面に不思議がホクロのように遠慮なく居座っている、そんな顔をしている。
【おう、野登人、わしにも分からん】
なぜ彼がいるのか脈略のはっきりしない再会である。べつにこの世界でなくてもいいものを。
ものは見えないが漆黒の中で赤珠のものより高いカウンターチェアに腰かけている姿勢だし二人ともTシャツに柄の薄短パンではなんとも陳腐きわまりない姿である。それにマスターの美味しいコーヒーも存在しないし少し落ち着かない雰囲気だ。
【こんばんは】
慶治には聞き覚えと懐かしさを感じる白黒頭髪の星国亮馬だった。野登人は映像では見ていただろうが初対面であった。そのためだろうか星国は自己紹介をした。
【私は星国りょうまであり星国ゆきよしです。――もうご存じかもしれませんね】一呼吸おいて【ソウル・ジャパンとも名乗っています。……ややこしい】どこか恥ずかし気な紹介であった。――慶治にも野登人だって詳しい素性が解らない。三角形態の対面であった。
「もう、脳内言葉でなく普通にいきましょう。……本当は二人の仲間もご一緒にと考えたのですが、代表格のお二人をお招きしました。――悪魔との闘いは明後日ですね」
「……」
「……」
「私も参戦したいのですが制限を抱えています。……そうですね……いわえるオブザーバー的な観察者としてか関われないのです」
「それは、どうして?」
なぜ他人行儀なことをいうのだろう。眷属であれば闘うべしだしわざわざ呼び出してまで傍観者のような発言をどうしてするのだろう。野登人もきっとそう思っているだろう。
すると星国の姿が身震いを始めたかとおもうと、餅でも引っ張り分けるようにしてもう一人の人物が横並びで出現した。その人物は星国の分身ではなく全く新しい存在であった。星国よりも長身でスーツ姿の若い人物だった。個性的な腕時計をしている。
「私は賀茂秦リョウマ。年齢は星国氏より十歳若い三十六歳
「……でした? その意味は?」と慶治は困惑である。
「りょうまって、坂本龍馬の龍馬ですか?」野登人の疑問だ。
「いえ、
すると星国が言った「彼は異星人、私は地球人で四十六歳でした。私の亮馬は偽名なのです。もう少し詳しく話しますと、ゆきよしは行くに良いで行良と呼びます。どうでも良いことですが理由があって在日二世でした」
「……しかし、二人?」
「慶治さん、私たちは二つの人格クローン躰です。――この二つのクローンの
「人間ではないとは?」
そう問いかけた瞬間に、賀茂秦亮馬が変身した。星国はそのままであった。
「!」
慶治と野登人は最近の経験を通し『不思議』に対し免疫ができていると思っていたが、この世に存在しないような賀茂秦という男の変貌姿にはさすがに驚いた。
「すなわち宿主はエターナル・ソウル70(ナゼロ)といいます。つまり時空移動のためのマシーンです。賀茂秦亮馬はそのマシーンが人間だったころのクローン躰という訳なのです。このことをお二人に、我々がいなくなる前に話しておこうと思ったのです」
(いなくなる前に話す?)
慶治には星国の話がサッパリ理解できない。ぼんやりとした目つきでその人物の背景の闇を見ていた。とても深い闇だ。
「ほう、ナゼロさんは何故マシーンであらねばならないのですか。賀茂秦亮馬というクローンはどうして必要なのでしょう」ついに野登人が口を開いた。
「なぜなら生命の波動ならともかく、人躰の時間移動は不可能だからです」
即答であった。
慶治と野登人はこの時代ではSFの世界だが、先々にタイムトラベルは可能だと思っている。
これまで人類は不可能と思えるミラクルを全てといっていいほどに実現してきた。
侍が道を闊歩する時代に空を飛ぶスズメやワシを見て木々や紙でそれらを模倣した人はいたが、何百人もが空を悠々と移動する『飛行機』など微塵も空想もしないし想像もしなかった。だが人類のあくなき向上心は、それから数百年のうちに実現してしまったではないか。
「え、いったいどれくらい先から来られたのですか?」
こうなると野登人は追及の手を緩めない。
「およそ三百年先です」
「わずか三百年で実現しているではありませんか。たとえマシーンであっても」
「ええ、マシーンだからできたのです。でも生身の躰は不可能です、それに――」
「それに?」
「物理学を凌駕する仏教学での『夢宙世界』の発見なしでは不可能でした」
「……では、賀茂秦亮馬というクローン躰はなに者ですか」
「むずかしい話ですが、……私も賀茂秦も人間ではないのです。特殊な処理脳とマシーンに保護された非物体『タマシイ』なのです――タマシイは唯物的な肉躰ではない。だから時間や空間に縛られないのです」
「……」口を開けたまま言葉のでない野登人。
「えッ、夢宙世界での時間移動ですか」そこに慶治が割り込んだ。
すると夢宙世界が上下左右に振幅した。