第43話 アクアリウム6階( 12月18日 その時まで12日))
文字数 2,588文字
あら?誰かしら?この子?
「燈 ちゃん、その子は?」
いつの間にか、燈ちゃんが知らない女の子と手を繋いでいる。ブロンドヘアの可愛らしい子で、燈ちゃんよりも小さな女の子だ。
燈ちゃんは満面の笑みを浮かべて「わかんない」と言う。
わかんないって…。
近くに親はいないのかなと周囲を探そうとしたとき、女の子の隣にいた青年がこちらに気が付いた。
「あ。すみません。琥子 ちゃん。手を繋いでもらってるの?」
ブロンドの少女はにっこりとして「ヒィー」と掠れた息をもらした。
憶 くんも「あれ?」という感じで、今、燈がブロンドの子と手を繋いでいるのに気づいた様子だ。
「ココちゃんっていうの?」と、燈ちゃんがブロンドの女の子に尋ねると、ブロンドの女の子はにっこり笑って、また「ヒィー」と息をもらし頷く。
「ココちゃん、いっしょに見よー」
「ヒィー」
「あらあら。すみません。うちの子も気が合うようで」
「いえ、こちらこそすみません。よろしければ、一緒に回りましょうか?」
「そうですね」
青年は礼儀正しい印象で、かなり若く見える。でもお兄さんにしては歳が離れているから、父親だろうか?聞いてみよう。
「お子さんですか?」
「はい。琥子といいます。琥子ちゃん、挨拶できるかなあ?」
呼ばれた琥子ちゃんは振り向いて「ヒィー」と息をもらしながら可愛らしいお辞儀をした。
私は掠れた声が気になって、返事がワンテンポ遅れてしまった。
「こんにちは。ココちゃん。燈ちゃんと憶くんも挨拶しようか」
「憶です。こんにちは」
「ひかりです」
「こんにちは。こころくん、ひかりちゃん」
青年は飾岡 と名乗った。飾岡さんはベイシティーコーストエリアに住んでいて、ここには何度か来たことがあると話してくれた。ココちゃんを連れて来るのは今回で二度目らしい。
「ココちゃん、イルカさんは、生まれる前は光の海にいたんだって」
「フィファフィー、ヒィー」
「うん。うん」
「ファー」
燈ちゃんは、ココちゃんの声のことは全然気にならないようで、楽しそうに会話しているように見える。子供たちが充分イルカを鑑賞し満足したところで、私たちは順路を進み六階に下りた。
六階の水槽は、四階から吹き抜けのようにつながっていて、ベイシティー・ビーチ・アクアリウムのメイン水槽になる。優雅に水中を舞うエイの群が一際目を引いた。
隣で「おおぉ」と声が上がった。見みると、巨体がぬーっと水槽を横切っている。
「うわっデカ」
「おっきー」
ジンベイザメだ。
「憶くん、燈ちゃん、ジンベイザメだよ」
「あっちにもいる」
憶くんが指差す水槽の下の方にももう一頭いた。
「燈ちゃん、すごくおっきいねえ」
「おおきい!」
燈ちゃんは、また海の動物とおしゃべりを始めた。そのおしゃべりにはココちゃんも加わっている。
「生まれる前は、どこにいたの?」
「ヒィー」
「うん。ひかりもそうだよ」
「ヒィー」
「うん。ママのおなかに入る前はどこにいたの?」
「ヒィー」
「へぇ〜。光の海〜。イルカさんとおんなじだね。ひかりはお空の上だよ。ココちゃんは?」
「フゥー、ヒィー」
燈ちゃんの質問に、ココちゃんは楽しそうに身振りを交えて訴えている。
「わあ〜。すごいねココちゃん!」
何がすごいんだろう?
「おしろ〜。すごいすごい」
お城!?
ほんとにココちゃんは、お城って言いたかったのかな?
燈が勝手に話を作ってるだけじゃなくて…。ココちゃんは頷いてニコニコしているし、本当に通じ合ってる?
