第25話 悪人の最期とサヨウナラ

文字数 4,502文字

 ツギハギの悪魔の実力は誰にも分からない。本人ですら、分かっていない。
 「さて、試運転といこうか」
 イヤーゴは翼を広げ、エスポワールめがけて飛び立った。
 「待て、イヤーゴ」
 私達は追いかけながら、攻撃を繰り出した。
 「チッ、うっとおしい」
 イヤーゴは地上に降りた。
 「こうなったら、てめぇらで試運転だ」
 「イヤーゴ、土門を返せ」
 「はっはっは、返すわけないだろう。アイツは、もう俺様の一部だ。取り返せるもんならやってみな」
 「言われなくてもやってやるさ。カムイ無双流・震槍」
 イヤーゴは、わざと攻撃を受けた。
 (何?)
 「どうした、それだけか?」
 「ひ、ひきょうだぞ。イヤーゴ」
 イヤーゴは土門を浮かび上がらせた。こちらの攻撃は土門がダメージを受ける。傷つく。もう攻撃なんてできない。
 (どうしたらいいんだ)

 「オラオラ、どうした。さっきの勢いはどうした」
 それ以降、防戦一方だった。反撃しようとすれば、土門を浮かび上がらせる。
 (しまった)
 私はイヤーゴの攻撃を完全には、かわすことができなかった。血が流れる。
 「ギャハハ、いいぞ。もっと血を流せ、オ○ロ。キサマが苦しむ姿は気分がいい。もっとだ、オラオラ」
 身体から血が流れる。
 (どうしたら、土門を救える。考えるんだ)
 外から攻撃できないんだ。いっそのこと、ヤツの中に入って攻撃したらどうだろう? 一寸法師もそうして敵を倒した。
 (さて、どうするかな?)

 問題はどうやって中に入るかだ。何とか口を大きくできないものか。イヤーゴの攻撃をかわしながら、隙をうかがっていた。
 「『太陽』待たせたわね。いいわよ、ジェンイー」
 「撃てぇ」
 大砲から放たれた火炎弾がイヤーゴを襲う。流石のイヤーゴも火炎は防げない。翼を広げ、上空へ飛び上がった。
 「まずはお前から始末してやるデスデーモナ。すべては、お前がいけないんだ」
 「なんでよ。デスデーモナはあなたに何もしていないでしょう。勝手なことを言わないでよ」
 「うるさい、白猫。デスデーモナさえ、俺に振り向けばよかったんだ。すべてはオ○ロ、アイツがいけないんだ」
 「勝手なことを言うな、イヤーゴ。お前の相手はここにいるぞ。今こそ、お前との因果を決着してやる」
 オ○ロが幻影として現れた。
 「チッ、オ○ロ。うるせー、お前はいつもそうだ。高くとまりやがって、誰のおかげで戦に勝ってきたと思っているんだ」
 「お前こそ、うぬぼれるな。一人の力で戦に勝利できる訳がないんだぞ。みんなで団結して戦ったから勝てたんだ。勘違いをするな!」
 「うるせー。どっちが正しいか証明してやる。力の違い、格の違いを見せつけて、お前とデスデーモナをひねりつぶしてやる。そして、この世界を支配してやるぞ。ギャハハ」
 興奮して叫ぶイヤーゴ。救いようがない、闇にのみこまれている。
 「そんなことをさせるかー」
 (そうだ。大砲を使おう)
 「先ずは、お前達からだ。オ○ロ、黒猫」
 私は城壁をよじ登るとジェンイーにデズデモナのことを守ってくれるように頼んだ。砲台に乗って、照準を合わせる。
 「くらえ、イヤーゴ」
 「させるかー」
 イヤーゴは大砲ごと私をのみ込んだ。作戦通り。
 「いやー、『太陽』」
 「月」の叫び声が響いて、私の元にも届いていた。
 (ゴメンよ、「月」。こうするしかないんだ)

