第78話 なんだここ
文字数 2,237文字
うわ。なんだここ?
『狭間の祠』がある場所がどんな場所かは知っていた。それでも僕が最初に思ったのが「なんだここ?」だった。
想像するのと体験するのは全然違う。複雑な形をした白い地が、浮遊島のように浮かんでいる。大きさは様々で、遠近感がよくつかめない。まるで白い万華鏡の中にいるような感覚だ。
それに、『反転の塔』で少し慣れたけどここは無重力。今僕たちは浮いている。
「どっち行けばいいんだ?」
前後左右上下、全方向に同じ万華鏡の空間が広がっている。複雑な形をしたものには規則性があるな。結晶が細胞のように丸まってると言うか、木が結晶のような形に成長したと言うか。
フェンリルがキョロキョロと周囲を伺っている。
「ここは空間が当てにならない。さっきの人が言ってたことを思うと、ココロの意思が示してくれるんじゃないかな?」
フェンリルが言うさっきの人とは、この世界の知識 さんのことだ。
「うん。『狭間の祠』に行く方法は、僕が目覚めるという意思を抱くことって言ってたよね」
「ココロがこの世界の意思なんだよね。だったら、ココロが行きたいように行けばいいってことだよね?簡単じゃん」
ほんとにそうなら、ミカの言うように簡単なんだけど。
「そんな適当でいいのかな?とりあえず、あそこに行ってみようか?」
とりあえず、一番最初に目についた正面の浮遊地を目指す。
「うん。行ってみよ」
この空間での移動は簡単に出来た。思うだけで体が自由に移動する。スーッと空間を滑りながら、体を捻ったりして動かしてみる。意識を右へ向けると右に滑る。下に向けると下に移動する。
僕とミカは体をまっすぐに伸ばして泳ぐようにして、フェンリルは空を駆けるようにして目的の浮遊地まで向かった。移動している間も、景色の変化、他のフラクタルの見え方の変化が変で、不思議な感覚になる。
目的の浮遊地まで近付くと、重力を感じてふわりと着地することが出来た。この浮遊地の大きさは、たぶん普通の大きさの家ぐらい。全体的に白一色で、表面は木の幹のような、木の根が張っているような形をしている。
降り立ったところの先に、中に入れそうな隙間があった。入っていくと行くと石碑があった。唯一白くない物、『狭間の祠』だ。
祠の表面は垂直に水が張っている。その水面に、自分の姿が映った。でも、ミカとフェンリルは映ってなくて、背景に薄暗い木々が映っている。
振り向くと木があった。そして暗い。地面に所々ライトがあり、周囲を照らしている。手入れされた草木が茂っていて、花壇もある。
…転移した。
「あ。フェンリル?ミカ?」
慌てて見渡す。フェンリルもミカもいない。はぐれるしまった。『狭間の祠』もない。
「…自分だけ転移した?…か、ミカとフェンリルは別々の場所に転移した?」
シナプスの光を試す暇もなかった…。
…そうだ。僕はこの世界の意思なんだから、意思を込めればミカもフェンリルも呼び出せる可能性はあるかも。
…ミカ、フェンリル。来て!
心の中で、強く意思を込める。
…。
何も起こらない…。
「ダメか。この世界の意思と言っても、できる事とできない事があるんだよな…」
たぶんできる事は自分自身の事と、自分が直接触れて、人を治したり浄化したりすることかな。とにかく、この場所を見てみよう。
近くには見覚えのあるガラスハウスがあった。ガラス越しに人影が見える。テーブルと椅子があって、座っている人が三人と、立っている人が三人。あれはお祖父ちゃんのガラスハウスだ。とても静かで、話し声や物音が一切しない。
ガラスハウスに入る。
…これって。
外から見えた人影、一番近くにあるそれに触れる。
「…石」
人影は石像の影だった。手を、石像の腕から顔へ伸ばす。
…お母さんの石像。
ここにあるのは、家族の石像。立っているのが、お母さんと燈とお祖母ちゃんの石像
で、座っているのがお父さんと祖父ちゃんと、僕の石像。
僕の前で立っている燈の石像が、両手を広げた大の字のポーズで既視感を覚えた。ちょうどこの場所で、前にもこんな事があったような気がする。
音もなく、何かが動いたような気配があった。辺りを見回す。木の葉は揺れていない。
何が動いた?
自分の石像と目が合った。
自分の石像が顔を上げて、僕を見ている…。
…あれは、もしかして石の自分?また、僕の負の心が出てきたのか?ミカとフェンリルとはぐれて弱気になった?
石の自分が立ち上がった。やっぱりそうか。僕は一歩踏み出して問いかける。
「…また出てきたのか?」
「いや」
石の自分は首を微かに振って、手を伸ばした。
負の心を打ち消すには、強気に出なきゃだめだ。
「いやって何だよ。僕の前に出てきるじゃないか」
「違う。そうじゃない。君が、僕で」
「もうわかってるよ!」
お前は僕の負の感情の現れなんだ。
「いい加減、おなえなんか消えろ!」
砂塵が舞った。顔を覆う。
しばらくすると砂塵は収まり、石の自分も消えていた。
「…何だったんだ?」
石の自分がいた後ろに石碑があった。
「『狭間の祠』だ」
椅子が、端の方で転がってる。石の自分が座ってた椅子が、さっきの砂塵で吹き飛んだんだ。
次の転移先に移動しようと『狭間の祠』へ近付こうとして、テーブルを挟んでお父さんとお祖父ちゃんの前を通った時、ふと違和感を感じて立ち止まった。
あれ?こんなだったっけ?