「ひかりちゃん、すごいですね。琥子と、通じ合えてるみたいです」
「子供って不思議なところがありますよね」
「僕も、琥子の言っていることがわかるようになったんですけど、時間がかかりました。最初の頃は全然わからなくて」
「ココちゃんの声は?」
話の流れ的に、気になっていたことを尋ねてみる。
「失声症です。精神的な原因で声が出せなくなったんですけど、もう一年になります」
私には失声症というのがどういう病気なのかわからなかったので「そうなんですね」としか言えなかった。
「琥子は、ひかりちゃんと心が通じるのがわかったから、手を繋いだんですね」
そう言われて、私は燈ちゃんのことを誇らしく感じた。
「燈は、ぬいぐるみとおしゃべりするのが好きな子で、動物やお花ともおしゃべりします。お互いに楽しそうで、いいですね」
私たちはそのまま子供たちのペースで順路を進み、五階と四階ではメインの水槽を別の高さから鑑賞した。三階は暗い部屋になっていて、幻想的なクラゲの水槽が並んであった。
クラゲのセクションを出ると、明るい展示スペースになっていた。海洋生物の写真が展示されている。
二頭のジンベイザメの写真もあり、それぞれ『ダイアくん』『プラチナちゃん』とタイトルが貼ってある。
エイにアザラシ、エトピリカ、カワウソの写真もある。エトピリカの名前がおもしろ可愛く、三頭のカワウソファミリーの名前もセンスを感じる。
写真の展示スペースの隣にはモニターがあって、イルカの出産シーンが流れていた。憶くんも燈ちゃんもココちゃんも、映像に興味を惹かれている。
「わぁー。赤ちゃんー?」
「うん。尾鰭だ」
ゆっくりと旋回するように泳ぐお母さんイルカから、するっと尾鰭から赤ちゃんイルカが出てきた。画面に「アンバー誕生!!」とテロップが流れる。
「生まれた」
「生まれたー!」
「ヒィー!」
お母さんイルカは赤ちゃんが産まれると、すぐに赤ちゃんイルカに体を寄せるようにして支え、赤ちゃんイルカを水面に押し上げた。
モニターの隣のボードにはイルカ親子の写真がたくさん貼ってあって、お母さんイルカの名前はパールと書いてあった。
「お父さん。アンバーって琥珀のことだっけ?」
「そうだよ」
「ヒィー、ヒィー」
「琥子ちゃんと一緒だね」と、飾岡さんがココちゃんの頭を撫でて「琥珀の琥に子供の子で、琥子です」と教えてくれた。
「素敵な名前ですね」
「ココちゃん、イルカちゃんといっしょだねー。アンバーも、光の海の上の、おしろから来たのかもねー」
琥子ちゃんは嬉しそうに声をもらす。
映像の中のアンバーが、まるで燈ちゃんと琥子ちゃんに応えるかのようなタイミングで水面に顔を出し、尾鰭を振ってバシャッと煌めく水飛沫を上げた。
「
いつの間にか、燈ちゃんが知らない女の子と手を繋いでいる。ブロンドヘアの可愛らしい子で、燈ちゃんよりも小さな女の子だ。
燈ちゃんは満面の笑みを浮かべて「わかんない」と言う。
わかんないって…。
近くに親はいないのかなと周囲を探そうとしたとき、女の子の隣にいた青年がこちらに気が付いた。
「あ。すみません。
ブロンドの少女はにっこりとして「ヒィー」と掠れた息をもらした。
「ココちゃんっていうの?」と、燈ちゃんがブロンドの女の子に尋ねると、ブロンドの女の子はにっこり笑って、また「ヒィー」と息をもらし頷く。
「ココちゃん、いっしょに見よー」
「ヒィー」
「あらあら。すみません。うちの子も気が合うようで」
「いえ、こちらこそすみません。よろしければ、一緒に回りましょうか?」
「そうですね」
青年は礼儀正しい印象で、かなり若く見える。でもお兄さんにしては歳が離れているから、父親だろうか?聞いてみよう。
「お子さんですか?」
「はい。琥子といいます。琥子ちゃん、挨拶できるかなあ?」
呼ばれた琥子ちゃんは振り向いて「ヒィー」と息をもらしながら可愛らしいお辞儀をした。
私は掠れた声が気になって、返事がワンテンポ遅れてしまった。
「こんにちは。ココちゃん。燈ちゃんと憶くんも挨拶しようか」
「憶です。こんにちは」
「ひかりです」
「こんにちは。こころくん、ひかりちゃん」
青年は
「ココちゃん、イルカさんは、生まれる前は光の海にいたんだって」
「フィファフィー、ヒィー」
「うん。うん」
「ファー」
燈ちゃんは、ココちゃんの声のことは全然気にならないようで、楽しそうに会話しているように見える。子供たちが充分イルカを鑑賞し満足したところで、私たちは順路を進み六階に下りた。
六階の水槽は、四階から吹き抜けのようにつながっていて、ベイシティー・ビーチ・アクアリウムのメイン水槽になる。優雅に水中を舞うエイの群が一際目を引いた。
隣で「おおぉ」と声が上がった。見みると、巨体がぬーっと水槽を横切っている。
「うわっデカ」
「おっきー」
ジンベイザメだ。
「憶くん、燈ちゃん、ジンベイザメだよ」
「あっちにもいる」
憶くんが指差す水槽の下の方にももう一頭いた。
「燈ちゃん、すごくおっきいねえ」
「おおきい!」
燈ちゃんは、また海の動物とおしゃべりを始めた。そのおしゃべりにはココちゃんも加わっている。
「生まれる前は、どこにいたの?」
「ヒィー」
「うん。ひかりもそうだよ」
「ヒィー」
「うん。ママのおなかに入る前はどこにいたの?」
「ヒィー」
「へぇ〜。光の海〜。イルカさんとおんなじだね。ひかりはお空の上だよ。ココちゃんは?」
「フゥー、ヒィー」
燈ちゃんの質問に、ココちゃんは楽しそうに身振りを交えて訴えている。
「わあ〜。すごいねココちゃん!」
何がすごいんだろう?