 「ギャハハ、ついにオ○ロを始末したぞー。これでジャマ者はいなくなった。これで俺様の天下だ」
 「ふざけないで、私の『太陽』を返しなさい」
 「ギャアギャア、うるせー。お前も一緒に飲み込んでやるよ」
 大きく口を開くイヤーゴ。
 「キャー」
 絶体絶命の白猫を前にして、イヤーゴは動きがおかしい。
 「・・・今の内に・・・『るなさま』・に・げ・て・く・だ・さ・い・・・」
 わずかな土門の意識がイヤーゴの歩みを止めた。身体がイヤーゴの表面に浮かび上がる。必死に彼女を守ったのだ。
 その隙にジェンイーが救いだした。
 「これはどういうことだ。説明しろ、デズデモナ」
 「詳しいことは分からない。でも、あの化け物に同級生の土門君が取り込まれているの」
 「こちらからは攻撃できないということか、都合のいい人質というわけだな」
 「そうね。現状は、お手上げよ」
 イヤーゴが街に向かってゆっくりと歩きだした。

 土門の意識が限界を迎えた。
 「ギャハハ、ついに力尽きやがった。バカなヤツだ。俺様を押さえ込むなんて人間の分際で、できる訳がないだろう。先ずはこの街から破壊してやる。街の名前がオテロなんて、気に入らん。ぶっ潰してやる」
 「ふん。それがお前にできるのならば試してみるがいい」
 上空から現れたルシファーが城壁の上でイヤーゴと対峙する。
 「くらえ」
 イヤーゴが城壁を破壊しようとパンチを繰り出した。ルシファーはパンチの当たる部分にシールドを配置した。
 「おろかな。その程度とはな・・・。準備体操にも、ならん」
 ルシファーの一言にイヤーゴはキレた。連続パンチを繰り出した。その都度、ルシファーはシールドを配置。まるで遊んでいるかのようにイヤーゴをあしらった。
 「チッ、こうなったら・・・」
 イヤーゴは身体全体を巨大化。頭に血がのぼっていた。

 「今だ。オテロ」
 私はイヤーゴの身体の構造が薄くなる瞬間を見逃さなかった。その頃、意識のなかった土門を救出し、脱出するタイミングを計っていた。
 (行くぞ、土門)
 「カムイ無双流・震槍」
 「グオォ、止めろ。腹がイテェ」
 私は腹を突き破り、脱出。土門を救出した。
 (く、臭い。鼻が曲がる)
 私は胃酸や消化物まみれだった。虎のマスクはボロボロ。ハギレ状態だった。城壁の下に流れる堀に飛び込んだ。マスクは流れていった。土門を先に上げた。
 (よし、決着をつけよう)

 堀からあがり、イヤーゴに向かう。
 「イヤーゴ、覚悟しろ」
 「キサマー、よくもやりあがったな。殺してやる」
 腹を押さえ、無理やり止血を行っていた。
 「オテロ、久しぶりだな。元気そうで、なによりだ」
 ルシファーが私の側に立った。
 「そういえば、君に会ったら聞こうと思っていたんだ」
 「ほう、何だ。言ってみろ」
 「君は闇の特異点と光の特異点の因果を知っていたのだろう。違うかな?」
 「あぁ、知っていた。この世界が巻き込まれることもな」
 (やっぱりね)
 私はルシファーが必ず隠し事をしていると確信していた。
 この世界のピンチを一人で救おうとしていたのだ。
 (でも・・・)
 まだ何か違和感があるような・・・。

 答えが見つかったような、見つからなかったような、なんだか、もどかしい。
 「オテロ、君は世界を救うために何かを捨てなくてはならなかったら、家庭、仲間、赤の他人の内から、どれを捨てる。答えを聞かせて欲しい」
 (この一大事に何を言っているのだろう?)
 普通はもちろん、赤の他人だ。家庭や仲間は大事だ。一番に守るべきものだろう。でも、私の答えはこの中に無い。
 「私ならすべてを捨てない。理想と笑われてもそれを現実的に変えてみせるさ」
 「ははは、そうだろうな。君ならそう言うと思っていた。光の特異点、オテロ。君のような存在を待っていたのだ。枠に収まらない存在の特異点をな。すべての民を救うために行くぞ、オテロ。最終決着だ」
 ルシファーはこの世界のすべてを守ろうとしていたんだ。たった一人で背負っていたんだ。
 「この愛すべきオセロニア世界のために」
 それが答えだ。私はルシファーも救うべき仲間の一人だと思っている。「困った時には、友を頼れ」と教えてあげたい。一人で背負うことはない。この世界には素晴らしい仲間がたくさんいるのだから・・・。