僕は、あまり深く考えずお父さんの石像に手を伸ばす。
『狭間の祠』がある場所がどんな場所かは知っていた。それでも僕が最初に思ったのが「なんだここ?」だった。
想像するのと体験するのは全然違う。複雑な形をした白い地が、浮遊島のように浮かんでいる。大きさは様々で、遠近感がよくつかめない。まるで白い万華鏡の中にいるような感覚だ。
それに、『反転の塔』で少し慣れたけどここは無重力。今僕たちは浮いている。
「どっち行けばいいんだ?」
前後左右上下、全方向に同じ万華鏡の空間が広がっている。複雑な形をしたものには規則性があるな。結晶が細胞のように丸まってると言うか、木が結晶のような形に成長したと言うか。
フェンリルがキョロキョロと周囲を伺っている。
「ここは空間が当てにならない。さっきの人が言ってたことを思うと、ココロの意思が示してくれるんじゃないかな?」
フェンリルが言うさっきの人とは、
「うん。『狭間の祠』に行く方法は、僕が目覚めるという意思を抱くことって言ってたよね」
「ココロがこの世界の意思なんだよね。だったら、ココロが行きたいように行けばいいってことだよね?簡単じゃん」
ほんとにそうなら、ミカの言うように簡単なんだけど。
「そんな適当でいいのかな?とりあえず、あそこに行ってみようか?」
とりあえず、一番最初に目についた正面の浮遊地を目指す。
「うん。行ってみよ」
この空間での移動は簡単に出来た。思うだけで体が自由に移動する。スーッと空間を滑りながら、体を捻ったりして動かしてみる。意識を右へ向けると右に滑る。下に向けると下に移動する。
僕とミカは体をまっすぐに伸ばして泳ぐようにして、フェンリルは空を駆けるようにして目的の浮遊地まで向かった。移動している間も、景色の変化、他のフラクタルの見え方の変化が変で、不思議な感覚になる。
目的の浮遊地まで近付くと、重力を感じてふわりと着地することが出来た。この浮遊地の大きさは、たぶん普通の大きさの家ぐらい。全体的に白一色で、表面は木の幹のような、木の根が張っているような形をしている。
降り立ったところの先に、中に入れそうな隙間があった。入っていくと行くと石碑があった。唯一白くない物、『狭間の祠』だ。
祠の表面は垂直に水が張っている。その水面に、自分の姿が映った。でも、ミカとフェンリルは映ってなくて、背景に薄暗い木々が映っている。
振り向くと木があった。そして暗い。地面に所々ライトがあり、周囲を照らしている。手入れされた草木が茂っていて、花壇もある。
…転移した。
「あ。フェンリル?ミカ?」
慌てて見渡す。フェンリルもミカもいない。はぐれるしまった。『狭間の祠』もない。
「…自分だけ転移した?…か、ミカとフェンリルは別々の場所に転移した?」
シナプスの光を試す暇もなかった…。
…そうだ。僕はこの世界の意思なんだから、意思を込めればミカもフェンリルも呼び出せる可能性はあるかも。
…ミカ、フェンリル。来て!
心の中で、強く意思を込める。
…。
何も起こらない…。
「ダメか。この世界の意思と言っても、できる事とできない事があるんだよな…」
たぶんできる事は自分自身の事と、自分が直接触れて、人を治したり浄化したりすることかな。とにかく、この場所を見てみよう。
近くには見覚えのあるガラスハウスがあった。ガラス越しに人影が見える。テーブルと椅子があって、座っている人が三人と、立っている人が三人。あれはお祖父ちゃんのガラスハウスだ。とても静かで、話し声や物音が一切しない。
ガラスハウスに入る。
…これって。
外から見えた人影、一番近くにあるそれに触れる。
「…石」
人影は石像の影だった。手を、石像の腕から顔へ伸ばす。
…お母さんの石像。
ここにあるのは、家族の石像。立っているのが、お母さんと燈とお祖母ちゃんの石像
で、座っているのがお父さんと祖父ちゃんと、僕の石像。
僕の前で立っている燈の石像が、両手を広げた大の字のポーズで既視感を覚えた。ちょうどこの場所で、前にもこんな事があったような気がする。
音もなく、何かが動いたような気配があった。辺りを見回す。木の葉は揺れていない。
何が動いた?
自分の石像と目が合った。
自分の石像が顔を上げて、僕を見ている…。
…あれは、もしかして石の自分?また、僕の負の心が出てきたのか?ミカとフェンリルとはぐれて弱気になった?
石の自分が立ち上がった。やっぱりそうか。僕は一歩踏み出して問いかける。
「…また出てきたのか?」
「いや」
石の自分は首を微かに振って、手を伸ばした。
負の心を打ち消すには、強気に出なきゃだめだ。
「いやって何だよ。僕の前に出てきるじゃないか」
「違う。そうじゃない。君が、僕で」
「もうわかってるよ!」
お前は僕の負の感情の現れなんだ。
「いい加減、おなえなんか消えろ!」
砂塵が舞った。顔を覆う。
しばらくすると砂塵は収まり、石の自分も消えていた。
「…何だったんだ?」
石の自分がいた後ろに石碑があった。
「『狭間の祠』だ」
椅子が、端の方で転がってる。石の自分が座ってた椅子が、さっきの砂塵で吹き飛んだんだ。
次の転移先に移動しようと『狭間の祠』へ近付こうとして、テーブルを挟んでお父さんとお祖父ちゃんの前を通った時、ふと違和感を感じて立ち止まった。
あれ?こんなだったっけ?
僕は、あまり深く考えずお父さんの石像に手を伸ばす。