「おしろ〜。すごいすごい」
お城!?
ほんとにココちゃんは、お城って言いたかったのかな?
燈が勝手に話を作ってるだけじゃなくて…。ココちゃんは頷いてニコニコしているし、本当に通じ合ってる?
「ひかりちゃん、すごいですね。琥子と、通じ合えてるみたいです」
「子供って不思議なところがありますよね」
「僕も、琥子の言っていることがわかるようになったんですけど、時間がかかりました。最初の頃は全然わからなくて」
「ココちゃんの声は?」
話の流れ的に、気になっていたことを尋ねてみる。
「失声症です。精神的な原因で声が出せなくなったんですけど、もう一年になります」
私には失声症というのがどういう病気なのかわからなかったので「そうなんですね」としか言えなかった。
「琥子は、ひかりちゃんと心が通じるのがわかったから、手を繋いだんですね」
そう言われて、私は燈ちゃんのことを誇らしく感じた。
「燈は、ぬいぐるみとおしゃべりするのが好きな子で、動物やお花ともおしゃべりします。お互いに楽しそうで、いいですね」
私たちはそのまま子供たちのペースで順路を進み、五階と四階ではメインの水槽を別の高さから鑑賞した。三階は暗い部屋になっていて、幻想的なクラゲの水槽が並んであった。
クラゲのセクションを出ると、明るい展示スペースになっていた。海洋生物の写真が展示されている。
二頭のジンベイザメの写真もあり、それぞれ『ダイアくん』『プラチナちゃん』とタイトルが貼ってある。
エイにアザラシ、エトピリカ、カワウソの写真もある。エトピリカの名前がおもしろ可愛く、三頭のカワウソファミリーの名前もセンスを感じる。
写真の展示スペースの隣にはモニターがあって、イルカの出産シーンが流れていた。憶くんも燈ちゃんもココちゃんも、映像に興味を惹かれている。
「わぁー。赤ちゃんー?」
「うん。尾鰭だ」
ゆっくりと旋回するように泳ぐお母さんイルカから、するっと尾鰭から赤ちゃんイルカが出てきた。画面に「アンバー誕生!!」とテロップが流れる。
「生まれた」
「生まれたー!」
「ヒィー!」
お母さんイルカは赤ちゃんが産まれると、すぐに赤ちゃんイルカに体を寄せるようにして支え、赤ちゃんイルカを水面に押し上げた。
モニターの隣のボードにはイルカ親子の写真がたくさん貼ってあって、お母さんイルカの名前はパールと書いてあった。
「お父さん。アンバーって琥珀のことだっけ?」
「そうだよ」
「ヒィー、ヒィー」
「琥子ちゃんと一緒だね」と、飾岡さんがココちゃんの頭を撫でて「琥珀の琥に子供の子で、琥子です」と教えてくれた。
「素敵な名前ですね」
「ココちゃん、イルカちゃんといっしょだねー。アンバーも、光の海の上の、おしろから来たのかもねー」
琥子ちゃんは嬉しそうに声をもらす。
映像の中のアンバーが、まるで燈ちゃんと琥子ちゃんに応えるかのようなタイミングで水面に顔を出し、尾鰭を振ってバシャッと煌めく水飛沫を上げた。