 「行こう、ルシファー。悪を討つんだ」
 イヤーゴは再び、動きだした。
 「バカなヤツらだ。おかげで回復したぜ。血祭りにあげて欲しいヤツから、かかってこい」
 「・・・そうか、なら私から行こう。くらえ、シャイニングフォース」
 背後からゼルエルの攻撃。イヤーゴの羽を切り裂いた。
 「これで、お前は飛べないぞ。行けー、オテロ」
 「おのれー」
 「どこを向いている。お前の相手はこっちだ。『ネオ・ミアズマ・ゴッデス』」
 イヤーゴはルシファーにより、攻撃力をさげられ、体力を奪われ、特殊魔法攻撃による追加ダメージをくらった。
 「ありがとう、ルシファー、ゼルエル。行くぞ、イヤーゴ。これで終わりだ。カムイ無双流・砕拳」
 (よし!)

 手応えがあった。渾身の一撃。しかし、イヤーゴは倒れていなかった。ヤツが最期にみせた意地だった。
 「これで勝ったと思うなよ。また復活してお前を地獄へ送ってやる。なんせ、俺様は闇、その物だからよー。人間がいる限り、闇はなくならないんだからな、ギャハハ」
 「うるせー、消えろ」
 レグスはいらだち、イヤーゴを切り裂いた。悪人イヤーゴの最期だった。
 (終わったんだな)
 オ○ロとイヤーゴの長きにわたる因縁が幕を閉じた。

 私は今、正座をしている。オマケに頬をつねられていた。
 「痛いよ、『月』。許してよ、ゴメン」
 「いいえ、許さない。あなたは約束を破ったのだから・・・。私がどれだけ心配したか、分かっているの?」
 力一杯、頬をつねられた。ちょっとは加減をしてほしい。
 (痛いよ)
 「本当にゴメン。あれしか土門を救う方法を思いつかなかったんだ」
 「私はあなたが目の前で死んだと思ったのよ。もう二度とあんなことはしないで、いいわね。約束よ」
 「はい、約束します。ごめんなさい」
 「じゃあ、いいわ。土門君が助かったから、特別に許してあげる」
 (やれやれ・・・)
 やっと解放された。これだから連れてきたくなかったんだ。

 少し離れた所で、土門がキョトンとしていた。「月様」を怒らせてはいけないと思ったのかもしれない。近寄って話をした。
 「土門、実はね。私と彼女は付き合っているんだよ」
 「なにー、許さん」
 私は背負い投げをくらった。地面に叩きつけられ、青い空が見えていた。地面に大の字となった。
 「でも、まー、なんだ。助けてくれてありがとうな。富士見」
 「あぁ、一つ『貸し』にしておくよ。土門」
 手を引っ張りあげ、起こしてくれた。
 「あまりモタモタしていると『月様』に怒られるからな。行こうぜ」
 「あぁ、そうしよう」
 (さぁ、帰るとしますか。もう、この世界へ戻ってくることはないだろうな。サヨウナラ、オセロニア世界。みんな、ありがとう)

 月は、わざとらしく私とキスをした。女性陣の見ている目の前で・・・。彼女の作戦だった。
 「ゴメンね。私の彼氏なの」
 一言だけ、付け加えた。この世界の女性陣に手を引かせるためだった。
 私達はみんなに見送られ、元の世界へと帰ってきた。
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登場人物紹介

白猫のデズデモナ。十六夜家の飼い猫。

特異点であるデスデーモナの魂が宿る。

月の部屋で普段は過ごしている。

黒猫のオテロ。野良猫達から「将軍」と恐れられている。現在、富士見家の飼い猫。特異点であるオセロの魂を宿す。

灰色のヤーゴ。土門に拾われる。

特異点であるイヤーゴの魂を宿す。

デスデーモナとオセロを恨んでいる。

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